嘉彦エッセイ


第69話(2010年03月掲載)


          



『トヨタと朝青竜』


  リーマンショックの荒波にあの世界NO.1企業トヨタ自動車も例にもれず、苦戦している。その原因は基本を忘れたからだと厳しく、「日経ものつくり」誌の昨年7月号に書いた。この書き出しで今月号のエッセイにしようと書き始めていたら、もっと大きなリコールと言う衝撃が走ってしまった。

数年前から有利子負債が巨額で、佐藤の論法からは赤字転落になる企業に入るのに、私は他の会社には厳しく指摘をし、トヨタはグローバル企業、あの高収益、あの品質・・・良いことずくめの企業と思い込んで、その一般的な指摘をトヨタについては外していた。これがそもそも私のまだこの世界で本物になっていない(客観的に見きれない)要素だと、ずいぶん反省をさせられた。

 ところが何と、ここにきて世界的なブレーキペダルのクレームには衝撃を受けた。800万台のリコールとも言われている。更に国内ではあのプリウスのABSにクレームが・・・。最近トヨタの品質が怪しいとは日経誌にも書いているし、講演やその他の場面でも(特に「日経ものつくり」誌の臨時号には強調して)指摘している。

私は同社製のVOXYを愛用しているが、1年たたずに低級音がドアーの中から聞こえ、窓を上げ下げすると異音が出る。その前のWISHは太陽に向かって走るとダッシュボードがまぶしくて、これって、設計者たちはきっちり検証したんだろうかと思い、しゃべり(講演)、書いた。そのWISH、足回りの異音が気になって修理を依頼したら“無料”で帰ってきて、まだ不十分だったので再度修理を依頼したら更に“無料”。これは怪しい、無料のはずがない、何かあると、車検を取らずにVOXYに替えた。どうやら世間では問題になっていないようだ。いや、公にしないで順次改修しているのかと疑ったりした。

 私たちはトヨタと言えば全幅の信頼を持ち、日本の基幹企業、世界のトヨタ、日本の誇るトヨタ、トヨタなら安心と思い込んでいる。少々問題があっても「何かの間違えではないか・・」などとかばってしまう。


 横綱朝青竜が暴力事件を起こして引退した。今まで何度もトラブルを起こし、謹慎と言う前代未聞の処分を受けても生き延びてきた。確かに憎らしいほど強い。もうくたばったかと思うと、不死身の如く復活してくる。25回も優勝する記録的には大横綱。この業界は心技体と言って強いだけではダメと言われていながら、強くなければお客を呼べない、強ければお客が集まる。師匠も協会も真剣に処分ができない。王者なるがゆえに甘く見てしまい、本人は慢心してしまう。

 我々は強いものに弱い。少年期を思い出しても大きな身体の強いものにはあまり逆らわず、どちらかと言うとついて言ってしまう。少々勉強ができたくらいではだめだ。身体が弱いと逆にいじめの対象だ。私の子供時代には見られない現象が、今や日常茶飯事。周囲でこれはまずいと思っても手を出さない、注意もしない。気づいていながら何も手を打てなかったところに大きな原因があると思う。政治でもそうだ、チベットを、ウィグルをいじめる中国に犬の遠吠えしか世界は動かない。政治もそうだが、スポーツ団体などでも同様だが、今回のトヨタの不具合事件と朝青竜問題は何か共通項があるようだ。

 共に自惚れていて、自分を見つめることを怠った典型的現象。内部はもちろん、周囲(必ず気づいていたはず)も勇気を持って指摘や注意をすることを怠った結果でもある。言っても聞く耳を失っていたのかもしれない。エリート幹部の独善が生きていたのかもしれない。

世の中の技術書の多くは『トヨタ』関連、良く売れていたが、今度は逆の『トヨタ』が売れてしまうのだろう。皮肉なことだ。

横綱(スポーツ・産業界)なら何をしても許される、その傲慢さも共通している。何しろ看板の土俵入りをしている横綱であり、片や経団連を牛耳った会長がいた会社である。

 しかし、世論は勇気を持って立ちはだかった。アメリカの産業界も、散々トヨタにやられてシンボルのGMが破たんするまで追い込まれた原因はトヨタの攻勢・・・1点のスキを突いて徹底的に叩きに出た。不具合はあってはならないこと。私のVOXYやWISHに伏線があった。叩かれないのを“良し”として、緊張を失ったのであろう。これで会社が消えた例は枚挙に遑がない。

暴力は社会的制裁を受ける。当たり前のこと。相撲界の秩序を破っても許されてきたことがおかしい。

共に、ある問題をきっかけに鬱積した不満が一気に噴き出し、方や職を失い(引退)、方や世界中から目の敵にされる。そして共に国(日本・モンゴル)の威信を失わせてしまった。大罪だ。


 そして、この2例の裏にあるものは当事者だけでなく、周囲が問題が起きる前にその基となる要因を発見し、正す努力をするかが重要だ。発覚してからでは後遺症が大きい。

組織を良くしよう、良い会社にしよう・・と思うなら、ある意味で当事者だけを非難するのは卑怯なのかもしれない。周囲の人の責任もあると思う。言う勇気と聞く耳。横綱は消えたが産業界の横綱は消えてもらっては困る。

この教訓は至る所で我々に教えてくれるものだ。肝に銘じよう。


    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE