嘉彦エッセイ


第42話(2007年09月掲載)


          



『一番になろう』


 この9月、私達の会社(株)VPM技術研究所は10周年の記念すべき時を迎えた。タイトルのように一番になったわけではないが、10年を振り返りつつ自伝に近いエッセイを綴ってみたい。

 この10年、設立時の目標は、60歳にて垂直に落下(定年で職を失う)したくないなと思い、多少手にある職を生かして何とか60過ぎからソフトランディングできるようにと、今の会社を設立した。この世界には大手の会社を卒業した多くのCVSや技術士たちがコンサルタント業にひしめくように参入していただけに、不安を抱えての出発であった。幸にも、スタート時点ではいすゞ時代の先輩諸氏、そして同僚達のご支援で順調な滑り出しができ、以降なぜか不思議に多くのクライアント(それも自動車関連の仕事は0で)に恵まれ、休日の団欒の仕方を忘れてしまうほど、仕事に追われる毎日になった。怖いほどの毎日だ。

 あるとき日本VE協会の「先輩CVSに聞く」という講演会で僭越ながら(先輩でもないのに)話をさせられた。私はいろいろの話の中で「成功者とは、所得とか地位ではなく、自分が目指したことを達成した人を言う。それは仕事だけでなくボランティアや趣味なども一緒だ」と語り、そして「私は成功者だ」と胸を張った。10年前目指した姿以上に今があるからだ。

私は終戦間際の19年9月に生まれた。両親は大きな愛情を持って育ててくれたが、戦後の食糧難や経済状態からか、とてもひ弱な子供時代を送った。幼年期のことや、中学・高校などの成長期の思い出は数多くあるが、何回かこのエッセイ(「努力に勝る天才なし」や「小さなチャンピオン」などで)で紹介したとおりだ。何をやっても負けばかりの幼年期から、小学校6年生の地球一周の成績双六、結核との闘い、皆勤賞を取り(そうかこれは触れていなかった、小学校の6年間私は結果、皆勤賞を取った)テニスのチャンピオン、高校生の陸上競技などいろいろ書いてきた。いずれも後塵を拝したくなかった話題だ。

書かなかった話題に社会人になって軟式野球をやる。職場のチームがまた強くて、11人しかいないチームなのに、3年間試合に出してくれない。でも休んだ選手の代理で出場機会を得てからレギラーになり、よく打って、終身打率は3割を超えた。チームで1番だった。国体予選の決勝で、0−1で負けたのが悔やまれるが、国体へ行っていたらうぬぼれていたかもしれないのでこれでよかった。

スキーも下手だったが、やはり努力した。電車のドアーの窓に自分を映してイメージトレーニングを欠かさなかったし、毎日脚力を鍛え(そもそも肺活量と下肢の筋力には自信を持っていた)順調に資格を取り続けた。滑る時はいつも先に滑る(上手いからではなく、上手いやつの後を滑るとコンプレックスを感じるからだ)そのうち競馬馬の訓練のように先頭を走る事が習慣になり(指導していることも勿論先頭を滑る条件だが)今も62歳にして、「では」と言って先に滑り出す。しかしこれは随分崩れ出し、「どうぞ」と言う様になって来た。それはもう恥ずかしい滑りで先頭を走る勇気がなくなってきているからだ。

 あの小6の成績世界一周が、50年後の今も、自分の支えになっている事が不可思議に思うのである。

 今の仕事に転じた後も、結構競争意識は高く、いつももう一歩前に、もう一社の仕事をと、そしてこの日は空いているから問題解決に当てようなどと考えているうちに、なんと稼働日は年間200日を越え、満足に浸れる事が出来るようになった。

 決して自分は1番だとは思ってはいない。しかし、負けまいぞ、もう少しこうしたらきっと前へ進める、だからやってみよう。この小さな繰り返しの積み上げが満足度を高めてくれている。しかし、寄る年の波には勝てない。1番を誇っていた健康にも徐々に自信を失いつつあるし、姿かたちは写真などを見てぞっとするし、年のせいにしているが怠慢もあってジリジリと一番から落ちていっていることも多くある。疲れは取れなくなった、睡眠も充分ではない。単語(英語も日本語も)がすっと出てこない・・・あるある。



まっ、そうあまり卑下せずに、まだまだやれる事がいくつもある。現にまだ出来ているではないか。自分に自信を持ってこれからも生きよう。誰とも比較はしないで「俺は一番だ」と叫びながら・・。

読者の皆様に

毎回お読みいただきありがとうございます。VPM10周年を記念して、42話を纏めた「千載一遇(改)」を非売本として出版することにしました。ご希望の方は「エッセイ送れ」とタイトルをお書き(迷惑メールとの区別のため必須)になり、下記アドレスにメールしてください。10月中にはお送りできるかと思います。ご希望の方は、氏名、会社名、所属、メールアドレス、送付先住所、感想等ありましたらそれもご記入ください。

アドレス:vpm-office@dol.hi-ho.ne.jp

    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE

               佐藤嘉彦 著 エッセイ集 「千載一遇」より