嘉彦エッセイ


第59話(2009年05月掲載)


          



『栄枯盛衰・・スキーはなぜ廃れるか-1』


 私の趣味がスキーであることはこのエッセイのコーナーでも再三お話し申し上げている。今回もスキーにちなむ話を2話にわたってお話したい。

 今年の冬は、まさに地球温暖化の影響だったのか、雪不足に悩まされ、多くのスキー場が早めに閉鎖したり、雪つくり(人工降雪機で作る)や雪運びで何とか営業したところを多く見かけた。私が関連したスキー連盟の行事でも雪が少なく、いつものバーン(滑走コース)が使えずに変更をしたり、会場を変えたところさえ出てきてしまった。こればかりは自然との戦いで何ともし難いが、本当に温暖化が直接の原因であるとしたら、これはスキーの問題でなく、我々の生活がどうなるのか深刻に考えさせられる大問題だ。少なくも小学生の頃に長岡(新潟県)では豪雪で2階から出入りする教科書で学んだものだが、記憶にある範囲で、長岡に積雪を見たことがほとんどないのが実情だ。温暖化の姿か。

世界が温暖化対策について騒いでいるのを横目に、私を含め、電気の点け放しや、アイドリングしたままちょいと車を止めていたり・・短い距離を歩けばお利口さんなのにわざわざ車で走ったり、無駄に熱を発していることがしばしばで、できることを行っていないケースが山ほどある。

 今回の話題は、自然との戦いとは別に原因を持つ、スキー界の盛衰である。雪が減った話ではなくスキー人口が減った話なのである。実はこれが他山の石なのである。特にスキーの世界でマネージメントするようになってなおさら目につくことがある。

 スキーを楽しむには、(目的地への)移動の要素、宿泊環境、滑る環境、滑りたくなる技術の世界と大きく4つの世界の環境がうまく組み合わさって、スキーヤーの興味をそそり、少々お金が高くとも、少々寒さに耐えても、それ以上の魅力を求めてスキー場に出向くのであるが、その魅力が少ないと、大枚払って出ていくことに躊躇するのである。

 移動の要素・・・これは車と道路、若しくは鉄道+バスまたはTaxi、これらについて、最近は整備がよろしく、特にスキーヤーの減少の要因ではなさそうだ。強いて言うとガソリン代と道路料金がまだ高いということか、しかし、道路は良くなりETC割り引き効果も出始めたので合格かなと思う。駐車料金を取るところがまだあるがこれは嫌われる要因の一つだ。あんなところ誰が行くか・・・と。

 滑る環境:スキー場はリフトも早くなった。古いリフトでチンタラ乗るのがおっくうな所も今だあるが、雪面を圧雪する整備も大半のスキー場ではしっかり行われており、環境の整備はさほどスキーヤー減少の要因ではなく、まずまずの合格だ。リフトから垂れる油は何とかしないと、「いつまで我慢を強いるのか」となろう。方法があるのだから手を打てばよい。出来ることをしないのは⃤“怠慢と言われてもしょうがない。

 問題は2点、今月はそのうちの1点目、自責から入るとスキー連盟側の問題だ。

特に道具の進化とともに、スキー技術が進化してきた。これは特に問題ではないが、そのスキー技術の表現やカリキュラムに問題があるのだ。

スキーはご案内のとおり、まっすぐ滑ることはなく、あの斜面を回転(ターン)をして楽しむスポーツだ。そのターンにはいろいろな回り方があるが、実はスキー教程や指導書で、その名称を難しくこねくり回し、何年かの空白のできたスキーヤーには付いていけない言葉が飛び交う。

今の小まわりはかつてのウェーデルンで何が悪いのだ。

中まわりだの大まわりだのでは、半径幾つから中で、幾つから大なのか…理屈を言いたくなる。困ったものだ。

もっと厄介なのは(来年度からこの言葉は消えるようだが)テールコントロールやトップコントロールなどと言う厄介な技術。

スキー技術の本質はスキーの持つサイドカーブをいかに活かして滑るか、その活かすきっかけの作り方とコントロールの仕方であり、本質的には昔と大差ない。

荷重の掛け方は荷重と抜重、両足荷重か片足荷重か。

スキー板と雪面の関係は雪面からジャンプするか、雪面を切るか横ずらしさせるかの3通り。

この基本をわざわざ変える、操作の方法をわざわざ変える・・このようにしてスキーは本当に進化したと言えるのか、厄介になって今更勉強もない、もういいか・・、こうしてスキーヤーをスキーから疎遠にする・・・これが日本のスキーを振興させる団体のやることなのだろうかと思うことがしばしばだ。

ある特定のエキスパートが持論を通したいがために、言葉を創り、あたかもそれが最先端の技術であるかのように宣伝して商い(DVDを作り、売る。テキストを創り、売る)にしていく。スキーを楽しみたい我々には良い迷惑だ。むしろ大事なことはいかに楽しくスキーをするかの「エンジョイ編」のマニュアルやテキストが欲しいのだ。

 何のスポーツ(実は工業技術でも)でも普遍的な基本があるものだ。トレーニング方法等は人間工学や身体構造の研究などから進化してきているが、心肺を鍛える、筋肉を強化する、瞬発力を蓄えるなどは本質に変わりはない。

 能登に旅したことがある。輪島塗りを見学し、あの漆の芸術に感動して海外へのお土産に何本か買ってきたことがある。漆の乾燥に電子レンジやオーブンなどは使わない。伝統的な天日干しだ。漆事態も似たような塗料に変えない。こうして伝統を守るから味が出ていまだに廃れない。何の技術にも不偏のものがある。変えてはいけないものがあるのだ。

 工業の世界でも、IEやVE、QCなど昔の技術者が極めた方法の本質に変わりはなく、先ず基本をみっちり学んだ人が勝ち、これは今でも変わりはない。

 確かにあたかも新しい進化した技術の様にアピールすれば、指導書は売れる・・・なぜくるくる変えて、さもしい目的を達成しようとするのか、スキーも工業技術も基本を愚直に教えて、スキー(仕事)の楽しさをアピールしたらいかがかと申し上げたい。

来月号では、スキーの宿舎について問題提起します。この問題はスキー宿だけではありませんよ・・・。


    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE