嘉彦エッセイ


第32話(2006年11月掲載)


          



『おしゃれ』



 先月の予告を変えて、今月はこんなタイトルにしました。

最近は物資が豊富で、更に世界の文化が国境を乗り越えて入り交じっており、日本古来の文化はさて何であったかと考えさせられる時代になってしまった。服装に至っても素材の変化と共に、形、色、着こなし方が変わって来て、更に私の少年期のように、古着を着るなどは考えられない時代である。それぞれが個性を強く出し、服装による満足度や優越感を感じる時代になり、老若男女のお洒落が進んでいる。特に年配の方がそれとなく着こなしている姿を見ると、自分も歳を取ったら(実際に歳を取ってきているが)あんなふうになりたいと思うものである。

 少し長めの白い髪、明るい黄色かオレンジの入った茶のチェックのブレザ−、アスコットタイとちょっと洒落たポケットチィーフ、パンツはベイジュにするか、靴はスエードのコンビにしたいな。こんなことを想像するだけでもなかなか楽しくなるものである。

  私達の日頃の服装を思い浮かべてみよう。一般的にはスーツかブレザ−にネクタイのスタイル。よく考えてみるとあのネクタイ、だれが考案したのか知れないが、あんなところに紐をぶら下げることを良くぞ考えたと思う。冷静に見るとエキセントリックな気がする。まっ、これが世界に常識とされる一般的なファッションと言うかスタイルなのだから、とやかく言うのはやめておくが大変な発想である。

 ところで毎日皆さんいかがされていますか?。まさか毎日、毎日同じネクタイに同じタイピン、同じ・・・・、同じ・・・・ではないでしょうね。

 私は特別自分がファッショナブルとは思っていないが、それでも今日は何を着て行こうか、これならワイシャツはこれにして、ネクタイはこいつで行くか、結構考えるのも楽しいものである。時より自分の優柔不断が出て途中から方針が変わり、異なった色調に変わってしまった後、クツ下を取り換えるのを忘れて、全く色みの合わないものを一日身に着けているのが苦痛になったりすることがある。

 お洒落の原点は清潔であることであろう。どんなに色合いが良くても、またバランスが取れていても、汚れていたり、通るべき線が曲がっていたりしてはいただけない。何もクリーニング屋さんでピシッとアイロンをしてもらわなくとも、家庭でできる範囲で十分だが、何よりも清潔感が第一のような気がする。

その次が着こなし。同じものでも着こなしで随分変わる。大枚はたいて買ったものでも、着こなしが悪ければ台なしである。

次は色。色は重要で色味とコーディネイトの、二つの要素があるようだ。我々日本人男性の多くは、無地の紺かグレー、ちょっとお洒落になると茶系統に進出し、そして紺にも縞が入ったり、赤が交ざったり、チェックになったり。しかし海外の空港で、眼鏡をかけて、紺の服で、黒い靴を履いていたら、まず日本人に間違いないとさえ言われている。アメリカのVE協会の会長をした私の友人であるジンマーマン氏は、韓国−日本の旅行記にそうしたためている。

 女性も同様。ただブランドものを身に着ければ良いのでなく、ただ顔に色を塗りたくれば良いのでなく、バランスや抜けをチェックしたいものである。お化粧も、なぜ女性は鏡を前からしか見ないのだろうか、あごの下とほほではお面を被ったように色が違っている人もいる。私の地はこの色です、とアピールしているのかもしれないが(?)。左右異なった紅の引き方や、唇からはみ出しているのもいただけない。かえってスッピンの美しさのほうがずっと良いと思われることがある。化粧もお洒落のうち?.他の人に不快感(?)を与えないためのマナーかも知れないが、それなら尚更ちょっとした細部にも気配りして欲しいと思うことがある。

話がそれてしまった、本題に移そう。そうそう、お洒落は楽しいものと言う話だった。さて楽しくお洒落をするにはどうしたら良いか。この切り口だとお洒落が義務になってしまうので、どうしたら楽しいお洒落ができるかの切り口で考えてみよう。

 私が考えるお洒落は、とても楽しく、観察力と想像力の増すもののような気がする。人間の思考には創造性、模倣性の二つがあり、創造性は結構天性の右脳が効くと言われているが、模倣性はその儀にあらず、ちょっと観察力が出ると、自分を変身させることができるほど、世の中にはたくさんのバリエーションが存在しているのである。したがってお洒落を難しく考えずに、巷の情報収集と考えてみるとおもしろい。『へぇー、あのような人があんなファッションを』とか、『あんな組み合わせもあるんだ』とか、『あんなスタイル、この頃流行っているんだ』とか、自分を時代遅れにさせないどころか、それを真似れば一流の先端ファッションを身に着けることができるのである。そして更に自分に創造性を与えてくれるものである。

 「あれとあれを組み合わせたらどうなるか」「あの色ならこれが合うな」段々模倣から創造の世界に移って行くものである。

 こうなるとお洒落も本格的、よく「一流の人はお洒落も一流」という。そう言えばそうだ、会社の社長さんや重役さん、別にスタイリストがついている訳ではないが結構サマになっている人が多い。別に高級なものを着ているからサマになっている訳ではない。仕事と同様、自然に観察力が増し、情報を多く吸収しているからなのではないか。

さっ、あなたもお洒落してみません?いやいや観察力を増してみませんか?と言いつつ今日も私は昨日と同じ、他人のことを言ってはおられません、観察力を持たなくては・・・。


(来月は『コミュニケーション』です。お楽しみに)

    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE

              佐藤嘉彦 著 エッセイ集 「千載一遇」より