嘉彦エッセイ


第12話(2005年3月掲載)


        



  『意識改革は行動改革から』



 2005年になり、今年も各社で社長の年等の辞が新聞を賑わせたり、社内報のトップに踊っていたり、恒例の新年の風景だ。その年頭から既に2ヶ月経過、さて、どれだけ今記憶にあるだろうか。多くは訓示も形骸化して語られるのはせいぜい1・2週間。少々情けない気がする。それはそれとして、

 その中で多くのトップや幹部が口にする言葉に、社員の『意識改革』を求めるモノがあるが、私はこの言葉は全く通用しない気がして、色々なところで以下のようなことを述べている。それは何十年も人生やって来た人に意識を変えろというのは無駄な呼びかけのように思うからである。ズバリ言うと、意識など変えようがない。最後は元に戻ってしまう。

 人間って結構頑固なものだと思うのです。まして真面目に勤め上げ、主任になり、課長になり、部長に成りしてきたものに、自分の意識など変えよというのはむなしい注文だ。

聞く方も、社長はあのようにおっしゃっているが、俺に言っているのではない。そもそも今の業績は、営業が問題で、あれは営業に言っているのだ…と矛先を変えて自分は対象ではないと決め込んでしまうことしばしば。私もたびたび経験してきた。俺は間違っていないから課長に、部長になれたんだと・・。

 私はいつも健康に注意する意識を持っているつもりだが、結果は睡眠不足、深酒、塩分取り過ぎ、コレステロール過多etc.の見事なもので、健康のけの字もない生活である。最近還暦を過ぎて、健康診断のデータでも脅されるものがあり、いくばくか対応策を講じ始めているが、ついつい甘くなる。休肝日は週2日=でも月4日がせいぜい。1日1万歩のもなかなか達成できない。脅かされてもまだ実行できない。自分のことでさえこのザマ、まして会社のことで今まで培われて来た個性を変えようなど、到底できる話ではない。

 とは言え、今のままではよろしくない。意識を変えなければ企業は変われない。さてどうするか。

VEを標榜する人間が、手段はこれしかないと限定するのは全く良ろしくないが、答えは一つ、『行動を変える』しかない。それも強引に、かつ継続的にである。

 健康意識を例題に話を進めてみるが、絶対休肝日を設け、それも週2日〜3日、毎朝30分の早起きで、雨でも30分間は歩く。出張してもクリントンさん並みに実行する。外食時は醤油は減塩醤油を携帯して、冷や奴や刺し身には自前の物を使う。(そうしている人を見たことがある、まだ自分はそうしてはいないが)何しろ行動を変える。それも中途半端でなく徹底的に変え、継続する。継続していると思えるようではまだ序の口。習慣、当たり前レベルになってやっと本物。このくらいやらないと本当の健康管理意識は生まれないし、自分の体を慈しむ気にならない。このように徹底すると、今度は深酒のチャンスがあっても、ある量を過ぎると「そろそろウーロン茶に変えよう」と言う気になる。そこでようやく「意識が変わった」と言えるようになるのである。

 原価の世界で生きているので原価の例えも加えてみるが。原価企画では目標コストに到達しないと次のステップに進めてはならないルールがある。これも曖昧にして取らぬ狸の皮算用を加えて次のステップに進めてしまう企業が多く見られる。そもそも図面を書く前にその図面の目標コストを指示している企業はどれだけあるだろうか。ここから間違っている。これでは絶対コスト意識は成長しない。目標未達の時に、本当に止めたら、本当にいつも止まったら、本当に商品化を断念したら、実務者は猛烈意識が高まる。そして苦しいコスト攻略のためにいつも爪に火をともす原資を大事に暖めるようになる。創造も加速する。緩めたら終わりだ。

 一昨年の話だが、ある弱電メーカのS常務とアメリカでご一緒させていただいた。彼は「200の案件中7件しか目標に行かず発売できない」と嘆いておられたが、意識が高まっているんですね。徹底していました。この会社、すごい業績で有名だ。

 『意識を変えろ』と掛け声をかけておられる方。このくらい大変だとお解りになっての発言ですかと尋ねてみたい。ご本人が意識を変えないと・・・・。

(来月は『思い入れと最適設計』です。お楽しみに)

          (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE

                     佐藤嘉彦 著 エッセイ集 「千載一遇」より