文鳥問題.

《品種の危機A


他の生物を参考に

 数年前、私が文鳥の羽色の遺伝に興味を持ち始めた時、文鳥について一般的なお話を紹介されているHPがある程度で、文鳥の遺伝について専門的で詳しい記載を見つけることが出来ませんでした。そこで他の鳥類(小中型インコ系)や熱帯魚の実に詳しい遺伝を解説したHPをいろいろ参考にしつつ、素人考えで悩んだものです(その結果が『文鳥学講座』などです)。また、つい一年程前だと思いますが、十姉妹(ジュウシマツ)の品種遺伝について非常に綿密な説明をされているHPを見つけ、その内容に感嘆し、文鳥に応用できないかと考えてもみたものでした。
 これら、私が以前参考にした諸々のHPは、それぞれ遺伝学の知識の上に立った合理的な内容で、まさに実際の品種改良に臨む方々ならではの本格的な研究と言えるものです
(一般人にはまず理解出来ないですが、それくらいの知識がなければ本当に品種改良など出来ません)。そもそも、実際の品種改良には興味のない私などとは、はじめの意気込みから違います。しかし、文鳥で品種改良に励む人も多いはずです。なぜそういった方々が、遺伝学という科学に基づいた解説をされていないのか(すでにあるのかもしれませんが未見です)、不思議と言えば不思議です。
 品種改良を行なうほどの人なら、初歩的な遺伝学の知識くらい持っているはずですから、もしかしたら、見分けの出来ない品種内雑種が複雑に存在すると思われる文鳥では、系統だてて遺伝の様相を検討し、遺伝の法則に当てはめていくような作業は、ほとんど不可能と見なされているのかもしれません。しかし、遺伝学的に説明出来ない品種改良というのは如何なものでしょうか ?
(説明出来なければ、たんに非科学的な経験則で終わります。経験則を論理的に説明するために科学は存在します)。少なくとも、新しい品種のシルバーやシナモンでは、他の鳥類の研究を参考に考える余地はあるものと思います。今後、有志の方々の奮闘を望むところ大です。

 その点、品種は守るもので創るものではないという思想を持ち、なおかつ桜文鳥にこだわる素人である私が、思いをめぐらす必要性も責任も何一つありません。しかし、それではあまりにも投げやりなので、前々からいろいろHPを閲覧しながら気がついた事を、参考までに挙げておきます(わからない人は読み飛ばし、興味のある人はしっかりと検索して諸々の立派なHPを参照して、考えを深めていただければと思います)
 例えば、ユーメラニン
(黒色色素)とフェオメラニン(黄赤色色素)相互の減退の程度で、シルバー文鳥の色合いの多様性は説明出来るかもしれませんし、実際欧米では細かな品種分けがなされていると仄聞します。すぐに混ざり合わせて何が何だかわからなくなる日本化がまん延する前に、シルバー愛好者は細かな品種内品種の色分けをし、十姉妹のそれのようにそれぞれの品種内品種の確立をめざしてこそ、品種の保存が確実となるものと思います。
 また、シナモン文鳥に二系統が認められるとすれば、オカメインコで言うところの「ルチノー」と「シナモン」がともにシナモン文鳥と呼ばれている結果ではないかと想像しています。なお、オカメの「ルチノー」とはユーメラニンをほとんど欠いてフェオメラニンのみが色素として残るためクリーム色になる品種で、目は赤いそうですが(若い頃は特に)、これは一般的なシナモン文鳥の姿と同じように思えます。一方「シナモン」の方は、ユーメラニンが変質した品種で、茶色がかった色になるそうです。この変質について具体的にはわかりませんが、文鳥でも「茶色になる」と人文学的には表現できる因子(両メラニンの適度な減少と考えられるかもしれない)によってシナモン色になる系統があるのではないかと想像しているわけです(こちらの目はおそらく黒目?)。しかし、オカメの場合は性染色体上にこの羽色変化の遺伝子が存在するのに対し、文鳥ではそうでもないらしいと言う違いがありそうです(文鳥のシナモンに雌雄による出現頻度の相違はないはずです)

※ 生物は両親から減数分裂により一本ずつになった染色体(遺伝子の集合体)を、一対のものに合体させて受け継ぎ、それぞれの遺伝子の組み合わせで形質を決定していきます。その複数存在する染色体のうち性別を決定するものが、性染色体と呼ばれます。そしてこの染色体には二種類あり、両親からどちらを受け継ぐかその組み合わせで男女、オスメスが決定します。人間の場合XX(X染色体同士が対になる)なら女性、XYなら男性となり、鳥の場合はZZでオス、ZWならメスとなります。
 このX・YやZ・Wで表される性染色体の中には、他の形質を決定する遺伝因子も含まれており、男女間の相違を表現することにもなります。例えば「飾り羽が出来る」という劣性の遺伝因子がZ染色体の中にのみ存在する場合、ZZとなるオスにしか飾り羽は生えないことになるわけです。こうした性染色体内部にあるため、オスかメスかで形質への表れ方が変わる遺伝を伴性遺伝と呼びます。

 十姉妹には不完全優性でも影響を与える「日本型アルビノ遺伝子」があると、十姉妹の遺伝を詳しく説明されたHPで目にした時は、白文鳥の話に援用出来るか考えました。それは、ユーメラニンもフェオメラニンも形成できないアルビノ種は(少しずつは形成され赤目でごく薄い体色となるものは、イノ種などと呼ばれます)、アルビノ因子のホモ型の時のみに発現し、ヘテロ型では潜在化する劣性遺伝子と考えられているのに対し、ジュウシマツの専門家の方が、その豊富な経験と知見と科学的な合理的考察から、「日本型アルビノ遺伝子」はヘテロ型でも色を薄くする影響を与えると指摘されている内容でした。
 しかし、白文鳥の遺伝子はそもそもが劣性ではなく、むしろ有色に対して弥富系の場合「絶対優性」
(完全優性)なので、事情は大きく異なります。また十姉妹の場合は、色の構成が茶と黒と白だけなので、黒色と黄赤色の二つのメラニン色素の増減関係だけを基本に考える事が出来ますが、もう少し色数が多い文鳥では、違う考え方も必要となりそうです。
 それでは、カラーバリエーションの豊富なセキセイやコザクラなどのインコの発色遺伝の考え方を援用出来るのか、これが私には良くわからないところで、いったい文鳥の青みがかった色をどう考えれば良いのか、お腹の微妙な色
(淡い海老茶色というか、和風に言えば梅鼠・桜鼠色というべきか・・・)をどのように位置づければ良いのか、正直に言って皆目見当がつきません。とりあえず、ブルー文鳥と呼ばれ、かなり青みがかって見える品種も出来つつあるくらいですから、少なくとも光の反射で青を表現する因子が文鳥にもあるように思えるのですが、それをどのように解釈したら良いものでしょう?

※一部にノーマル色の文鳥を「ブルー文鳥」として売買する傾向がありますが、見た目で青くなければブルーとは呼べないのは幼児でもわかるところです。実際青く見える文鳥の成鳥は存在します(ペットショップで「ブルー文鳥」として高価で売られていた)。ただヒナの姿は見たことがないので、その段階での真贋はわかりませんが、おそらくシルバー文鳥のヒナに近いはずです。
 もし「ブルー文鳥」としてノーマル、もしくは桜文鳥の姿のヒナが売り出されていたら、とりあえず不当表示を疑い、両親の姿の公開を求めるべきでしょう。「ブルー文鳥」を欲しがるような人は、青い外見を求めているはずで、「ブルー文鳥」という名の自己満足を求めているのではないはずですから、冷静に見定めてもらいたいところです。
 なお、桜文鳥もノーマル文鳥も青みがあるの当たり前です。良くわからない人は、まだ固定が十分でない新しい品種に手を出そうとしないほうが良いです。

 

@フェオメラニンのみの状態
(赤目のシナモン文鳥)

B両メラニンの働いた状態?
(@+A)
メラニン色素のみで表現された場合、茶色になり、文鳥とは近縁種の、チモール文鳥的な色合いとなるかもしれない。

 

 

D正常な原種の文鳥
(B+C?)
両メラニンに青色が加わると、文鳥本来の色彩が完成するの・・・かもしれない。

 

Aユーメラニンのみの状態?
(実際には未知の存在)

 

C青色のみが働いた状態?
(実際には未知の存在だが、ブルー文鳥を思わせる)

 上の図はあくまでも勝手な想像です。正しければ、@ACを基本色としてその組み合わせと濃淡で出来る範囲で、いろいろな文鳥が出現可能という事になります。

 しかし、白文鳥がなぜ白いのかすら、科学的な解説を見聞したことがないくらいに、わからない事ばかりの状態の中で、新品種ばかり考える昔ながらの好事家や最近の超素人が、無自覚な市場流出を拡大していけば、総雑種化はますます避けがたいものになります。そして、新品種を創りたくとも、基となる純系のシナモンとシルバーを海外に求めざるを得ないような状況となってしまいそうです。
 世界でもっとも長い文鳥繁殖の歴史を持つ日本人として、これは恥ずかしい事だと私は思います。新しいものを求める以前に足元を固めるべきで、シナモンやシルバーの純系の保全、桜文鳥の純系としての安定化、白文鳥の場合は、弥富系は日本の誇る珍しい系統ですが
(ヘテロ型で有色因子が潜在しているので、弥富系白同士からも桜文鳥が生まれる。この系統の白因子はホモ型になると致死するので残念ながら純系とは成り得ない)、純系としてはホモ型の関東・台湾系を主流としていくべきではないかと思います(弥富系は弥富系として残って欲しい)

※ 弥富系の白文鳥しか知らない人が、「台湾の文鳥は白文鳥同士で桜が生まれない!」などと、今更ながらに驚くのも、関東系の白文鳥しか知らない人が、実は白も桜も「すべてパイド!」などとするのも、現在では、まるで情けない話のように思えます。台湾で出来た事がどうして日本で出来なかったのか、そのあたりをゆっくり考えて欲しいですし(私見では弥富系の白因子が特殊だったからとなります)、同じパイドの「カラーバリエーション」に過ぎないものの間から、なぜ弥富系で分離法則が起きるのか、遺伝の知識が多少あるなら、冷静に考えて欲しいところです(何となく白と桜の異種間交配したらゴマ塩柄になった程度の経験から思い込みをし、弥富系の産み分けとの違いを遺伝学的に考慮もせず、またカラーバリエーションの細分化などの品種改良家的発想での繁殖実験も行なわず、結局は部外者の欧米人が適当におこなった定義を無批判に適用したのではないかと疑ってしまいます)。
※ 私は飼育書の記載を信じて白と桜をペアにし、産み分けをはかったところ、すべてゴマ塩柄になり、その後代々桜とペアにしています。しかし、選択繁殖をしないので、おそらくヘテロ型であろう桜もどきが、おそらく50%の確率で生まれ出て後継ぎがとなっているようです。→【我が家の系図
 白と桜の間で生まれた2代目はみなへテロ型のゴマ塩、その後基本的にいわば桜への戻し交配を行なっているのですが、3代目ははっきりしたゴマ塩ではありませんがへテロ型の桜もどき、4代目も同様のへテロ型の桜もどきで、5代目はホモ型の桜とヘテロ型の桜もどきに分かれ、桜は桜との交配で当然のようにホモ型の桜を、桜もどきはゴマ塩との間にヘテロ型の桜もどきを生みました(と見なしている)。6代目の桜もどきはまたもヘテロ型の桜もどきを生み、7代目の桜もどきはやはりヘテロ型の桜もどきを生んで今日に到っています。
 代々見ると、
桜と桜の交配ではみなはっきりした桜が生まれています。初代のオスは、先妻の白文鳥との間に7羽のゴマ塩(一羽桜もどき)を生みましたが、後妻の桜との間では桜を生んでいます。5代目の桜も桜との間で桜、初代の後妻は他の桜との間で桜を生んでいます。これは桜文鳥の羽色は本来ホモ型の純系で表れるべきものであることを示しているように思います。
 桜と桜もどきは白羽の量の違いや、お腹の桜鼠色の有無で区分したいのですが、これは微妙なものがあります。ヒナの時にクチバシが根元まで黒いのは桜で、ピンクが混ざっていたり、根元が黄色っぽくはげていると、例外なくゴマ塩か桜もどきになっています(などと断定すると、すぐに例外が生まれてくるのでしょうが・・・)。したがって、5代目や7代目の姉弟で産み分けが起きているようですが、繁殖制限をせずに生まれたヒナをしっかり区分出来れば(はっきりした桜のみを繁殖に残す)、案外
桜の固定化などわけも無さそうです(一般家庭では出来ませんが、繁殖家なら造作も無いでしょう)。
 ゴマ塩と桜もどきも、実は分けて考えるべきではないかとの印象もあります。しかし、その点は専門的に交配研究をしないとわからないように思っています(おそらくゴマ塩の固定を目指す人でも現れない限り永久に不明でしょう)。

 

個人的な理想像

 私の理想・・・、というより本来品種なら当然そうであらねばならないのは、純系の継続保持だと思います。そして品種とは本来同じ品種同士から違った姿のものが生まれるのを排除しなければ、成り立つものではありません。
 そこで、優れた繁殖家の方々の努力で
(一般飼育者が邪魔をしないのが前提ですが)、それぞれの品種の純系を確立していただいて、それぞれの品種が下の図表のような関係になると、外見で雑種か否かもおおよその出自がわかるようになって便利だと思います。しかし、あくまでも素人の空想の世界の話です。

白文鳥

白因子のホモ型

桜文鳥

有色因子のホモ型

シルバー文鳥

銀因子のホモ型

シナモン文鳥

茶因子のホモ型

各遺伝因子の優劣関係・・・白=有色(共優性的)=銀(不完全優性)>茶(最劣性)

 

ゴマ塩柄

ゴマ塩柄になれば、共優性の関係にある白と桜の雑種と見なせる。

やや薄い色合い

色合いが桜とシルバーの中間であれば、不完全優性の関係にあるシルバーと白か桜の雑種と見なせる。
 

原種的色合い

原種(ノーマル)ならシルバーとシナモンの雑種の可能性が高い。シナモンとその他の雑種では桜との区別が困難。

 

事例に見る暗い現在と未来

 さて、最後に、この話を書いている途中に頂いた事例を検討して終わりたいと思います(「検討をお願い致します」とあるのですが、アドレスが無いので返信できませんでした)

【両親】 父シルバー文鳥  母シナモンモンスプリットの両親のノーマル

【子供】 ノーマル4羽、シナモン1羽、

【備考】 母の同腹にシルバー、シナモン、シルバーイノ、ノーマルが出ている。

 メールで寄せられる事例は、私が実際に見たわけでも写真で確認出来ているわけでもないので、100%事実とは言えません。飼育環境によっては文鳥の浮気があるかもしれませんし、報告される方の羽色についての知識もさまざまなのです(初心者は、ヒナの時の色ヒナ換羽時の外見もろくに知らずに、軽率に品種を断定する傾向があります)。しかし、事実として見なければ考察は出来ません。そこで、頂いた内容を事実として考えてみたいと思います。

 まず「シルバーシナモンスプリット両親のノーマル」の意味が不鮮明です。仕方がないので、「シルバーシナモンスプリット両親のノーマル」の事だろうと判断します。 
 すると、備考の部分でもはやお手上げになります。ホモ型同士からは同じヘテロ結合の子しか生まれないはずなのです。ところが色々だと言うのですから、すでに遺伝学的な理屈の世界を超越しています。その個体の色彩遺伝子が変質しやすい先天的特徴を持っている、と言ってしまえばそれまでですが
(シナモンもシルバーももともと色素異常ですから、その発現は安定的ではないでしょう。日本のように異品種間交配が盛んな場合はなおさらです)、何とか理屈にあわせれば、冒頭で紹介したお店の例からの推定パターンに当てはめる事ができるかもしれません。つまり、「シルバー・シナモン・シルバーイノ」、とされているのは中間雑種の微妙な色合いが個々で少しずつ違っている事を示していると見なすわけです。

シルバー × シナモン 実はすべて中間雑種
銀因子 銀因子

銀因子のホモ型

茶因子+ 茶因子−

茶因子のホモ型?
ヘテロ型?

銀因子 茶因子+

銀と茶のヘテロ型

銀因子 茶因子−

銀と茶のヘテロ型

 これで母の代は何とかなりますが、本題の部分はさらに解明不可能な状態となります。

シルバー × シルバー ノーマル
銀因子 銀因子

銀因子のホモ型

銀因子 茶因子

銀と茶のヘテロ型

銀因子 銀因子

銀因子のホモ型

銀因子 茶因子

銀と茶のヘテロ型

 一羽もシルバーが生まれなかったのは、確率の問題で偶然と言えるかもしれませんが、シナモンが生まれるのを説明出来るとは思えません。やはりこれも、本来色素異常の遺伝が不安定な結果起こるイレギュラー(例外)と見なすのが適当なのでしょうか?しかし、あえて理屈をつけようとすれば、シルバーの遺伝子にも二系統を想定しなければならなそうです。つまり、銀因子が茶因子に対して優性なもの(+)と、劣性なもの(−)です。

シルバー × シルバー? ノーマル シルバー シナモン?
銀因子+ 銀因子−

銀因子のホモ型?

銀因子+ 茶因子

銀と茶のヘテロ型

銀因子+ 銀因子+

銀因子のホモ型

銀因子+ 茶因子

銀と茶のヘテロ型

銀因子+ 銀因子−

銀因子のホモ型

銀因子+ 茶因子

銀と茶のヘテロ型

 銀因子の優性のホモ型がどういった色になるのか、ひょっとしたら弥富型白文鳥の白因子がホモ型で致死遺伝となるという研究報告同様に、生まれることは無いかもしれません(『文鳥学講座』など参照)。空想の世界なので何とでも言えますが、そうした想像に頼らねば説明出来ない事態(シルバーの多系統化)が進行中なのは、現実なのかもしれません。
 空想の理想像より、総雑種化の将来像のほうがはるかに現実的、それも早晩そうなる・・・、むしろ上記のような一見理解不能な繁殖事例が散見されだしているのなら、すでにそうなってきていると認識した方が良いのかもしれません。

 

純系に付加価値を!

 私が閲覧者のみなさんに繁殖事例をお尋ねしたのは、自分自身で考え出した白文鳥を二系統と見なす考え方を検証するのが主目的でした。白文鳥の純系が定まれば、自ずと私が最も愛する桜文鳥の色合いが一定してくるはずだとの思惑があったわけです。もし、弥富系白文鳥と桜文鳥では産み分けが、同じ事を関東系で行なえばゴマ塩が、と言った現象を、弥富系と関東系をたんに白文鳥と見なしてしまえば、白と桜からはいろいろ生まれるからすべて同じ品種「パイドなのだ!」などという安易な結論になってしまい、永久に品種間交雑が終わらないと考えたのです。
 この白文鳥の二系統説は、はからずも研究機関の弥富産と台湾産を用いた比較繁殖実験で証明されました
(台湾産白と桜ではすべてゴマ塩が生まれ、台湾産白同士からは白しか生まれなかった)。従って、個人的な関心はすでに満たされているのですが、実際に寄せられる事例は、それとは別にシナモンやシルバーに関するものが多いのです。
 私は新しい品種は遺伝的に不安定な要素はあっても、まだ多系統に分化することはなく、あまり例外は起こらないものと思っていました。ところが年々例外が増えていき、両親の姿を聞くだけでは、ほとんど説明不可能な事例ばかりで、正直はなはだ困惑しています。
 本来的なシナモンやシルバーとは異なる系統が増加し、品種としての混乱が起きているとしたら、「スプリット」や何やら専門用語を使う以前に、その「品種改良ごっこ」に使用する「種鳥」は慎重に確保しなければならないのが現状なのです
(輸入物か確かな繁殖家の方の作出されたもの限定にするのが無難)

 進行しつつある総雑種化を阻止出来るのは、良識のある繁殖家、つまり本当のプロの方たちの力しかないものと思います。問題意識の高い(または素朴な)繁殖家の方が、各品種の純系を代々守られていく事に期待します。また、この点では、繁殖家を中心とする飼鳥団体が、十全に機能することを願って止みません。
 一般の飼い主としては、そういった品種改良家とは違った本当の繁殖家の方たち
(もちろん両方の違いを十分認識された上で、兼ね備えている方もいるはず)に、自分たちが続けられている事の価値に気づいてもらいたいと思っています。何しろ現在は、今まで気づかなかった価値が再発見される時代なのです。
 「私の作出する桜文鳥は何十代にわたって続く純系
(他品種交配を行なわない)です」
 と言われれば、普通の市場価格の倍以上の金額
(卸値の数倍)でも出す人は多いはずです(私もです!!)。せっかくインターネットもある事ですから、卸売りに十把一絡げに安価に卸すのはもったいないように思います。
 世の中には、新しい物好きも多いでしょうが、確かなものを求めるニーズはさらに大きいものと思います。それは「産直」「無農薬」と銘打たれ、生産者名の入っているものほど、割高でも人気が高いのを見ればわかります。そして安全確かなものを求める消費者の気持ちは、食品に限った話ではありません。それは犬を飼う際に、小売店を通さず、確かなブリーダーから直接幼犬を購入する動きが広がっているのを見れば明らかでしょう。
 文鳥でも、お店で購入したヒナが病気になっているケースが頻繁となっています。多種多様な鳥種が扱われるようになった現在、そのさまざまな生き物が集まるペットショップは、いい加減な管理をすれば、あっという間に感染症の巣になってしまうのです。
 そんな危険をはらんだ小売店では、単価の安い小鳥を扱わなくなり、そもそも品種の純系の個体を探すのは難しい状態ともなっています。さらに、外見的に純系と思っても本当にそうなのか、作出者がわからなければ無責任も良いところと言えるでしょう。是非とも、異品種交配をせずに繁殖をされている方たちに、自分の作出される文鳥たちの価値を気づいてもらいたいところです。
 そうした良識的な繁殖家サイドの行動を待ちつつ、私も基本的に
自分では飼いきれないヒナが生まれないように、なるべく気をつけていきたいと思っています。

※ 文鳥の産んだ卵の孵化を抑制するのは、飼い主の当然の責務だと考えています。何となく文鳥を人間と重ねあわせ、有精卵を産めば孵化させたいと思うかもしれませんが、それは単純な誤解だと思います。なぜなら、文鳥は人間の何倍も卵を産む、人間とは異なる生き物だからです。なぜたくさん産むのかといえば、本来自然界ではそのほとんどが育たないからです。したがって、育たない可能性を前提に産まれる大量の卵を、すべて育てあげるのは、冷静に見れば、飼い主の不自然な行動でしかないのです。
 有精卵を人間の子供に重ね合わせるくらいなら、さらに文鳥を擬人化して考えてみても良いかと思います。毎年毎年生まれる子供たちを、数が多くなったからと言って、
次から次へ養子に出す親がいるでしょうか?普通はそのような事はせず、妊娠しないように気をつけるのではないかと思います。犬や猫なら、不妊手術を受けさせるのが普通の飼い主でしょう。文鳥の場合はそれが出来ませんから、生まれた卵を飼い主が管理するしかないだけの話なのです(『文鳥問題24』関連)。

前半


表紙に戻る