旧王朝の物語


第五回

 1981年の初頭から初夏にかけてはいろいろあったようです。前年に生まれた三姉妹の内の2羽は、それぞれピーコとガチャコと夫婦になり、二世の誕生が期待されたのですが、ピーコは死んでしまい、ガチャコは失踪してしまいました。ピーコの死因はわからず、ガチャコは妻を残していつのまにかカゴから姿を消しました。
 死んでしまったピーコはとりあえず仕方がありませんが、消えたガチャコは一体どこへ行ってしまったのでしょうか。その以前からカゴの開閉部をガチャガチャとやっていたり、「顔を出していた」との目撃談はありました。だから鳥カゴの外に出るのは理解できるのですが、問題はそのあとです。人間の寝ている間の失踪でしたが窓は開いてなかったのです。とりあえず、鳥カゴの置かれている場所の周辺に天井のはめ板がずれる部分があったので、そこから外に出ていってしまったのではないかという推測がたてられたものですが、いまだに謎です。
 この『兄弟』は非常に仲が良かったので、お互いに所帯を持って別々に暮らすようになったのがさびしかったのではないか、それが死と失踪と言う悲劇につながったのではないか、そんな気がします。

 なお、そのボロ家では毎年、天井にスズメが巣を作り、歩き回るようになると軒並みその羽目板のずれた部分から落ちてきました。どう考えてもあの部分はしっかり修繕すべきだったと思うのですが、それが出来そうな人間は私が児童で無力である限り我が家にはいなかったのです。風圧でもあるのか、ガムテープでとめたくらいでは一晩でずれてしまうのです。
 不本意にも人間の住居に落ちてしまったスズメの仔を捕まえては、また羽目板から天井に戻すのですが、こりずに毎朝落ちてきて室内を逃げ回るので、鳥カゴに入れ、二階の窓の外に置いたりしました。すると強烈なヒナの鳴声に、その存在に気づいた親スズメが芋虫などのエサをせっせと運び、鳥カゴ越しに与えていたものでした。それは非常に騒々しく、なかなか良い光景ではありました。

 ところが、その家があった場所はとても蛇の多い一帯でもあったのです。ある日小学生の私の友人が、2m以上ある白蛇がいたと興奮して言うので、また見間違ったのだろうと子供心に少し疑いつつ、隣の長屋のおばさんに聞いたら、「いるよ。ここいらの主だね。」とあっさり肯定されてしまうようなところだったのです(中国地方に純白のアオダイショウが群生する場所があるので、その類と思います)。
 結局そこに住んでいる間、私は主の白蛇にはお目にかかれませんでしたが、その子分たちにはたくさんお会いしました。そして蛇は二階まで這い登ってくるという事実を知ったのです。
 蛇が耳が発達しているはずはないと思うのですが、何しろスズメのヒナは大きな声なので聞きつけたのでしょうか。気づいた時には鳥カゴの中に丸々とした蛇が1匹、とぐろを巻いて満足げにしていました。3羽ほどいたヒナをまる飲みしたおかげで、カゴ目から抜けられなくなり、とりあえず休憩していたものと思われます。
 悪趣味な父によって満腹した彼は解体され、児童の私の科学観察の対象物となりました。その様子は・・・、自粛すべきでしょう。

 さて、オスのピーコもガチャコもビビもいなくなってしまったので、メスのボンチが2代目として、婿を迎える事になりました。この頃には父の興味は金魚か何かに完全に移ったようなので(水槽で繁殖まで試みていました)、そろそろ児童でも高学年になってきた私が、文鳥に積極的に関与するようになりました。
 当時の私は桜文鳥しか飼ったことがなかったので、純白の美しい白文鳥に強い憧れを抱いていました。そして飼育書には桜と白の組み合わせでは、桜と白の子供が生まれると書いてあるのです。ボンチの婿は白文鳥、そして生まれる三世は、桜の仔と純白の仔。期待は大きく膨らみました。

 この際、手乗りではない三姉妹(含む「若後家」2羽)は売ってしまうことにしました。その飼育書にペットショップに持って行って換金云々とあったのです。手乗りではないので愛着がまるでないわけです。子供は結構ドライです。売られる3羽と婿を迎える1羽を入れたカゴを持ち、母と私は最寄の駅近くにあったペットショップに行きました。
 そこには白文鳥のオスは1羽しかいませんでした。その容貌は左右に均整がなく(片目が少し変形)、良く言えば落ち着いているものの、悪く言えば年よりくさい動作の鳥でした。子供心に、あまり感心しなかったのですが、目的はその子供にあるので、白文鳥なら何でも良かったというのが本音だったりしました。
 三姉妹を引き渡し、さらに差額を払って(この辺は子供心に解せない点でしたが)その白文鳥を買いました。

 白文鳥の婿は、ボンチとは夫婦仲は良かったものの、実に目立たない鳥でした。名前は米太郎となりましたが、明らかにこれも適当につけたものでした。


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