「DOG'S MESSAGE」

ロクへの想い

 寝る前に、ロクのケージを覗きに行く。ロクはケージの中で座って、鳴けない声で鳴いて何かを訴えている。見ると、案の定ウンコとシッコがしてあった。汚れると、さすがに気持ち悪いらしく、鳴いて知らせる。
 汚れた足を拭こうと、しばらく腹の下を持ち上げて抱いていた。悪化した心臓が大きく鼓動しているのが手の平を通じて伝わってくる。きれいになったケージへ戻すと、ロクは苦しそうに呼吸してヘナヘナと座り込んでしまった。見えない目で一点を見つめて、一生懸命呼吸している。その間、私は頭から背中にかけてさすってあげる。
 ”一体、何が楽しくてロクは生きているんだろう”ふと、考えた。でも、すぐに打ち消した。”そんなこと考えるのは人間だけだ”って。人は、何の楽しみもないような人生は無意味だと思ったりする。必死に自分にとっての”生きがい”を捜そうと模索する。もし私がロクだったら、信じていた飼い主に捨てられ、老いと病気で苦しんでいたなら、生きていても仕方ないと考えたかもしれない。でも、ロクは違う。違うと思う。生きようと思って生きてるんじゃない。与えられた”命”に迷うことなく、まっすぐに、自然に生きているだけなんだ。
 ”生”に対するひたむきさに、涙が出そうになる。ロクが苦しまず、残された犬生を全うさせてあげたい。
 同じ”群れ”の一員として、私がしてあげられることは、苦しいときにそばにいて、こうして背中をさすってあげるくらいしかできないのかもしれない。そう思った。

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