嘉彦エッセイ


第13話(2005年4月掲載)


        



  『思い入れと最適設計』・・・・儲かってますか?



 私は、コンサルタントに転じて7年、それ以前からの同業の経験を入れると30年を過ぎるかもしれない。その間、いろいろな場面で設計のあり方などを語っているが、私自身治工具の設計は何年か経験したが、実は一度も製品設計に携わったことがない。開発設計に関してVEは何度も行い、創造する事には随分関与したが、実際に図面を書いたことはないが設計について一言。

 最適設計とは何かと考えてみたい。開発部門の人は性格的にはクリエーターが多く、常に何かを変えて新しいもの、新しい雰囲気を出すことを本業としている。しかし、企業はビジネス面では儲けを出すことを最上位の機能としている。新しいものは市場の受けが良く、増販の材料になる。時にはヒット商品にもなる。だから「新」は不可欠の言葉。

良く分かるが、もう一度、冷静に考えてみたい。

 バブル時代後に日本の製造業が参ったのは、調子に乗って製品バブル、部品バブルを無節操に展開したからだと私は思っている。企業人でありながら、真の儲けを追求せず、技術者の思い入れを強く出し過ぎたきらいはなかっただろうか。『少しでも良く』は忘れてはならないが、市場でその良さが本当に評価されただろうか。ある商品のユーザーアンケートを取ってみたら、自慢の装置が思ったより評価を受けず、あるものは「全く不要」の烙印さえ押されてしまった。このことがその設計者に伝わったら、失意のどん底に陥ってしまうであろう。失意に陥らない設計者は巧みな言い訳とアンケーターのセンスを否定するのであろう。

 必ずしも開発者の思い入れ=ユーザーの満足ではないのである。  だからといって変えてはいけないと言うのではない。その変更は、変更しただけの効果を確実に生むか?、リソースの投入や投資リスクを負ってまで変更する価値があるのか?。この問をしたい。

答えが『ハイしっかり儲けが増えます』とあらば積極的に開発・改良に取り組めば良い。フルモデルチェンジだからオレの持ち部品も新しくしたい。陳腐化しているのでこの機会に・・では困るのである。

 変える価値は本当にあるか。それは市場で受けるか。従来の右肩上がりの時代は数でカバーできたが。現在はサチレート時代、右肩下がりの時代の評価は従来と変えねばならない。売り方とセットで変えなければならない。

 サラリーマン時代、最後にこの仕事に携わった。「再建」と言う業務の中で肥大化した部品点数を削減してスリムにしよう。増えないようにしようと、遠大なプロジェクトを預かった。多くの新製品(新部品)は、新作の価値が認められず、見かけのコストは僅かに下がっても、補修部品として10年も20年も管理する、その費用を考えたら、大半は企業の足を引っ張るお荷物備品(商品)になっていることを痛感した。われわれはついつい見掛けのコストで見てしまうが、目に見えない間接コストが膨大であることを知らねばならない。設計費、治具・金型費、在庫管理費、補修部品の長い在庫費、時に開発時の外注先の指導費…いろいろありますよ。それらを考慮しても「お得」でしょうか。

評価基準は『儲かりますか』である。

 そう言えば『儲』と言う字、信ずる者と書く。昔は信じれば儲かったかもしれないが、今日は疑って、疑って、それでやっとと言う感じですナ。

(来月は『器用と不器用』です。お楽しみに)

          (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE

                     佐藤嘉彦 著 エッセイ集 「千載一遇」より