嘉彦エッセイ


第60話(2009年06月掲載)


          



『栄枯盛衰・・・スキーはなぜ廃れるか-2』


 先月号ではスキー技術がスキー離れを煽っていると書いた。何事も基本は不変だとも書いた。これは、スキーだけではない、技術やマネージメントでも全く同じ。

確かにスキーヤーの数が減ってきている。何が原因だろうか、スキー場へのアクセスの問題はまずまず合格、スキー場も満点ではないがピステンなどをしっかり入れて、スキーヤーを迎え入れる体制が整備されたスキー場は多く、これも合格に近い。残った問題は重要な生活環境である宿舎の問題。今回はここにメスを入れてみるが、これも“宿”固有の話ではない。われわれの周囲に山ほどある競争力低下の話だ。

 スキー場の宿舎には、民宿、ペンション、ホテルの3つの形式がある。ペンションは民宿に毛の生えたところから限りなくホテルに近いところもあるが、どちらかと言えば前者に近いところが多い。もちろんどちらにも属さない独特の味のあるペンションもある。

30年前、民宿は大はやりだった。これは普通の生活環境から別の環境に変わることが新鮮だったから、さほど不満にはつながらなかった。概ね何でも満足だった。しかし今の若者達からすると、時代遅れの設備と環境にヘキヘキしているのである。

スキー宿は都会からスキーヤーを呼びたいのである。相手は都会の生活者だ。しかし、来る都会のスキーヤー達の外泊パターンは、仕事ではビジネスホテル。何と朝飯が付いて5000円強。歯ブラシや髭そりや、毎日交換してくれるタオルやシーツ、寝まきも付いて、更に個室だ。もちろん風呂は自分用、一応清潔だ。固定資産税の高い都会の一等地でこれだ。夕食付き(あまりないが館内のレストランで)でも7000円前後

 先日もあるスキー場で、こんなことがあった。県との共催行事で、県の職員と一緒に泊まる行事があった。こっちは慣れているので歯ブラシ・タオルは持参していたが「歯ブラシは?」と聞かれドキッとした。スキーヤーでなければ当然置いてあるなと思って来る。部屋にはティッシュペーパーさえ置いてない。今度は「タオルは?」近くにコンビニもない。買うに買えない。

更に、洗面所はお湯と水の出る蛇口が別々。洗面器がないのでどうやってお湯を使って顔を洗うのだ!・・だんだん腹が立ってくる。まして夜10時になったらボイラーが止まる。水しか出ない。風呂に入れない。もう、いい加減にしろ!となる。

そして可部やろうかにある張り紙は「○○禁止」「○○お断り」「室内禁煙」とか、禁止事項が数々張られている。トイレに行けば「もっと前で立て」・・いい加減にしろ。挙句の果ては「持ち込み料を払え」と!!

「どうぞご自由に、空き缶は何処どこへ」とか、「禁煙にご協力ありがとう」とか「○○ご遠慮ください」と書いたら気持ち良いものだ。それもPCを使えば簡単な絵も入る、文字もきれいにプリントできる。スキーヤーを呼びたければ地域挙げて勉強したらどうか・・・と思うのである。

 我々は何事も比較する。都会のビジネスホテルができるのに何で民宿はできないのだろう。バイキングの朝食付きでも6000円のビジネスホテルは高い方だ。民宿は2食付きで7000円とか7500円とかする。歯ブラシもなく、八畳間に4人入ってだ。お客が離れるはずである。

 民宿側にも言い分はあるのだろう。暖房費が、乾燥室が、お客様は週末だけだし・・・しかし、都会のホテルに発生する経費と比較をしたらきっと都会の方が比較にならないほど高いのだろう。都会のホテルは1年中利用=しからば民宿も客寄せのイベントを地域で考えたら、夏は農業での収入もあろう、それを考慮したら・・・。民宿の味とは何か、都会のホテルにない心温まる味とは何か、そう考えたらまだまだやることはあるはずだが、昔ながらの冷たい暖房のない便座、ウォシュレットの無いトイレに、天井から水滴がタクタクたれるお風呂にしがみついていてお客が来ると思うのだろうか。トイレなど主婦でも暖房便座、ウォシュレットに変えられる。自慢の沢庵、お代わり自由と言ったら民宿の味が出よう。それを透けて見えるほど薄く切って一人3枚では何をか言わんや、である。

歯ブラシ・タオルなどは、地域挙げてまとめて買えば安いだろう。各地域の民宿の部屋数を足してごらんなさい。ビジネスホテルの何軒分にもなるはず。したがってやりようによってはポテンシャルがあるのだ。食材など典型だ。やればできること、それも安くできることはまだまだあるはずだ。

綺麗な字で「タオルご入り用の方はご遠慮なくお申し出ください」と書けないものか。知恵出せば何事もできるし気持ち良くなる。楽しくなる。お客様の微笑みが想像できるではないか。その効果で何泊分か泊数が増えたら何百本歯ブラシが買えるか。

 「驕る平家久しからず・・・」とは平家物語の行である。何度か私のエッセイではマンネリや気付かないことへの警告を発している。要は、その昔の良き時代を追憶して、“チーズはどこに”“茹で蛙”“昼寝のコオロギ” (このエッセイ:昨年4月号に掲載)してはいないか、言い訳して問題を回避していないか。宿舎の問題でだけではない。われわれの身近にある問題を冷静に見直してみませんか。都度々々比較をして現実の状況を把握し対処することの重要さをみんなで考えたいものだ。

世界には我々より優れた知恵モノがいてその人がどんどん勝っていく。「優勝劣敗」敗=負けの道は絶対選択しないことだ。常にこつこつ勝つ・・やってみませんか。


    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE