嘉彦エッセイ


第66話(2009年12月掲載)


          



『思い込み』


 私の専門のVEの世界には5つの原則があり、その中の一つに「創造による変更の原則」という、アイデアを限りなく出して素晴らしいものを創り上げることを原則の一つにしている。その創造だが、我々凡人にはなかなかアイデアというものを発想することが難しい。その難しさの元は人間の心の中にあるようだ。

 「創造を阻む3つの関所」があると学んできたが、その中の一つに「認識の関」というものがあって、実は先入観や思い込みに心が拘束されて、緩やかな発想を遮ってしまう。これが我々人間社会の発想でないところにも災いして真の問題が見えなくなることがしばしばある。

 思い込みには罪のある思い込みと、全く誰にも迷惑にならない思い込みがあるが、いずれも客観性を欠き、思い込まない方が幅広く事象を捉えられて、良いアイデアがでたり、最適な判断ができることは事実だ。

今日はいくつかの事例をご紹介しながら読者の皆様にも、あなたならどう考えるか・・一緒にお考えいただきたいと思います。

 最近、女帝「卑弥呼」が話題になっている。奈良に広大な卑弥呼の屋敷の跡ではないかという遺跡が発見され、多くの考古学者が注目をしている。
これらは、屋敷跡ではないかと言う推論の前にある程度の外堀が埋められて、他の出土品から時代的に合っていることや、
壊された銅鐸が卑弥呼の持つ宗教観と違うこと(これって裏づけあるのですかね)などなど・・
でもこの手の話は、誰かの勝手な思い込みではなく、推論を少しずつ裏付けながら確論にしていくのでしょうね。

 先日、家内と山梨の家に向かう途中、「家内はお盆休みでお墓参りの人が多いので混んでいる」と車中で話をした。一旦そう言い出したら全てが墓参りになって、「お寺の多い地域に行ったら高速は空くだろう」と言ったり、「やっぱり家族連れが多いのはお墓参りだ」と全てがお墓参りになり、いろいろな現象を無理やり裏づけの材料に使ってしまう。家族連れはお墓参りではないかもしれない・・ことは全く頭の中に発想できなくなってしまう。これは単純な独りよがりの思い込みだ。私も良くやる手法だ。

 これも家内と今月(11月)高野山から奈良、京都の紅葉狩りに行った話。高野山=和歌山にある=和歌山はみかんが採れる=暖かい・・・しかし寒かった。泊まった宿坊は20畳くらいの大きな部屋、電気ストーブを焚き続けて休んだ。金剛峰寺を訪ねたが寒いの何の、標高は1100m、朝の9時、当たり前でした。いくら南と言えども、キリマンジャロにも雪が降るのですからネ。

 私の失敗にこんなことがあった。7年ほど前のことだが、ある会社の仕事で船橋に向かっているときに、ふっと虫が知らせたのか、目的の一駅前で降り、駅のホームで、メールで訪問先の確認をしてみたら、何と富山の小矢部工場に変わっていた。その前の船橋訪問時にある理由で船橋と決めていたので、そのまま思い込んでいたが、メールの末端に会場は小矢部と確かに書いてあった。これは船橋を決めた時のいきさつから、変更になるなら、もう少し親切が欲しかったと他責にもしたが、これも(しっかりメールを読めば分かるのに)思い込みの一つだった。結局、今の仕事に転じて(いや、サラリーマン時代を含めて)たった1日、欠席の汚点を残した失態になった。

 こんなことも起きた。最近の出来事でゴルフをすることになったのに、予定の時間に一人到着しない。主宰者の私は高速の降り口や地図をメールで送り、更にNAVIを上手に使う要領までメールに丁寧に書き伝えた。しかし、そのご仁は、「八ヶ岳が見えたから今走っている道で間違えはない」と思い込み、行けば行くほど自信を深め(思い込み)、ますます走る。ご本人はきっと、もう着くだろう、もう着くだろうと信じ切って自分の判断を疑らない。スタート時間は30分も過ぎたが、たまたま大きなコンペが前にあって、幸い我々のスタート1分前に到着、これがいけない、『間に合った』から反省をしない。やはりNAVIに沿ってくれば良かったとは決して思わない。また繰り返す(だろう)。

 こんな事例も、ある発表会で私の後輩が発表をした。私に感想を求め、私は「しっかりやっているではないか。しっかり定着しているようだね」と返したら、のちに私に褒められたと思っていたようだ。「私は発表の直後であったのでお世辞を含めて労をねぎらったつもりだが、ご本人はお世辞の褒め言葉に酔ってしまっていた。本音は、「昔と変わらない、ということは進化がないことだ」と言いたかったのだが・・・。

 たわいのない思い込みは問題にならないが、時にビジネスが壊れたり人間関係がぐちゃぐちゃになることさえある。思い込みは怖いものだと何度も教えられた。しかしなかなか事実を把握することが難しいことも多く、かといって性善説のみでの推測も判断を誤ることがある。大事なことはコミュニケーションの取り方と情報量を確保して、如何に思い込みを持たせず、冷静にかつ客観的に判断できる環境や心を作ることかだ。特に正しく思い込ますテクニックが必要だ。それは正しい意図を相手方に心の傷を与えずにいかに正しく伝えるか、もしくは相手がこの情報で何を感じ、どのように判断するかを考えながら会話することだが、なかなか私にはできない術だ。

そういえばVE5原則に「使用者優先の原則」と言う原則があった。相手の立場を良く考えよと言っている。相手の立場に立って、相手が喜びを感じるようにしなさいという原則だ。正にCS(Customer Certificate=顧客満足度)なかなか出来ないものだが、思い込み防止の一助になりそうだ。

まだ勉強不足であります。



    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE