嘉彦エッセイ


第36話(2007年03月掲載)


          



『体質改善』



 VPMを設立して10年が経った。おかげさまでいろいろな会社と接することができ、立場上教えることが生業でありながら、随分勉強をさせていただいている。

佐藤自身は指し当たっては各お会社の収益改善に最大の努力を傾注しているところではあるが、実は視線は企業体質を変えることと、私の指導会に集う人に、僭越ながら私の持つノウハウや経験を少しでもお伝えして個々の体力強化をお手伝いしているつもりである。即ち、組織(会社)と個人の体質改善である。

私の持論は『意識改革は出来ない、意識改革は行動改革』である。今年も年が明けて、年頭の辞に会社幹部の方々の「今年の方針」なる訓辞が掲げられているが、多くの会社で見られるその手のものは、昨年と今年の方針が変わり、遣り残しをどうすれば良いのか、投げ出してよいのか迷うところと、社長と事業部長、工場長のそれぞれの方針が必ずしも一致しておらず、従業員は誰の、何を指針に今年1年進めたらよいのか迷ったまま、結果従来どおり自分流でまた1年を送ってしまう。何か具体的な規制や目標を与えて、それで縛っていないと、特に勤勉でそして年齢が高くなればなるほど、考え方を変えるなどとは到底いかないものである。

昨年、少し無理をし過ぎた祟りか、身体を壊した。たいしたことではなかったが身体にメスを入れたりしたことから、暴飲暴食生活から、お酒を随分慎んだ。これでγ―GTPや血糖値にも随分効果があったであろうと思いきや、年末のお酒のシーズンにすっかり元に戻してしまった。毎月何日か休肝日を持とうとしているが、あまりまじめに実行できていない。結果、回復はおろかズルズルと悪い方向に向かっているのである。家庭生活では健康を中心にいろいろな願望が高まるが、なかなかどうして、健康管理も、貯蓄も、家庭内のリズムも変えることは難しい。

 10年の指導で気付いたことだが、社風というかDNAというか、長く培ってきたものを変えるというのはとても難しいことなのだとつくづく思い知らされている。例えば、最近新聞紙上をにぎわせているが、どこかの会社で品質トラブルを起こしたとしよう。多分その会社以外の人たちは、非難ごうごう、軽蔑までする。しかし自分達もとても似た体質や仕事の仕組みであることに気付かない。いつ自分に降りかかる火の粉かも知らずに「あんなひどいことは常識的に見ても・・・」と批判するのである。仕事柄その事例を引用しても決して「自分達はそんなことはない」と危機感を覚えない。あっては困るがそのような企業は一度大火傷をして、それを機会に体質を直さないと多分体質改善の機会は訪れないのだろう。体質改善の強敵は“茹で蛙”であり“氷河期のマンモス”であるからである。

 ものの見方でも実はチャンスがあるものだ。ある会社で、その会社の社長と現場を歩いていた。“社長指示事項”と壁に何項目かの指示が張り出されていた。その中に「不良半減」とあったので私は「昨年の半分は出しても良いのか」と申し上げた。社長はあわててその張り紙をはがさせ、翌日見たら「不良=0」に変わっていた。0は0だ、どんなに小さな数字でも不良が出れば不良率になって出てくる。0は出ない。数字の捕らえ方や目標でも体質改善に結びついていく。勿論これは管理を徹底したり、規制することによって成果になる。これが行動改革だ。

 ある会社では、年間の為替レートを年初に設定して決める。円高は最高いくらから円安はいくら、この範囲で今年は推移するであろう。今日のように円安傾向が高まると輸出中心の企業はウハウハになるがその会社は、事業部の稼ぎはあくまでも輸出は円高ベースのレート、輸入は円安で計算する。それで利益が出るビジネスが要求される。そこの社長にお会いし確認をした。社長曰く「彼らが為替を動かしているのではないので彼らの成果ではない」とおっしゃった。なるほど、その代わり彼らが生み出した成果は逆にきちっと評価をしているともおっしゃった。この緊張が強い体質にしていくのである。

 私の元いた会社で私は改善活動では取らぬ狸で満足しないように、数値はあくまでも刈り取り額、原資は採用確率係数を掛けた数字で評価するようにした。部品が増えない仕組みも作り、さらに過去の負の遺産である不要部品が自然に減少するようにもした。目標コストに行かないと図面を出せない仕組みにもした。さてあれから10年、現在はどうなっているだろうか。元に戻るようだと体質改善とは言わない。

 体質改善の定義は元に戻らない体質、強い体質を維持することではなかろうか。


  (来月は『住民投票と民主主義』です。お楽しみに)

    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE

              佐藤嘉彦 著 エッセイ集 「千載一遇」より