嘉彦エッセイ


第74話(2010年08月掲載)


          



『マニュフェスト』


  昨秋の衆議院選で民主党大勝の後を受けて、本当は勢いづいて戦えたはずの参議院選挙、・・・大敗。めまぐるしい世の中になったが、その選挙戦で使われた最大の武器は、「マニュフェスト」(Manifesto)だった。

 私たちはこうやります、あぁやりますと選挙人に宣言して支持を得る方法で、カッコよく宣言して(大勝したが)実行できずに顰蹙を買い、大敗した。実行できずに、と言うより無責任過ぎたのだろう。そしてまた「消費税」で不信感を抱かせた。

Manifesto最近は辞書代わりにネットを紐解くとWikipediaなるモノが出てきて用語の解説をしてくれる。マニフェスト (manifesto) とは宣言書・声明文の意味で、個人または団体が方針や意図を多数者に向かって知らせるための演説や文書である。日本ではその体裁から「有権者団との契約」と解されることが多い。・・・とある。

今年の参議院選挙では、みんなの党はアジェンダ(agenda=政策課題)と名付けて政策をアピールしたが、本来の意味は議事日程とか、議題とか予定表とかに使われるものと思っているが、あれだけ大々的に表現されると、政策、公約の様な使い方が主たる使い方の様になってしまうのかもしれない。そのWikipediaには、本来の使われ方のほかに、「あるところで採択された行動計画にAgenda21と言うものがある」と記されている。まあ政党が使うのであるから間違いはないのだろう。しかし、今月の話題は、例には出てくるが民主党大敗の話ではない、

ManifestoでもAgendaでも結構だが、我々の社会は約束のもとに動いている。会社では企業理念や方針、今期の目標なるモノが公示され、それに基づいて関係する人が行動していく。分かり易い方針、見える目標があるとそれに沿って行動する人はやり易い。しかし、「企業理念」や「社是」なるマニフェストはなかなか我々には程遠く、おおよそ保険の約款の様に、あっても見ないモノになっている。

企業や組織では、トップの方針に沿って、自分に関係することには自分で具体的に行動計画を立て、限られたリソースを上手く使って目標達成活動をする。定期的に目標と現状を対比させて、計画通り進んでいるかチェックし(され)、未達であるならリカバリー策を講じる。講じるところまで含めて、これが一般的な方針管理、目標管理と言う。どうなっているか実情把握まででは管理とは言わない。対策が含まれて管理(Control)と言う。「血糖値、毎月図ってもらってでは管理にならない、飲食に気を配りなさい」と毎月40年連れ添った相手から叱責を受ける。まさに管理だ。

民主党がずっこけたのはこの管理ができなかったから。ガソリン代を税金分安くする、高速道路は無料にする、農家に(米の種を撒かずに)お金を撒く、子供にも子供手当と称して撒く、年金は・・・何も達成しないで、新たにまた消費税など持ちだして、強気政策が一気に叩かれてしまったのだ。要は「約束」を守らないのはいけない事なのだ。政治でも会社でも責任問題になる。政治家は頭が良いから、達成しなくてもはぐらかして責任を負わないようにして逃げまどう(TVの討論会など全く上手く逃げる)が、現実の大衆の目は許さない。ついこの間までの、1年持たない総理大臣を出した自民党も一緒だ。

企業は、最終成績が目標に行かず、配当などに影響する事態になると株主が怒り出して、経営陣を血祭りに上げるところだが、日本ではあまり激しくはやらず、なんだかんだ上手く逃げ延びて「後進に道を譲る」とか「若返り」とかの口実を付けて退職金までもらって辞めていく。

大相撲の賭博問題が昨今にぎわしているが、スポーツ団体も良くもめる。私の関連するスポーツ団体も裁判やったり、騒がしいことがある。サッカーの様にワールドカップを国民的に湧きあがらせると一見問題が隠れこむが、サッカーのチーム経営などはなかなか苦戦の様だ。

どうも日本人はこの管理や、目標達成活動が苦手なのかもしれない。夢は語るが約束文化がないのかもしれない。スポーツ団体でも方針までは素晴らしく美しく立てられているが、なかなか実効が上がらない。私が仕事でお邪魔している企業を見ても、目標管理や方針管理がしっかりできている企業は数少ない。いつの間にか勝手に解釈して自分の責任回避の条件を出してしまう。こうしているうちに世界一の工業国は世界一と言われてたった20年経たないうちにベスト10からも陥落してしまった。

ヨーロッパに時計ができたのはいつだろう。日本で実用化されたのはやはり昭和の時代なのだろうな。150年程前(竜馬の時代)は少なくも全くなく、寺の鐘を聞いて時刻を判断していた。この辺から曖昧にものを見る習慣になってしまったのだろうか。

今日では、IT関連機器の進化で、時刻も数字もデジタル化してきたが、どうも政治の方針や企業方針、組織の方針管理はまだ江戸時代なのかもしれない。飲み屋の一合は、まだ舛にコップのお酒をこぼして注いでいるもんね。

日清戦争(1894年)、日露戦争(1904年)、で勝って、うぬぼれて太平洋戦争を仕掛ける。その間たった40年の間しかない。その間に日本固有の文化やインフラが世界に通ずるものになるはずがない。そこで叩かれ(敗れ)てペシャンコ。やはり物事をしっかりとらえ、先を読んだ政策と、一丸になって目標に達するまでしっかり責務を果たす文化を作らなければならないのだろう。

今月は話が大きくなってしまったが、言いたかったことは、自分に関与する目標や政策を明確にして、しっかりそれに向かって行こうよ・・と言いたかっただけ。ごめんなさい。話の風呂敷が大きくて・・・。

    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE