嘉彦エッセイ


第68話(2010年02月掲載)


          



『寒がりになってきた』


 今は真冬の最も寒い時期、実はいすゞ自動車時代、12月までは会社の作業服を半そでシャツで過ごしていた。いすゞには54歳まで藤沢工場を中心に生活させてもらった。実に美しい工場で緑豊かで芝生の部分も広く、毎朝トレーニングする者には格好の環境であった。

 元々高校時代はランナーであったこと、会社に入って下手ながら野球を始め、スキーも親戚がスキー場を経営していたこともあって良く楽しんでいた。両方とも、あまり上手くはなく、野球は10人しか選手のいないチームで3年間試合に出してもらえなかった。スキーもいすゞに指導者が不在だったこともあって、指導を受けた経験はほとんどなかった。

 しかし、野球はわが“いすゞマイティース”はとても強く、神奈川県の国体予選では決勝まで行って、延長11回1対0で「元国体選手」の肩書きは付かずに終わった。そう、その頃はようやくレギュラーになっていて、2番か6番を打ち、年間の打率は何年間かクラブ1位を保っていた。レギュラーになってからは、目立たないが高打率のメンバーだった。

 どうしてもレギュラーになりたい・・・その思いから格好のトレーニング工場を見過ごすことはなかった。そしてその頃からスキーにも熱が入り、ちょうどシーズンが全く反対であることから、年中通してトレーニングをしていた。生産テストコース(当時は完成車の試運転をするコースがあった)は一周600m、5周走ると3Km、工場の建屋の周りを2周走ると確か4Kmになった。良く走った。走った後は筋力トレやバットスウィング、10月くらいからはストックワークに代わっていって、冬に備えるバージョンになる。ひと汗もふた汗も流して事務所に戻り、着替えてから仕事の準備などをしていた。トレーニング開始は始業1時間少々前、トレーニングが4~50分くらいだったと思う。

 こうして真剣に身体を動かすと、エネルギーが充満して、冬になっても長袖を着る必要がない。1日身体がほてっていたものだ。しかし、お正月の越年合宿(スキー)を終えるとさすがのエネルギーマンも長袖に代わる。スキー場で長袖を着、セーターを着てしまうからだ。今考えるとそれでもあんな薄っぺらのウィンドブレーカーで良く寒さに耐えたものだと感心する。セーターもペラペラの安物だった。家内が結婚するころに編んでくれたセーターはしっかり暖かった(違う暖かさだったかも)が、既製品には、当時良いものが出回っていなかった。それでも長袖にしてしまって年明けの初出勤からついに長袖に作業服が変わった。そんな繰り返しだったが、実は管理職になって徐々にそれが壊れていった。トレーニングもおろそかになり、外出予定があると朝からYシャツを着ていたからだ・・・でもそれって、やっぱり言い訳だったなと回顧する。管理職だからではなく、トレーニングのモチベーションを上げきれないままにいたように思う。すなわち怠けの始まりだった。

 最近、半袖どころではない、ベストを着たり、ハイソックスの靴下を履いたりする。「何だ、根性の無い奴だ」と自分に言い聞かせながら、情けない姿を呈し、地球温暖化の恩恵の逆行を実践してしまっている。情けない。

更に悪いことに、今年は秋に少々風邪の前兆(私はまず、必ず喉が痛む)を体験したら、インフルエンザ絡みで悪化防止を建前に厚着が始まった。風邪が治ったからと思ってももう脱げない。情けない。

先日県連(スキー連盟)の行事で北海道へ、ホテルからスキー場へはバス。車中では脱いでいるものの、脱いだものの大きさは膝の上には乗らないほど、こんなに着こんだらスキーができないだろうと思うほど寒さに怖がって着こんでしまう。『寒いよりマシだ』と着こむのである。それが後々尾を引いて寒がり→着込む人になってしまう。

 仕事の世界に「安全係数」という言葉がある。「マージンを取る」などの言葉を使う企業もある。理論上の限界値に幾ばくかの安全係数を掛ける。10トン車の重量に耐える橋、1台のつもりが2台乗ったら・・それが多服ですれ違ったらとか、いろいろなケースを予測し、10トンの積み荷を過積したらとか、更に不安要素を想定して、安全係数をとる。

在庫などでも、万が一次の納品が遅れたらと少し余分に持つ。向かい、在籍した会社で「カンバン方式」を導入したら、数量がどんどん増えていってしまった。本来少なくなってギリギリを狙っていくものだが心配係数を掛けてしまう。橋の設計の様なケースでは、状況をどの様に正確に読んでギリギリの安全係数でモノを設計するかが設計者の最適設計の一つの条件になるし、後者は限りなく納入管理を徹底して在庫を少なく、納入ロットを小さくする。究極がJust in Time=JITになる。欠品したら問題が見える。どこが悪かったか。橋はつぶれて大事故になるかもしれないが、在庫などは挑戦すれば体力がつく。こうしてトヨタは強くなった。

寒さを恐れて着膨れしていくように、不動在庫を抱え(頭を抱え)いる企業もある。そういうところがこのリーマンショックの打撃をもろに受けたところと日経もの作り誌の連載に書いた。

 着膨れで風邪に備えるのか、運動してエネルギーを蓄えて薄着の体力で風邪と戦うのか・・・答えは明確。しかし「言うは易し」を最近65歳の身体が実証してしまっている。あぁ情けない。

    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE