嘉彦エッセイ


第119話(2014年05月掲載)


          



『100歳のおしゃれ』


先月号はエッセイにならないエッセイを、それも長文の悪戦苦闘物語として皆様に披露しましたが、
今月は少し優しく、少し自分に言い聞かせるエッセイを書いてみた。



私の母は大正3年6月26日生まれ。役場に届けたのが8月3日で約1カ月以上無国籍だったことになるが、
昔の事、田舎の事、良くあることだ。

大正3年は西暦では1914年。今年は2014年、なんと100歳になる年だ。
母から生を受けた私たち子・孫・ひ孫、そして彼女との血縁者で100歳の誕生会を6月に細やかに開こうと考えている。

私はサラリーマンだったことで定年をとても気にしていた。私の時代に55歳定年が60歳に延長になり、
更に今は再雇用の処置などでもう少し働けるようだが、聞くところによると日本の定年55歳は、その昔、江戸の時代の平均寿命が
55歳だったことに起因するそうだ。奉公に上がっていた大店で天寿を全うし、大店の大旦那がささやかな葬儀を出してくれ、
その年齢が平均55歳、それが日本のサラリーマンの定年に使われるようになったと聞いたが、本当か嘘かは定かでない。
しかし平均寿命が55歳は概ね当っていそうだ。
今の平均寿命は男性が79.6歳、女性が86.4歳だそうで、寿命もずいぶん延びたことになる。
母は江戸時代の寿命の倍に近づいていることになる。



  そのわが母は、3年前の7月(6月に97歳に成った年)に転んで、骨盤の角にひびが入り、痛みで歩けなくなった。
10月末には内臓もおかしくなって入院した。退院後介護用ベッドが持ち込まれ、年の瀬を迎え、
私や妹はいよいよ最終章かと覚悟したが、なんと翌年(2012年)の春に、少し歩いてみたいと言い出し、
家の前の道を東に向かうと150mほどの角に、古いお豆腐屋さんがあり、そこまで挑戦してみた。
自分で歩こう・歩かなければ寝たきりになると目的をもって歩き始め、今や、先ほども歩いてきたが、
歩行器に頼りながらも今日はなんと3677歩も歩いてしまった。

介護ベッドが快適で、歩く時以外は家の中の生活のため、ついついゴロゴロ、近所の人が遊びに見えると炬燵に移り、
半日お茶のみ、帰るとまたベッドでゴロゴロ。

歩くことは、ベッドのゴロゴロからの解放もあって、大変喜びを感じるようになり、妹や家内も手伝って交代で散歩のお供をしている。
あまり散歩の間が空いて私が在宅の時には、督促してくるようになった。一人では歩けないからだ。

歩けば運動になり足腰も衰えを少なからずカバーしてくれる。身体を動かすと食事が美味しくなって三食ぺろりと片付ける。
好循環が生まれ、半年ほど前からデイサービスにお世話になるようになった。足に自信ができて、外に出たくなってきたからだ。
自信とは恐ろしいものだ。


  最初はどこかの施設に送りこまれるのかと、今度は知らないことは恐ろしいことで、抵抗もしたが、
2・3回目あたりからあまり社交性のない母が、デイサービスをとても気に入り始め、週に1回が2回になり、3回になって来た。
食わず嫌いだった。


  デイサービスの日は、なんと早々に一張羅の服に着替えて、朝食はまだか、迎えはまだかと待つようになった。
今朝も20分も前から玄関で靴を履いて待っている。その日は良いアドレナリンが出始めて、希望や夢は思考までめぐらすようになる。

その一張羅、たいしたものは持っていないが、毎日お洒落を決め込みだした。
ベッドでゴロゴロの時には毎日「もう捨てたら?」と言うレベルの服で過ごしていたが、外に出るとなると、服装にも気を配るようになり、
誰か見てほしい人がいるわけでもないと思うが(いたりして??)お洒落と言う言語信号の世界の側頭葉を回すようになったのだ。
今日は紺のカーディガン、今日は厚めの紫のセーター、「えっ!おばあちゃんこんなに持っていたの」と言うほど、
次から次のファッションショー。


どうしてだろう?
まずデイサービスが楽しい。楽しいから早く行きたい。毎日来所するメンバーも変わる。一緒に時間を過ごす相手、そう、
せめて服装だけでも負けたくない心も少しはあるのかもしれない。
オシャレするだけで自分の心を楽しくさせる効果があるからかもしれない。
(第32話「おしゃれ」でお洒落の楽しさのエッセイ有:2006年11月)

一つの目的や、やりたいことができてくると、自分の心が浮き浮きとしてくる。この心理がお洒落に繋がってきているのだろう。

それを見て、自分に言い聞かせることが見つかった。そうだ、自分のやりたいこと、成し遂げたいことをもう一度整理してみよう。
そうすればファイトも湧いてくるし、アイデアが出てくる。動きがきびきびしてくる。歩くスピードも変わる。時間を気にするようになる。

夢や理想を追えば、我々のアマチュアスポーツ団体も、もっともっと活性化するし、
企業もやり方によってどんどん良いアドレナリンが出て、社員の健康にも+αを与えてくれる。
ストレスがたまるとアドレナリンは逆効果になるそうだ・・・これも自分への忠告なのだろう。

目的だ。目標だ。希望だ、夢だ。これを糧にもっと元気を足していこう。100歳のおしゃれに学ぶ「元気」でありました。

    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE