嘉彦エッセイ


第2話(2004年5月掲載)


     
    



  『目的志向』


 佐藤が長くお世話になったいすゞにVEが本格的に導入されたのは、1959年と再導入宣言(佐藤の大きな仕事であった)の1985年の2回ある。多くの人が「俺なんかVEはさんざんやって来た」とか、「機能系統図は使わなかったけどVEの考え方は十分入れた」とか、当時(今も)言われていたが、実際はお得意の「VEという言葉」をうまく使ったに過ぎなかったのだと思う。

VEの本質と従来のVE(先入観の)との違いについては、実際にVEを実行されたり、講習を受けられた方には気付いていただいたことでありました。

 GE社のマイルズがVA技法を開発した原点は、例のアスベスト事件での『アスベストの使用目的』にあったと言われている。目的とは正に要求機能なのです。

目的(要求機能)を達成するなら手段は何でもよろしいというのがこのVEの特徴である。
 要求機能を満たすものを創る(作る、造るでなく)ことは開発の人や、改革的ビジネスマンの本質と私は思っている。

 常々私は、自動車業界はVEをやっていないと言い続けてきた。我々の製品はT型フォード以来、基本原理をそのまま踏襲して来ている。レシプロエンジン、デファレンシャルギア、ステアリングメカ、サスペンション等々、百年間にどれだけの変化が織り込まれて来ただろうか。

レコードの歴史(いまCD)やビデオ、テレビなどと比較をすると顕著にその差がでる。(最近漸く燃料電池や第四のブレーキ「リターダー」などが現れたが・・。)

4サイクルは、吸気−圧縮−爆発−排気を繰り返す訳だが、目的は爆発のみ。爆発させるために(現在の方法は)色々なことをやっている訳で、爆発以外は補助工程である。

 我々が会社で仕事(爆発)をする為に通勤をする。通勤途上を仕事と思って電車の吊革にぶら下がっている人はまずいない。少しでも通勤時間を少なくしようと、コースを変える等、多くの工夫を凝らしているのが実情ではないか。それは通勤時間が無駄だからである。

 見方を変えれば、吸気も圧縮も排気も通勤みたいなもので仕事ではない。と、したら百年も無駄なことをし続けて来たことになる。今のシステムでは確かに必要であることは認めるが、それは、「今のシステム」だからで、爆発だけを導く原理を考案すれば、他の三工程は不要となる。

 エネルギーを切り口に考えても、自動車は石油を燃してエネルギーを生み、大半を「摩擦」で消してしまう。最たる物はブレーキで、せっかくのエネルギーを、ブレーキシューを削りながらエネルギーを捨てて行く。これも100年来同じ原理を踏襲して来ているのである。

 そもそも軽油は1g当たり9000Kcalの熱エネルギーを持っている、ガソリンは8000Kcalと言われている。仮にディーゼル乗用車の燃費をリッター当たり13Kmとすると、1Km走るのに700Kcalを要する計算になる。

例えは良くないが、人間がテニスを一生懸命やると、1時間に350〜500Kcalを要するそうで、多分10Km位は走るであろう。5人乗りの乗用車と比較をするとどうやら、人間のほうが2〜3倍効率は良い。

物体を移動させる手段として、エネルギーを生む、エネルギーを吸収する、と言う働き(目的)から見れば、100年間の旧態依然のメカにそろそろメスをれても良い時期ではなかろうか。

 「爆発」を目的とした0(ゼロ)サイクルエンジンや、爆発にこだわらず「エネルギーを発する」なら更に上を行って、太陽熱を活用することや、生んだエネルギーをアキュムレートするシステム等、目的を考えたら新たな手段が考えられるもので、そろそろその時期に来ているのではなかろうか。

他社がやらないうちに(既にもうやっているかもしれないが)自社がイニシアチィブを持つ。これが真の開発ではなかろうか。
 VEの本質にはこんな視点が存在している。どうでしょう、そろそろT型フォードのマイナーチェンジに終止符を打ちませんか。真のVE、是非々々、ご活用いただきたいものである。


(来月は『部分最適 全体不適』です。お楽しみに)

                (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS, FSAVE