嘉彦エッセイ


第47話(2008年05月掲載)


          



『ヤル気の原点は夢と責任感』


  新入社員が入ってきて1カ月が経過した。希望に満ちて新しい世界に飛び込んできた若者たちに、5月病が襲ってくる。この多くの要因は、やる気満々であったことに対する、失望感が中心だ。五月病という病にかかるほど大事なヤル気、では人間はどうしたらヤル気を起こすのか。…今回はこんなことを考えてみたい。

若者たちにとっての新生活は、きっと夢に満ちてのスタートであったであろう。「イヤーこの頃の若者はそんな気持ちは・・」との説もあるが、私はやはり新しい環境に対しては多くの人が純粋な夢を持って臨んできていると信じている。

しかしかれらの入社後の現実は大きく異なり、偶像化していた夢は、現実の世界になると、ことごとく崩れる。ぐっと身近な事例では、全く想像していなかった寮生活や会社の昼食、寮生活もドラマに出てくるような近代的な明るい寮で、寮母さんが明るくさわやかに出迎えてくれる。そして暖かくほっかほかした食事が待っている。(ここまで想像しなかったかも)しかしこの1カ月の現実は、寮に帰り暗い部屋にスイッチを入れる・・調度品も揃っていないので閑散とした湿った部屋、会社の昼食といえば、べっとりとしたご飯に、ワカメが少し入って冷たくなった味噌汁、そしていつ揚げたのか冷たいエビのフライ、レタスの上にのったポテトサラダと薄く切ったハム、サンマの切り身が一つ、3枚のたくわん、こんなおかず、たまになら許せるが毎日毎日・・・えっひょっとしてこれを40年間も・・とがっくりくる。

新入社員研修がそろそろ終わり、職場の先輩とのOJT、手続きも複雑で、なぜこんなに伝票やはんこを揃えなければならないのか疑問・・・から抵抗・・・そして失望。説明をしてくれる先輩の目が光っていない。なんか先輩の方がやる気がないのではないか、おざなりの説明で自分をCreativeにしてくれない・・「俺だったら」と思っても、なかなか従来の習慣が大きな壁のようだ。こうして5月病に感染し、徐々に仲間と話すたびにそれが蔓延し、重病化していく。

サラリーマンを卒業して今振り返ってみると、自分にこのようなストレスを持った時期があったのだろうか、きっとあったと思うがそれほど重病ではなかったのであろう、記憶にない程度。

私たちの日常生活の中でもやる気のあるときと、無い時がある。公私のシチュエーションに左右されるが、大きくは自分の心の持ち方が左右するものだ。

机のまわりを片付けようとするとしよう。私の場合およそ面倒臭がって片づけ始めては中断し、そのうちやろうとなることが多い。机の周りの整理整頓に夢があるわけではない。少し責任感(乱雑にし過ぎた)は感じるが、その程度はモチベーションを高める動機にはならない。やらなければやらないで済んでしまうよ。・・・・これが“づくなし”(?)“づつなし”(?こんな方言があったね、どなたか知っていますか)の姿…実はこれが私の本当の姿なのである。話を戻して・・・。

しかし、自分の仕事、とりわけ今の仕事柄、考え始めると構想やアイデアが止まらなくなる。お酒をいただいて寝つきの良い夜でも、夜中にふっとトイレに行った途端からまた思考が巡り、頭は冴えてくる。もし私の構想が実現したら、こんなことになり、こんな成果につながり、会社はこう変わり、あの人はこうなるだろう・・・夢があるからだ。時には課題であるので責任感がうずくこともある。これも爛々と頭を冴えさせてくれる要因だ。今の仕事でも私も人間、燃えてこない相手先やテーマも勿論ある。そこには必ず夢につながらない何かがある。

思い返してみると、サラリーマン時代は要領が良かった方だが、しかしいつも夢を抱いて、「千載一遇」(このエッセイの第一話参照)を楽しんでいたような気がする。私はサラリーマン時代に、会社が楽しくなかったことは一瞬を除くとほとんどなかった。それは単なる思いやりの無い上司との関係だっただけ。その時期は短かったので、あとの長い生活はいつも夢追い人だった。どちらかと言えば若い、一社員時代から自分で仕事を開拓させてもらった。仕事も人がやらない仕事を(作り)自分の満足する形になるまでやり、時に上司が期待するゴールに向かって走る(これは責任感と言えるのだろう)、これで楽しくないはずがない。いくつも元いた会社に残すことができた。Tear Down、VE、MD、原価企画・・・これで楽しくないはずがない。チャンス(夢)を作ったのは前述の千載一遇だ。

今回のタイトルはヤル気だ。私たちはどんな気持ちを持ったらヤル気が湧いてくるか、どんな環境を作ってあげたら若者たちがヤル気になるか、そう、先ず夢を作ることかCreativeな夢を(自分で)持たり、(相手に)与えたりしたらそれを実現する楽しみを(当事者は)持つのだろう。実現させるために当然責任感が芽生えてくる。これも大事なヤル気の素だ。

すでに出来上がったことを繰り返えさせるときでも、新たな創造(進化・夢)の機会を付け加えてあげたらヤル気が増してくる。夢には競争心・闘争心(他人より勝りたい・先んじたい、目立ちたい、)も刺激になるのだろう。そしてそれを完成させたときの喜びを味わったら、大きな自信を持つことになる。共に喜んであげたら再び挑戦意欲がわいてくる。

もう一つ付け加えておこう。ヤル気は他人がチャンス(お膳立て)を作ってくれるものではないこと。自分で作るのだ。自分で作ろうとすれば周りが支援してくれることがある。しかし周りを期待しない。あくまでも自分だ。…しかし、本人次第とは言え、管理者は自分の職場を活性化させるために関係者の行動を上手に刺激することも大事な役割であることも忘れないように。

(第5話「夢追い人」もご参考に。)


    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE

               佐藤嘉彦 著 エッセイ集 「千載一遇」より