文鳥学講座


第2回 ー飼育書の検討ー

「何事もマニュアルどおりでうまくいったことがありますか?」

 とはいうものの、何事につけ、マニュアルがあったほうが心強い。文鳥の飼育の場合は、内心このホームページの飼い方・育て方の内容程度で十分事足りると思っているし、前回書いたように、他の文鳥関係のホームページを閲覧し、自分にあった部分をつまみ食いしていけば完璧に自分の流儀をつくることが出来ると思う。しかし形状のある物体が手元に欲しいのがアナログな人情というもの。それなら市販されている飼育書くらい買っておいても良いかもしれない。

 そこで、世の中にどれぐらい文鳥飼育書があるのか勝手に調べ、8冊の文鳥専門の飼育書の存在を確認した(文鳥専門にこだわらなければより多く検出できるが、専門書に絞った)。

【1】 『文鳥の飼い方』 野口信夫 永岡書店 1967年
【2】 『ブンチョウの飼い方ふやし方』 実吉達郎 日本文芸社 1970年
【3】 『ブンチョウ−飼い方・ふやし方・手乗りの仕立て方』 宗こうすけ 金園社 1978年
【4】 『ブンチョウの飼い方』 高木一嘉 有紀書房 1978年
【5】 『たのしいブンチョウの飼い方ふやし方』 鷲尾絖一郎 新星出版社 1980年
【6】 『よくわかるブンチョウの飼い方ふやし方』 大久保巨 土屋書店 1984年
【7】 『ブンチョウの飼い方・ならし方』 前澤和明 ナツメ社 1985年
【8】 『文鳥の本』 江角正紀 ペット新聞社 1999年
 

→→→ 〜2007年まで発行された飼育本についての   ・・・ 勝手な感想

↓以下感想はブログ記事↓

『ザ・文鳥』 伊藤美代子 誠文堂新光社 2010年 【お薦め指数 ☆】感想

『楽しい文鳥生活のはじめ方』 濱本麻衣 ナツメ社 2015年 【お薦め指数 ★】感想

 もちろんこれらの内、個人的に持っているのは【4】だけなので、とりあえず図書館で借りることにして、【2】〜【7】を通読した。感想は趣味以外で収集するのでもない限り、かえって混乱するので買うのは一冊の方が良いというものだった。何しろ、どの本も基本的な部分ではたいして変わらないものの、応用的には飼育環境、著者の思想によって、飼育の流儀も異なっており、同じ問題でも意見が正反対になったりしているのである。
 とはいえ、内容が間違っているわけではない。少しでも思考錯誤しながら文鳥を飼っていくと、それぞれのライフスタイルや思想によって飼育の方法も異なってくるのはやむをえないのだ。どの飼育書もそれぞれの著者の経験に基づいたもののはずなのである。

 しかし、普通マニュアルを必要とするのは、文鳥を飼い始めて日の浅い人のはずで、そういう人はたまたま手にした飼育書の内容を絶対的なものと誤解する恐れが十分過ぎるほどにあるのではないかと心配してしまう。だれもが陥るマニュアルのわな…。

※ なお私は、現在五代14羽飼い、飼育暦は20年になると自慢しているようだが、実は家でカゴ飼いする場合何羽飼おうと、何年飼おうとほとんど問題ではないと思っている。いろいろ考えながら3年も飼えば、誰でもその家における飼育のプロである。逆に何にも考えなければ何百年飼っていても意味がない。

 何か飼育書などというと、一見専門的で完全無欠に正しいような気がしてしまうが、実は個人的な飼育例にすぎず、どれほど不変的なものであるかは怪しいものだと私は思う。たまたま筆者とその周辺で起きた飼育上の現象に対して、行った処置がうまくいき、後からそれに理屈をつけたにすぎないのが実際ではなかろうか。つまりは思い込みである。

※ 例をあげればきりがないが、ある本に青菜をたくさん与えると下痢になるとされているのは、毎日与えずとも著者の文鳥は元気に育つという事実と、小松菜を与えた時にたまたま体調を崩したという事実から遡及的にその理由を考えた結果としか思えない。客観的な科学性の存在は?である。
 逆に、一般に換羽期には水浴びは控えさせるとされているのは、確かに換羽は文鳥の体力を消耗させるから(換羽が遅れるからなどという不思議な理由を挙げるものもある)、水浴びのような過度の運動は控えるのが客観的な科学性からも正しいようだが、栄養豊富に育てられるペットとしての文鳥に対して、それほど神経質になる問題であるかは非常に疑問である(
それは昔の旅人がきつい峠にさしかかると行き倒れになったのに似ているかもしれない。坂道を前にした現代人は根を上げることはあっても、衰弱死することなど考えられないではないか)

 同じ現象が起きても、それが同じ理由によるものか、保証はどこにもない。したがって、「飼育書にあるとおりにやったけど、駄目だった」というのはむしろ当たり前、受験参考書のとおり勉強したところで、合格するという保証はないのと同じなのである。

 しかし、このようなマニュアル一般にあてはまる教訓を、失敗してしまった後に実感しても意味がない。そこでおもに初心者の参考のために、飼育上問題になりそうな点を含め、読後の個人的感想を一つずつに加えてみようと思う。ただし、私は文鳥の一般的な飼育の姿は以下の三点であると信じており、それを感想や批判の基礎にしているので、留意してもらいたいと思う。

1、文鳥は手乗りにするものだ。 2、文鳥は室内でカゴ飼いするのが普通の姿だ。 3、手乗り文鳥とは毎日カゴの外で遊ばねば意味がない。(お薦め指数は、☆が1点、★が0.5点の5点満点評価です。あくまでも個人的な主観ですが、初心者が知っておくべき内容の充実度、初心者の飼育を危険にする内容の有無を基準にしています)

 【2】は古い体裁の本だが、個人的に親近感をいだく内容となっている。飼育書などというのは普通キレイ事が多く、「かくあるべし」的な面があるものだが、著名な動物研究者によるこの本には「怠け者向きの飼育法」というコーナーがあって、文鳥を飼って楽しむのを第一とし、教条的な考えを批判している点に心から共鳴した。全体の文章も面白いので読みやすく、基本も押さえてあるので、古い本だがお薦めである。ただ繁殖に関して、子育てまで出来るメスは全体の一、二割だとか、オスは卵を温めないから卵が生まれたら引き離したほうが良いとしているのは、少し暴論ではないかと思う。だいたいそれが本当なら文鳥などという小鳥はとっくに絶滅しているはずである。オスを引き離したり不自然なことをするからメスが育児放棄してしまうのだという気がしてしまう。

お薦め指数 ☆☆★

 【3】ははじめがすごい。自作らしい文鳥の詩が載っている。「淋しい! ホカニ誰モ居ナイ部屋 「キョ・キョッ」 「キョ・キョッ」・・・・・」というものだが、正直言って、この人は大丈夫なのかと疑ってしまった。もちろん筆者は野鳥に造詣の深い立派な方で、内容にも自然派の思想が見え隠れしている。例えば、文鳥には小松菜だけでなくいろいろな野菜を食べさせるべきで、野草も大いに利用すべきだと主張されている。しかし都会の公園の隅に生えてるタンポポやハコベのようなものには、土壌汚染を疑う必要があるのが現在の悲しい現実であろう。その点無理して野草を探すより、HP『JapaneseRicebird』お薦めの豆苗やHP『ぶんちょといっしょ』などが薦めているチンゲンサイなどに置き換えて考えたほうが良いだろう。しかし全体としてはオーソドックスで安心できる内容であり、新書サイズで手軽という利点がある。ただ今となっては入手困難かもしれない。

お薦め指数 ☆☆☆

 【4】は小学生の頃から我が家にある本で、私の文鳥知識の基本となっている。内容は少し古臭い気もするが、それだけオーソドックスで手堅く、何よりも構成が読みやすく工夫されているので、ページをめくっていて好感が持てる。中には、桜と白をペアにすると両方の子が生まれるとか、白には体質の劣化があるという個所などは、個人的に首肯できない(えてして胡麻塩頭となり、また白に劣化があるとすれば繁殖先の怠慢からくる近親交配が原因だと思うし、遺伝子レベルの問題で白と白の卵は25%の確率で中止卵となるという研究があるが、これは体質とは別問題である)部分もあるが、比較的入手しやすく、なおかつ最近一回り大きくなり値段も安い(1000円)新版が出ており、初心者が一冊手元におくのにお薦めだと思う。

お薦め指数 ☆☆☆★

 【5】は筆者の飼育の仕方がナマで伝わってくる本だが、それだけに、なかなか問題のある本のように思える。例えば、良く慣れていれば外に出しても逃げないと力説されているが、それはヒナ段階で外に出して餌付けをするとかしていた場合のことで、普通はどんなに慣れていても外には出すべきではないだろう。筆者は文鳥を肩に止まらせて、外歩きしていたようだが、それは残念ながら特例なのである。また羽は絶対に切ってはいけないと主張されているが、これもケースバイケースだと思う。確かに羽を切らずにすめばそれに越したことはないが、飛翔能力が高いと室内で放し飼いにする時に衝突などの事故の元にもなる。また保温におけるコタツ利用を薦めている様子だが、これもかなり注意書きの必要な行為のはずである。個人的には筆者の思い入れがヒシヒシと伝わってきて楽しかったが、批判力のない初心者には少し注意を要する部分が多いかもしれない。

お薦め指数 ☆★

 【6】は【5】の作者の友人の本とされているが、確かにかなり内容は似ている。【5】の問題となりそうな提言を削り、より一般的にした印象を受ける。写真が無駄に多く感じられ、構成上あまり見やすい本とは言えないが、内容は基本をしっかり押さえているし、さらに巣引きのための細かいQ&Aや、ヒナ毛段階で、どのような成鳥になるかの解説などは、文鳥飼育者にとって至って親切で的を得ている。現在もわりに入手しやすい本でもあり、こちらは安心してお薦め出来る。ただ、手乗り文鳥のメスは繁殖に向かないので、三ヶ月ほど遊ばず、手乗りであるのを忘れさせるとする部分は納得いかない。どうして手乗りの愛鳥を繁殖のためにカゴに閉じ込めたり出来るものだろうか。絶対その手乗り文鳥で繁殖させたいとすれば、あるいは必要な行為かもしれないが、繁殖のために信頼している人間との関係を断つというのは本末転倒な行為だと私は思う。手乗りにしてしまったからには遊んでやるのが飼い主の義務ではなかろうか。

お薦め指数 ☆☆☆

 【7】は飼鳥クラブ『東京ピイチク会』を創設された方がお書きになった本で、さすがに手堅くまとまっている。ただ、あえて難癖をつけるなら、一般個人飼育者の視点から少し離れているように思われる点だ。繁殖がうまくいかないなら違う文鳥に取り替えるとか、日没には眠らせ夜更かしさせないという著述があるが、それは禽舎で数十羽単位で飼育する副業的繁殖家であってはもっともな話でも、室内の鳥カゴで数羽の手乗り文鳥を飼っているような一般の飼育者の出来る技ではないはずである。もちろん基本は十分押さえられているので、一般的にも安心して参考に出来るが、副業的繁殖家を目指す場合の入門書として、より最適な本といえるかもしれない。

お薦め指数 ☆☆☆

※ 本来、最新で、かつHP『ピンクのクチバシ…』お薦めのGは話題も豊富なようで必見なのだが、一身上の都合(ケチ)のため読んでいない。しかし、せっかく一冊買うなら新しいものの方が良いかもしれない。この本については読む機会があったら(つまり買ったら)補足したいと思う。
 
            →→→→→ 〔その補足〕 2000・6末 【8】を入手!

 ざっと見ただけでも、勤勉に一冊の飼育書の内容を実践すると、場合によって、いらぬ問題が生じたり、愛すべき手乗り文鳥と仲良く出来ないという事態に陥る危険があることがおわかりいただけるのではなかろうか。せっかく卵を生んだのにオスを引き離したために失敗、慣れた手乗りを外に連れ出したら逃げてしまった…などなど。私見では飼育書にある成功より、悲劇の可能性の方がよほど高いように思えるのだ。

 つまり飼育書というのは、あくまでも気休めと考えておくのが正解なのである。自分の家の環境の中で、文鳥と楽しく暮らす自分なりの努力をすることこそが必要で「飼育書にあるから絶対だ」などとは間違っても考えてはいけないのである。
 ホームページの内容も同様。特に『文鳥団地の生活』などは参考までに…。

来月はペットショップの話


このコーナーは好き放題に私見を書いているわけですが、個人的に論争は大好きなので
(一方的な思いこみ的非難や理屈のない空言を除く)異論があればご遠慮なく。

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