嘉彦エッセイ


第71話(2010年05月掲載)


          



『黒幕』

  私は長いことサラリーマンをしていて、会社と言う組織を見てきた。また、コンサルタントになって色々な会社の組織も見てきた。平行してスキーの組織を小さくは自分のクラブ、大きくは神奈川県スキー連盟に少なからず関わってきた。いずれの組織も表向きの動きと裏の動きが異なって、想像以上に自分にとって有利に展開したこともあるし、時に「えっ!なんで!」と大逆転の結果を見ることも、組織活動にはつきものであることを何度も経験してきた。

 政治の話をするつもりではないが、最近の民主党の動きを見ても、政府側に総理大臣がいて、党側に幹事長(本来代表が要るはずだが)がいて、それぞれ取り仕切っているわけだが、どうやら絶対的な取り仕切り屋は幹事長に集中しているように見える。

 自民党政権時代も、総理大臣はお飾りで、出身派閥の長が裏でマリオネットしていたことがある。良く見るケースだ。このように裏で取り仕切る人を黒幕と言う。今日はその黒幕にまつわる話をしてみたい。

 私のサラリーマン時代にあった話だが、ある非常に興味ある乗用車の開発をどうするか、大森の本社でトップを中心にした重要な会議が開けれ、その乗用車の開発は残念ながら諸般の事情で断念する結論が出た。出席した部長たちは肩を落として藤沢に戻った。戻ったその席に会議に出席したNo.2の役員から電話がかかってきて「いずれ開発できるようにするから、この話は諦めずに続けておけ」と指令が来た。開発部門出身のご仁は、ご自分も開発を続けたい一人であったので、裏で継続の指示を出したのだ。さあ困ったのは実務者たちだ。続けろと言われても人手はどうする、予算はどうする、具体的に動くに動けない話である。しかし本人たちも継続したい希望を持って本社の会議に臨んだくらいだから、この嬉しい話をみすみす聞き流したくない。まして、かつての上司の指示を聞き流せない。しかし、現在の部門のトップは別の人だ。組織は混乱する。

 ある会社では事業所と部門の指揮系統が異なって、社員はどちらの顔を見たら良いかきょろきょろしてしまうケースも垣間見るところでもあるし、ある企業では自社と言うより親会社の指令(動向)の方に影響力があって、そちらばかり見ている人がいたり、そちらの動きに左右されて、本来の組織が十分機能(決断や行動)しない事も良く見られる。 振り回される人の多くは、自分の地位や給与、将来のポジション等が餌になって釣られ、あるべき姿や行動を忘れている人も少なくはない。

私が活動しているスポーツ団体などでは、全日本も都道府県連も大方2年に一度の改選があり、次は誰か・・長くやってきた人はとかく黒幕的権力を持ち、
(おもて)の役職について組織を自分の考えに振ってみたり、組織から外れると全くの黒幕になって権力や影響力を行使して、表の組織機能が低下することは良く見られるケースだ。そして、政治も会社もボランテアの組織もこのはざまの中で人脈ができて、本来の業務の指揮系統や、実行に混乱が生じることさえある。

政界、会社、スポーツ団体やボランティア団体、はたまた町内会まで、いずれの組織に良くあるケースではありませんか。最近の民主党のごたごたも、自民党の新党ブームも、色々黒幕の動きや、白幕(こんな言葉はなく表に出ている権力者を敢えて言ってみたが)の発言が組織を混乱させている。そのうち見ている国民が飽き飽きして、政治離れになる。企業は栄枯盛衰、社長解任のトラブルで訴訟合戦している企業などはそれで潰れても、だれも同情はしないが、国や我々の企業・組織はそうなっては困る。

 いずれも、原因は時のリーダーのリーダーシップだ。部下や会員・社員が困らない予見と決断、指示・管理ができればその下に付く者たちは安心して付いて来れる。それと良識を以ってルールを重視することだ。決まったことを守ることは組織の当然の行為であるし、その決めごとが誤りであるならしっかり議論し直せばよいことだ。良識を持ってとは身近なところでニンジンを吊り下げたり、空手形を切ってはかない夢を与えたり、つられる方もつられる方だが、これは人間社会の常の様だ。そう言えば「儚い」とは人弁に夢と書く。

総裁が、幹事長がだめなら、しっかり議論して交代させるかすれば良い。会社勤めでは、なかなか上司の交代の引き金は引ききれないが、しっかり意見は言うべきであると思う。

辞めさせられないだけの相手方に支持があるなら、それは民主主義上一つの結論で、その組織で行動する限り従わざるを得ない事だ。大事なことはしっかり議論することだと思う。裏でごちゃごちゃ卑怯なことをしてはいけないと思いつつ、自分の身近なことではつい、根回しなることをしてしまう。

 また、決めごとやルールの自分勝手な拡大解釈も混乱を招く要因だ。これで混乱することも良くあり、黒幕の差し金で左右振られてしまうことがあるが、決めごとの内容やルールをしっかりさせておけば、拡大解釈のトラブルは少なくなってくる。

リーダーとは、まったくの頂点に立たない限りどの地位にも、その上司(指揮官)がいて、その下の指示を受ける人(部下)がいる。即ちあるリーダーの上下に人が付く。

そのリーダーがどこまで視野を広げてリーダーシップを発揮するか、そこに信頼が生まれ、安心して業務に臨めれば組織は円滑に動くが、疑心暗鬼が生じると同じ事を言っても・やっても、円滑さがが欠けてくる。そこに少し甘い水が注がれるとついフラフラとそちらに振り、組織は崩れ出す。更にそのリーダーの持つ技術的な部分も信頼を増す要因だ。その人の技術(事務能力もその一つ)がある程度あれば、付いていく人たちには安心が生まれる。黒幕の出番が減ってくる。

 でもやっぱり組織は信頼と愛情なのだろうな。こう書いてみていつも自分に欠けていることに気づく。エッセーを書き始めて良かった。毎月末は気持ち良くなる。




    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE