嘉彦エッセイ


第115話(2014年01月掲載)


          



『経験』


先日(127日)男子プロゴルフの2013年度最終戦『ゴルフ日本シリーズ』を読売カントリークラブで家内と観戦した。

プロゴルフを観戦するのは何年振りだろうか。太平洋マスターズを御殿場で観て以来、
グレッグ・ノーマンが優勝した年だから、1993年以来の事。ナ!なんと20年ぶりだ。


数日、小春日和の日が何日か続いていて、その日も天気予報では少し寒くなるが快晴と伝えられていた。
私はそこそこ暖かい恰好は準備していった。

ゲームは3日目なので、まだ最終日を残し、宮里優作がトップでゲームを終えた。
ここまでは単なる報告だが、日本シリーズなので出場選手に限りがあって10組しかPairingされていなかった。


スタート地点に観覧用スタンドがあって、まず要領よくというか、「ここは有料ですか」と聞くと
「いや、無料ですよ。あと二人で満席です」ラッキー!ショットする選手の後姿にはなるが、
身近で、良い席で観ることができ、10組が順次コースに出ていった。やはりすごい迫力だった。
でも、ボールの見える横から観える席をもっと早く取ってしまえば良かった、と実は悔しがった。
選手の顔も良く見えるし、ボールは観客席と直角、即ち目線の方向に飛んでいく。少々早く現地に行ったので、
十分その客席を確保できる余裕はあったはず。ボールの飛んでいく後方にいればどこに行ったか分かるが、
後姿ではボールは横切っていく方向なので、あの猛スピードのボールは見届けることはできなかった。


10組が出ていったら、さてどこへ行ったら今話題の選手が観れるのかが分からない。
特定の組に付いて歩いたらその組の選手以外の選手は見れないし、どこで観ていたら一番迫力のあるところが観れるのか、
見当がつかない。人混みのところはやはり迫力のある観戦ポイントの様で、知る人ぞ知る人だかり。
知らぬ人には後ろから背伸びして覗くのが精いっぱい。観戦ポイントを探しながら、後ろから背伸びや、
すいているところで選手がショットするのを楽しんできたが、そこでだ、驚いたことに、皆さん良い道具をもってきている。
背伸びしないで済むものや、楽に座って観れる携帯の椅子。多くの人がリュックサックに7つ道具を仕込んできているのだ。


午前中は暖かく、観戦を楽しみ、早めの昼食は混まなくてよいだろうと、早々に頂いた。これは想定通り、うまくいった。
   午後、さあ、日が陰り冷え込んできた。持ってきたものを全て身に着けて観戦したが、
上半身ばかりで足元はスース―して来た。身体はどこかが冷やされると、
ラジエターで冷やされた水がエンジンを冷やすように、全身を冷やしていく。
周囲を見ると、芝に座って観戦する人はしっかりあたたかいものをもってきて、ひざ掛けまでかけているではないか。
スパッツ迄つけている人さえいる。
寒さ対策の道具は50年のスキーヤー、十分兼ね備えているが持ってこなければ何の役にも立たない。

経験とは恐ろしいとつくづく思った。次は絶対に経験に基づき(とは言え、まだまだ経験は浅い)
それに推定で準備品の狙い撃ちをして出て行こう。経験が増えればそのころは万全になる。でも備えあれば憂いなしで、
考えすぎるとキスリング(山用の大型リュック)を背負っていくようになってしまうかもしれない
。これは過剰で効率を考えて…こんなことを瞑想した。

スキーは私の得意スポーツの一つだが、50年くらいの経験から、ベテランの顔をして新しいシーズンを迎えるが、
そのベテランもひと夏を過ぎ新しい冬に向かうと、準備する道具に迷いが出る。
滑る道具はさほど種類があるわけではないが、生活(スキーは宿泊が伴う)用品には必ず欠落と余剰(無駄)が出る。
マニュアルでも整備しておけばこの恐れはないのだろうが、ベテランであればこそ安心が生まれて、
現地に行って、そうだ物干し(自室や乾燥室に自分の小物をまとめて干す小道具)を忘れた、
洗面所のコップもこの宿では必要だった(衛生上置かない宿もある)・・・抜けが出るのだ。
逆に、先入観で使わないものを1回目は持って行ってしまう。それも毎年、同じ先入観で同じ物を。
でもシーズンに入って1回目のスキーに行った後はさすがに経験が生き始める。
今年も最大公約数?の荷物をもって初滑りの車山に行ったが、さすがあのホテルは準備品が揃っていて、
それでも自分のものはやはり忘れたものが出てきたし、一度も使わない道具もずいぶん出てきた。
年末のクラブ行事では、しっかり忘れることなく済ませたが、これで今シーズン、もう忘れ物はなくなるし、
余分なものを持ち歩くこともなくなってくる。でも知らない人、経験の乏しい人は迷い苦しむ(どうしたらよいか悩む)のであろう。
経験とは有り難い事なのだ。そして想像では限界があることも思い知らされることがしばしばだ。


   VEはどうだ、Tear Downはどうだ、管理技術はどうだ。書物に学び、役職と年功の肩書で風を切って歩く技術者、
これではゴルフ観戦のお天気状態の備えにしかならないだろう。
機能定義が、機能整理が、機能発見の生活研究が・・・経験がないとできない。理屈ではないから。
都度、都度異なるシチュエーションに遭遇するから楽しい。経験不足は忘れものだらけでなく、気づかないから・・・
これで良いだろう”と薄っぺらでも自己満足に陥る。


   Tear Downの展示から一生懸命アイデア出しをする。何百件の提案が出たと満足する。
違うんだよ、比較分析すれば違いがまずアイデアなんだよ。アイデア提案会なんかいらないんだよ。
ずっとずっと効率が良いんだよ。そこにVEの経験があれば、比較による相違点と機能分析が繋がり、
新しいアイデアが出てくるんだ…その経験がないと薄っぺらの自己満足になるのだ。

   だからVEも、IEももちろんTear Downも“経験工学”と言うんだ。

  今年も経験を積んで更に薄くない出力をして、競争に勝とうではありませんか。

皆様、良い一年でありますように。成功をお祈りします。



    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE