嘉彦エッセイ


第3話(2004年6月掲載)


        



  『部分不適全体最適』



 日常生活でも企業活動でも必ず存在するのは『意志決定』である。そしてこの意志決定によっては企業が吹っ飛んだり、繁栄したりする。1兆円も利益を出す企業の会社方針(CCC21など)が徹底している事や、クレーム隠しなど企業ぐるみの活動は正にそれを証明している。こんなに大きく捉えず身近に置き換えても意志決定は極めて重要である。

 意志決定には分析(実態把握)→総合(まとめ)→評価(決定上の選択とその理由)などのプロセスが存在するものであるが、ことさら改めてそんなことを考えず、知らず知らずプロセスを経て、ある結論を出しているものである。

 企業組織の縦割り化が進み、自分のテリトリィが限定・縮小されてくると、つい分析の範囲が狭められ、周囲を総合化できずにある評価(判断)を下してしまう。検討した小範囲(敢えて小と言っておく)においては最善を尽くしていることは言うまでもないが、さてそれは正解であっただろうか。これがこのエッセイで申し上げたい主題である。

 私が担当したプロジェクトに部品数削減と言うテーマがあった。それも目標は80%減らせと言う途方もない大命題であった。大命題であるが故に目を向ける範囲は大きくなり、全社のマネージメントを睨むことになった。

その結果判明したことは、それぞれの部門の範囲において最善は尽くすも、全体で何とバランスのとれていないことが多くあったことか。すなわちこの現象は『部分最適、全体不適』となっていたのである。

部門間だけでなく、個々の業務からの全体不適が目に付いたものである。

 ある設計者が一つの部品を設計した。従来のものから部分的に改良してコストも幾分安くなった。設計者としては最適設計をしたつもりなのである。その時点での評価は最適であるが、部品の種類が一つ増えたときのサービス上の問題、管理の問題、様々な発生要素を考えると、わずかな変更(改良)は本当に得策であっただろうか。

 ある営業が自分のテリトリィにおいて懇意の顧客から特殊な商品の提供を求められた。従来の製品を改良すればできると考え、ボリュームも自分で売り込む意気込みを加味したもので商品化の提案をし実行に移った。わずかな変更と言えども、品質保証のためのテストや、仕様書の新作など、目に見えないリソースの投入はバカにならないものであった。ボリュームも予定に反して(元々願望分が入っていて)今一つ伸びなかった。

 良くあることだが、困ったことはいずれも一生懸命行動した結果であることである。

前者は、改良の余地が明白であるものを見過ごすことができない心理が働き、後者はシェアも伸びるし(伸ばそう=願望)、売上にも貢献するとのプラス指向の判断が手助けしていた。

しかしここまでは実は「利益が増加」する話には何ら結び付いていない。企業は利益を出すべき集団であるが、改良、シェア、売上などの言葉に惑わされて、本来の最適=利益がどこかに行ってしまっていたではないか。

 新商品化は果たしてどうだったか。もし既存の類似の商品を提示し(お奨め販売)、お客様の不満部分を値引きしたらどちらが得だっただろうか。売り方や説明の仕方によっては、新たな商品や値引きも不要になったかも知れない。

 しばしばあることだが、仕事の流れで、上流でやっておけば下流の多くの部署が助かるのに、「人手不足」「従来からの慣習」などを理由に下流に垂れ流して、結果として多くのリソースを費やしていることが、多かれ少なかれ多くの企業で行われている。図面の表示方法などは最たる事例で、互換性や分解時の注意などは設計者が一番分かっているのに、多忙を理由に、もしくは仕組み(の悪さ)を理由に表示せず、部品部門やサービス部門に専門の人をおいて、調査からやり直している企業もある。また大きくは騒音や環境汚染などの社会環境問題も『部分最適全体不適』の表れであり、規制や許認可行政の多くにも『部分最適全体不適』が見られる。ごみ焼却場の高い煙突はなんとその間に浄化しているのでなく、低いと煙が街中に蔓延するので空高く放出しているのみと聞いた。正に『部分最適全体不適』だ。話がそれた、元へ戻そう。

 たとえ自分のところに負荷が増えても、全体で最小のリソースになるならその方法を選択すべきことである。その判断をすることがマネージメントではなかろうか。部分不適でも全体最適化。マネージメントのキーワードである。

そして最も広く睨めて全体最適の判断をできる人が、それぞれの組織のトップになれるのである。それができない人はトップ(マネージャー)には不適任者なのである。VEで言うライフサイクルコストの考えは、正に経済面での全体最適化評価の考え方である。

 すべての社会・組織に通ずる考え方である。と主張する佐藤君は全体最適ができていますか。(穴があったら入りたい)

(来月は『正常と異常』です。お楽しみに)

             (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE