Chopin Association

〜阪本公美 第2回 ソロリサイタル〜


                           評論家:嶋田邦雄氏「音楽の友1月号(=2011年)」より

■関西の演奏会から・・・嶋田邦雄

≪阪本公美ピアノ・リサイタル 2010年11月6日・兵庫県立芸術文化センター(小)≫

ショパンに集中したプログラムで、「バラード第3番」から弾き始めた。
透明で、柔らかく温かい音色だ。
阪本はこの曲から豊かな物語を引き出すように、悠揚としたテンポで、静かに曲想を展開する。
希望と苦悩、情熱と諦観などを綾織のように構築し、その物語を側面から補強した。

それは続く「前奏曲」op.28からの5曲(第1、4、11、15、18番)にも引き継がれる。
特に『雨だれ』では暗鬱な基調を貫いて流れる“憧れ”にも似た一筋の光が
ショパンへの想いを彫りの深い世界へと誘導した。

この後「前奏曲」op.45と「3つのマズルカ」でショパンの多彩な側面を披露した。

後半はまず「ソナタ第3番」。情熱の激しい迸りと優しい吐息が対話を重ねながら
曲想を高めるような阪本の演奏は特に第3楽章で極限の憧憬を作り出す。
それがフィナーレを際立たせる効果は淡々とした流れの中に築かれていた。緻密な構成である。

最後に《子守唄》と《舟歌》。時代へのプロテストや激情を静かに労り、
再び詩的世界へと回帰させているようだ。
詩的で同時に知的な演奏である。



〜阪本公美デビューリサイタル〜


                                   評論家:出谷啓氏HP演奏会評より

≪阪本公美ピアノ・リサイタル≫

 神戸大学の発達科学部卒業という、異色のキャリアの持ち主で、これがデビュー・リサイタルだという。多くのコンクールに入賞経験があり、テクニック的にはかなり高度な修練を積んでいるようである。
前半がバッハのイタリア協奏曲と、パルティータ第2番、後半はオール・ショパンで、バラード第1番、作品27のノクターン2曲、作品64のワルツ3曲、それに幻想ポロネーズといった選曲である。

 バッハの2曲は典型的なグランド・ピアノ的な発想で、原曲がチェンバロのための音楽とは思えないほど、ピアニスティックな表現で、よくいえば楽天的だが、現今余り接することのないスタイルといえる。
だがリズムはよく弾み、ミスもほとんどなく音色的にも美感が損なわれていない。
全体としてはいささか無思慮だが、若々しく爽快感に溢れた演奏であった。

 ショパンでも決して暴力に訴えたり、濁った汚い音を出すこともなく、むしろ音色に関しては、独特のセンスを持った得難い資質さえ感じさせた。
ワルツなどテンポ・ルバートがユニークで、これは自らの発想によるのか、師から教えられたのか、にわかには判じ難いところだが、彼女ならではの個性的な表現であり、自らのものならば大切にして欲しい美点だ。
ただバラードやノクターン第8番で、細かいフィギュレーションの処理にミスがあったのは、メカニックの面でのウィーク・ポイントがありそうだ。

 またプログラム全体を通して、力の配分も無理がなく、淡々とこなしていたのは、頭脳的な設計の確かさの証左だといっていい。勿論音楽の作りは若く、未成熟な点も多く、技術的な練磨もこれからさらに望まれるが、初志を忘れずに精進して欲しい。音色と響きに対するセンスは天来のもので、これは彼女の貴重な財産といっていいと思う。

                                  (2005年12月17日・ムラマツリサイタルホール)




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