嘉彦エッセイ


第18話(2005年9月掲載)


          



『上位機能で攻めよ』

 私はバリューエンジニアである。VEを御存知ない方には少々説明を要すると思うが、要は、『ある対象について、要求機能を整理し、それを満足する手段を創造する技術』とでも説明致しましょうか。これも難しすぎるようで、『ある目的を達成する理想的手段を創造する』この方が分かりやすいかもしれない。

我々は機能を整理するために、次に紹介するような機能系統図と言うものを用いている。この系統図は極めて便利なもので、要求機能(目的)がはっきり分かる、共有できると言った特徴をもっている。そして何をしたら(手段)それが成立するか。明解になる。

 目的は上位に存在し、手段は下位に存在するような整理の仕方をする。目的を達成するためには現在考えられる手段が下位に羅列される。だれが見ても対象がスッキリと理解できるものになる。これが系統図であるが、この方法はVEだからと言って何も製品だけが対象になるのでなく、システム、仕組みなど何事にも応用できるのである。

次頁の系統図は「ホッチキスの針取り器」の機能を整理したもので、「針を外す」には「針を広げる」、「針を引っ張る」手段がなければ針は外れない、そして「針の散乱を防ぐ」機能(ニーズ)が加わると、針取り器はよりよくなると言っているのです。どれか一つ欠けても針は外れないか紙を破くかしてしまう。

 機能系統図:ホッチキス針取り機(ホッチキスリムーバー)の例



機能の関係は

   《目的》 ⇔ 《手段》

               《目的》 ⇔ 《手段》が繰り返されているが、下位に行けば行くほど具体的な手段になって行き、上位に行けば行くほど目的になる。

  機能を達成する方法は、どこでアイデアを出しても良い。上位で捉えると大きな目的が対象になり、下位で捉えると具体的な手段に近いものになってしまう。この例で考えれば、「針を外す」と言う最上位を対象にすると、何の方法でも針が外れてくれれば良いので、相当自由度が高まるが、「引く力を与える」となると、引く力そのものが限定されたものになってしまい、アイデアの幅が狭まらざるを得なくなる。

 「お酒を飲む」難しく考える必要はないが、その目的は何か、「気分転換」ならお酒でなく、ゴルフも散歩も読書もある。目的が「親睦を図る」これまたお酒以外にも方法がでてくる。要はどの段階で考えるかである。

 われわれは何かをしようとするとき、仕事でも遊びでも、生活でも、ついつい従来の習慣の中で考えてしまう。過去の踏襲方である。その過去が生まれたときはいつであったか、ひょっとして20年も前の方法がそのまま行われていることが多い。これはその方法が生まれたときは斬新であったのだろうが、そのとき、その時に前例との変化を求めず、問題視する機会を失って、延々と続けてしまっていることが多いものである。「特段問題がないから・・」といっているうちに、周囲の変化は大きく、いつの間にか取り残されている。良く、「茹で蛙」とか、「マンモスの死滅」に代表される例になる。

 今、自分が行おうとしている仕事の目的は何か、それはその目的全体のどの部分なのか、上位なのか、下位なのか。確認してみると良い。それが下位なら上位の目的をもう一度考え、その目的にアイデアを集中させると結構大胆な方策が浮かんでくるものである。


 思考する前にもう一度、『その目的は何か』を確認してみよう。

(来月は『小さなチャンピオン』です。お楽しみに)

          (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE

                     佐藤嘉彦 著 エッセイ集 「千載一遇」より