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設計監理フローチャート

■この度の 構造計算書偽装問題 について

【朝日新聞(12/17付)に、一部掲載されました。】

 今般、世間を震撼とさせている、マンションやホテル建築の 構造計算書偽装による
 耐震強度不足の問題ですが、同業人として、あまりのモラルのなさに驚き、憤慨しています。
 問題となっているマンション等にお住まいの方々が、一日も早く 安心して元通りの生活を
 取り戻す日が来ることを、願ってやみません。

今回の事件から浮き彫りになるのは、

■構造計算事務所等の建築士が、施工者の言いなりになるシステム。

■安かろう、悪かろうが蔓延している、昨今の建築界の実状。

■第三者機関であるべき建築確認検査業務を民間に委託したことによる、弊害。

 上記三点について、当事務所の見解を述べたいと思います。

■設計・施工一括請負の危険性

 通常、建築を行う際には A.建築主 B.設計者 C.施工者 の三者が協力して、
建物を
完成させていきます。

 ところが、B.設計者 C.施工者 の二者が同一である場合が、数多くあります。
多くのゼネコンの建てるビルや、ハウスメーカーの建てる住宅、工務店が事業主となる場合の
建売住宅などが このケースに当てはまります。
この場合、自社の設計したものを自社で建てていくわけですから、自ずと設計及び施工は、
自社の利益を
優先に考え、甘いものになりがちです。
 ただし、大手ゼネコンやハウスメーカー等、また多くの中小の工務店・デベロッパーなどは 社会的・道義的意味合いから、出来るだけ自社に厳しく、専門知識を持たない建築主に対してフェアに、誠実に業務を遂行しているものと思われます。

 
ところが、ごくごく稀に、資金に余裕のない中小ゼネコン、または中小工務店などが 設計・施工を一括で行う場合、社会的注目度がそれほど大きくないこともあり、ついつい社会のモラルに反することをしてしまう危険性は、残念ながら ないとは言い切れないと思います。

 われわれ建築士の社会的存在意義はまさに、そこにあると考えています。

 建築士の役割は、昨今流行りの『デザイナーズマンション』『デザイナーズハウス』を
設計することが
第一義ではありません。
 実際、私たちも数多くの住宅建築の現場を経験してきましたが、専門知識を持たない建築主の立場を代行して、施工者に対し、安全面等から 厳しいことをかなりお願いしてきました。
 またある場合には建築主に対して、専門的見地から、それはすべきではないと、アドバイスをしたこと
も何度もあります。
 時には利害が対立することもある 建築主と施工者の間を取り持って、双方にとってメリットが
得られる着地点を模索し、解決していくことも、われわれ建築士の仕事です。
 
しかしながら、そういった、本来の建築士の役割を逸脱して、施工者の下請けに甘んじる建築士が数多く存在するのもまた、事実なのです。(ときに『申請屋さん』と呼称します。)
 
それは何故か。
 中小ゼネコンや工務店の下請けになると、ある程度継続的に仕事が廻ってきて、業務の運営が比較的スムーズに
なります。
 では、なぜ設計・施工を一括で請け負う会社が、時によって外部の建築士に発注するのか。
それは、確認申請の書類に、A.建築主 B.設計者 C.施工者 を記入しなくてはならないからです。
自社に、要件を満たす建築士が存在する場合はB.設計者 = C.施工者』と なりますが、
適任者が自社にいない場合、建築確認申請を通すために、設計者を置く場合があります。
その場合の設計者(建築士)の業務は、建築確認申請を通すことが第一義となり、必要書類などの体裁を
整え、申請が通れば、大抵の業務はそこまでで終了します。
 確認申請書類の中に『工事の監理者』を記入する欄があり、多くの場合、設計者と同一になりますが、このように確認申請を通すためだけに依頼された建築士の場合、実際は工事監理の費用までは支払われず、従って、実際の工事が設計図書どおりに行われているかを監視する人間はいない、という状況になります。
今回の事件も、渦中の建築士はこのような仕事の引き受け方をしたものと思われます。

このように、確認申請のためだけの業務を行う者が、建築主の、ひいては
そのマンションで生活する人びとのの安全や安心についてまで、
頭を巡らすことがあるでしょうか?

 生活のため、『申請屋さん』になることは、すべきでないと、考えます。

 第一に、建築主よりも施工者のメリットに偏った仕事になってしまいます。
 第二に、建築士の地位を不当に低いものにしてしまっています。
  『申請屋さん』の報酬は低く、数多くの件数を定期的にこなさないと、生活は成り立ちません。


■昨今のデフレ社会における、コストに対する厳しさへの危険性

 私たち消費者はこの厳しい時代を生き抜くため賢くなり、よりよい商品をより妥当な金額で手に入れることを学びました。
これは、消費者としての当然の権利であり、提供者である企業のみを肥え太らせることなく、社会全体で豊かになっていければ、理想的だと思います。ただ、価格が安ければなんでもいい、という風潮が一部に出てきていることも事実のようです。
これは、建築の世界にも言えることです。住宅業界を見ていても、工期を短縮し、日当の割安な 熟練でない者でも扱える、工業製品を組み立てるような作業だけで成り立つ住宅が、圧倒的に増えています。
そんな建築現場で働く人が、果たして意地とプライドを賭けて建物をつくるでしょうか。

 では、どんな建物を選べば安心して暮らせるでしょうか。

・計画段階で、施工者と利害関係のない建築士に、設計を依頼する
・建築条件付き建物で建築士を選べない場合は、施工者と利害関係のない
建築士に、
設計図書及び工事途中の検査を依頼するか、または
住宅性能評価制度等
 第三者機関に検査を依頼する
・完成建物の場合は、住宅性能評価制度等の第三者機関の検査の有無を調べる

どの場合も、コストがより多くかかることになる場合もありますが、

 一生に何度とない、高価な出費に対して後悔しないためには、削るべきではない 費用だと思います。

 また、計画段階から施工者と利害関係のない建築士に依頼すれば、施工者の思いもしない方法で、コストを下げながら 安全で、満足のいく建物を建てるアイディアを出してくれるかもしれません。


■建築確認検査業務を民間に委託している状況について

 数年前までは、建築確認申請への審査、建物上棟時の中間検査、竣工検査などはすべて、所轄の官公庁が行っていました。
 バブルの頃や阪神淡路大震災の後など、その他申請件数が多い時には、役所は非常に込み合い、審査の順番もなかなか廻ってきませんでした。そのため、工期がずれ込む場合もありました。
建築基準法が改正されて、民間の委託業者にも それらの業務が任されることになり、審査で待たされることはほとんどなくなりました。
 
しかし、今回の件で審査にあたっていた業者は、構造計算書の偽装を見抜くことが出来ませんでした。
審査にあたる担当者全員が、もともと官公庁で審査業務をしていたということですが、これでは建築確認申請の根本的な意義さえ揺らいでしまいます。

 民間検査機関の徹底的な洗い直しをしていってほしいと思います。