嘉彦エッセイ


第6話(2004年9月掲載)


        



『原価管理は家計簿』


  本題に入る前に、全く本題と離れて…。

私は今月(27日)60歳になる。サラリーマンを続けていたら30日には花束を頂きクラッカーを鳴らしていただきいすゞの門を去っていたと思う。(誰も相手をしてくれなかったかもしれないが)還暦を迎えることになる。

 昔は寿命が60歳未満であったので還暦はとても大きな句読点のようで、近年でも一区切りを祝うイベントが行われたりする。

私にとっての還暦は余り感慨がないが、コンサルティングをやっていて少し感じるものがある。色々な会社を訪問させていただいているが、私と一緒に改善に取り組む周囲の人たち(中には私より年長かと見かける人も)は皆サラリーマンで当然定年前なので、私が最年長であると言う事が証明されてしまった感じを受ける。つまりしっかりおじんであると言う事だ。若いつもりでいたし、今まで幾分年上のつもりも、改めて「還暦」は想像以上に重くのしかかってきた。年は取りたくないとよく言うが、本当に実感している今日この頃・・。

 さて、今月の本題に入ろう。

 企業は利益を挙げて初めて社会から認められるもので、そのためには収益管理やいろいろな計算、分析が行われている。VEにまつわるお金の計算や管理に“原価管理”と言うものがある。

 今日のように価格競争力云々と言われる時代では、コストに関することに興味をもつ人が多く、何とか管理方法を習得したいと願う企業や人が多いようで、現に私のところで何度か行った原価管理セミナーはいつも満員で、「次回に・・・・」とお願いすることしばしばであった。正に関心の高さを表わしている。

 実は関心の割りにしっかり原価管理を行っている企業は多くなく、財務会計の延長に「原価」が存在したり、どんぶり集計の按分で「原価」と読んだりしている企業も少なくない。私が申し上げたい原価管理は「問題が見える」原価管理である。

 と言うと、とても高尚な技術であるかのように思われ、企業人必須の項目と思われる方がいるが、家計簿の延長で考えたら思ったより易しく飛び込めるのではないか、まず結論から申し上げてみたい。こんな言い方をすると、この分野で著書を出版されている人や、コンサルタント(私もその一人だが)も多くおられるので、それらの方々には失礼な事になるのかもしれない。

 一家の主婦を見てみると良い。わが家でもしかりで、我が大蔵大臣は小生の薄給の中でなかなかうまいことをやってくれている。日本は貧富の差が最も少ない国と言われている。それでも家庭を持つ同じサラリーマン同士で二倍程度の給与差があることがあるが、いずれの家庭でも実生活には大差がない。佐藤は独立したが相変わらずだ。どこの家にも車があり、ピアノもあり、子供は塾に行かせ、冬になればスキーにも行く。子供の成長に合わせた蓄えさえ持っている。これは主婦のやり繰りのうまさであろう。だからといって彼女たちは経理の勉強を積んだ達人ではないし、公認会計士でも税理士でもない。ましてつい最近まで子供子供して「かわいいね」と思っていたお嬢さんが、家庭に入るとこうなってしまうのである。つい最近わが娘もこうなった。

どこが我々企業人と異なるのであろうか。

 彼女たちは頭の中での計算がうまいのである。出て行くものを決して忘れない、落とさない、楽観視もしない。入ってくるものには過大な期待はしない。その中から問題を見つけ即対応する。彼女たちには余り長期の対応能力はない(亭主の稼ぎがままならないからだ。)短期に問題解決をする。

 しかし我々は、見かけの出入りは計算するが、自分のテリトリーでない分野は全く意に介さないのである。まして見えないランニングコストや固定費は、ついぞ忘れられてしまう。いつの間にやら真のコストが見えず、問題発見や意識さえも欠落してしまう。これでも企業はいろいろな商品で“利益補完型ビジネス”を行っているので結果(全体)は黒字になったりするとなおさら個別商品の問題が浮上しなくなり体力をそがれていくのである。

 主婦は“私が責任者”、だから私が(将来の子供の成長などを含めて)把握しなければと考えるが、分業の進んだ我々の社会では自分の範囲、それも最近の変動しか念頭に置かない。ここが大きな差ではないか。

 そもそも難しく考えることはない。入るお金と出るお金をモレなく把握すれば良い(原価計算と収益管理)。そしてそれらはいつ入金するか、支払うか(資金繰り)。これで赤字にはならないか(キャッシュフロー)いつまでこの関連は継続するのか(長期の収支)。これを難しくしてしまうと、『オレここのところ苦手なんだよナ』と思い始め、そして徐々に避け始め、他責=俺の担当ではないと決め付け、ついには経済観念のないビジネスマンになってしまうのである。主婦はやっているのに…。

 原価計算や管理は何もVEをやる人のみの必須項目ではなく、ビジネスの世界で生きる限り、誰にとってもこの程度のセンス・知識は必須である。だからといって“難しくお考えなさらぬな”と申し上げているのです。

家計簿感覚の原価管理で結構。出と入りの管理。項目を漏らさぬこと、出を少し危険度を持って睨み、入りを過大評価しないこと、これで十分。あなたも大蔵大臣ですヨ。

(来月は『チャンピオンになりたくばチャンピオンらしく振舞え』です。お楽しみに)

      (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE