嘉彦エッセイ


第5話(2004年8月掲載)


        



『夢追い人』



 仕事のプロセスにはいろいろのアプローチ法がある。人生の幸せの求め方や生き方、人生観に似ている。過去にこだわってクヨクヨする人。憶測ばかりで物事を判断してそれもネガティブに考え、対案の立案を難しくしてしまう人。何も気にしないでいつもアッケラカンとしている人。現実離れしていてもいつも理想(夢)を追う人、人様々である。

 サラリーマン時代のあるとき私は社内で生産していない商品の内製化の提案をした。

その商品は、既にある程度市場に存在し、今後も伸びることはあっても廃れることのない商品で、当社にとって技術的には十分ポテンシャルが有り、設備も僅かな工夫で対応できる、将来十分付加価値を持たせてくれるものとの判断からの提案であった。

相談を持ちかけたある人(幹部)が『世界有数のA社が過去に撤退している。なぜ撤退したか調べてみよ』と言葉が返ってきた。

他社の内情を調べることは事実上不可能。よもや真実が分かって、同じ轍を踏まない対策を打っても成功するとは限らない。既に時代が変わっている。環境も違う。

この人はそもそも小生の提案に反対で、ただ『反対』と言えなくて難題を与え、その問題から逃避してしまった。と私は思った。

 アメリカで流行ったあるソフトウェアーを導入しようとした。提案を受けた人(この人も幹部だった)は『同じような改善ソフトがどのくらい使われているか数値で証明せよ』と言った。私は「数字がよければ導入は可能なのか」と尋ねると『中身を見てからだ』と反論。そのソフトの良さと普及させるための方策、普及した暁のもたらす効果(夢)は一度も聞いてこなかった。やはり反対を自分の意思で表明したくなく逃げただけである。

 TQCの手法の中に、問題点(原因)を探り出す方法が多くある。とても重要なことで、その原因が分かれば対策が打てて、同じことは発生しなくなる。品質管理の原点であるが、しばしばこれが誤った使われ方をしてしまうのである。前文の事例はその一例であろう。

 もし、小生の提案に対して、『どんなことをしたら実現するかネ』と問いかけたら、どのように話が発展して行っただろうか。若き佐藤の夢はどのように膨れ上がっただろうか。自分の夢を追うのであるから、当然佐藤のモチベーションは上がり、少々の苦難も排除して臨んだであろう。

一つのことを創造し始めると夢は限りなく広がり始め、浮き浮きとしてくるものである。難しい局面に突き当たっても、自分の夢だから限りなく努力をし、それが何の苦痛とも思わない。こうすれば人も育つし、ビジネスも競争力がついてくる。VEは目的(夢)に対して手段を考える技法。目的(夢)さえ設定できれば(これがVEの機能定義だが)色々な手段が存在し、限りなく実現に向けて前進できるものである。

私はバリューエンジニアを「夢追い人」と言っている。

限りなく夢を追いたいものである。

(来月は『原価管理は家計簿』です。お楽しみに)

          (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE