嘉彦エッセイ


第80話(2011年02月掲載)


           



『口約束』


 随分昔になるが、12月の最後の日には「仕事納め」と言って、午後から掃除をし、夕方には一杯お酒が出て会社が終了した。そして1月は「仕事始め」と称して、初日に幹部の訓示(本社に部長以上は集まって)を聞いて、職場でこれまた一杯やって、早めに初日が終わる。この日ばかりは振りそでで出勤する女子社員もいた。こんな習慣は現在のサラリーマン世代には記憶のある人はほとんどないことと思う。

 今日は、仕事納めは各職場それぞれ勝手に、とはいえ5時まで仕事をして、5分前ころに課や部の単位で「良いお年を」と締めて終わり、新年は、集まって社長の話を聞くなどはもうどこの企業も行わず、所内のTVや放送で、社員たちは各職場の自分の机でそれを聞く、企業によっては準備された刷りものを配って、セレモニーは終わる。

 幹部は内容的には結構良いことを言う。このエッセイでもこの話題を取り上げた事があるが、社長-事業部長-工場長-部長-と上から下まで何人も訓示や書きものでアピールするものだから、社員にとってはどっちを向いて聞いていたら良いのか丸で分からなくなってしまう。以前もその訓示や挨拶が上から下まで一貫していないことを書いた記憶がある。今でもその傾向にある会社は数多くある。一貫していないから部下はどれも守らない。幹部は一貫していないことを知っていて、セレモニーだからと、指示(?)したことを看過する。なら、やるな!と言いたいが・・・

 年末年始は、お酒の席も多い時期だ。忘年会・新年会、そこでも幹部やいろいろ同席する者同士の会話に注意が必要なことがある。出来もしない約束を交わしたり、法螺を吹いたり、聞く方も真に受けずに聞き流せるのが酒の席だが、そう言う相手は酒席と言えども信頼を失っていく。まぁ、新年会とかにかかわらず酒の席ではしばしばあるものだ。大目に見ろということなのか。

 いつぞや、指導先の幹部が一席設けたいと言われて、招かれて行った。私の仕事の窓口担当の課長などは幹部のご機嫌も取り、私の面倒、そして発言を聞き逃さないようにと、同席とはいえ酔っている暇がない。幹部の話しはどんどんエスカレートする。「当社の製品をお送りするから是非ご使用いただき、感想などを・・・」「今年は私が海外に行くときには、是非ご同行いただいて、現地でもサディッションを頂きたい・・」私にとって先方はクライアント、それも幹部は雇い主同等だから、聞きそらしてはならない・・・と本気で聞く。時に酔いを吹っ飛ばして真剣に聞く。もし海外などと言われたら日程が合わない時にはどうやって調整させていただこうか、幹部がビジネスクラスで行く-私はエコノミーなのか…だったらみじめだな…とか、酒席とはいえ真剣に聞いて思いを巡らす。最近漸く、この手の話しは信用できないものだ、信用してはいけないものだということが分かった。

 商品を使ってみてくれ・・・幹部からも担当に指示が行って、これは本物と真剣に検討を開始すると、何と買えと言うことなのだ。それもほとんど割引の無いもの。こちらにとっては買ってまでのニーズは無い。お付き合いに百万超もの話しはお断りだ。

 海外出張も、出張する情報が入って来て、前後の埋まった日程を移す検討などしている内に、正式な話はなかなか来ない。さあー困ったな、こちらから聞いたものか・・・。結局一度もお伴しないうちに終わってしまった。

 この話は、自分の身近にあった話ではあるが、この手の話は結構ある。まぁ、同期会や職場の仲間などの酒席で、法螺っぽく夢を語るのは明るく楽しいことが多く、時によってはお酒を美味しく頂く話題になったりして明るい雰囲気を作ってくれるものになる。

酒席の話をしっかりフォローする気は無いが、ビジネスがらみでの話は困ったことになる。困るのは当事者だけでなく同席した事務方も被害者になる。さて約束を守るために、出張の際に同行をお尋ねするものか否か、聞きにくく悩む話だ。これも酒席の上の話と割り切れれば、何の問題もないが・・・。

 逆に、あんなに飲んだのに、話をしてくれたあの人は、約束を絶対忘れない・・と言う人もいる。こういう人とは本当に信頼が置ける関係が始まるし、簡単に聞き流せない。たった手帳一冊、「年末にはお届けします」と言って半年後に来た年末に、しっかり届けられる。喜び倍増と共に自分に、こうしなければ、こうできなければいけないと肝に命ずることになる。

 大体口約束を守らない人の仕事ぶりはおおよそいい加減だが、飲んでも約束を守る人は、常に一貫している。仕事は緻密で抜けがない。目標もしっかり守る。曖昧にしない。

 良く考えなおしてみると、私の様な飲んだくれは、しばしば自分でも吹いていることを思い出す。クライアントの幹部の話しではなく自分の問題として捉えなければいけないと反省しきりでありました。

・・・と、行っているうちに早いものでお正月が過ぎ、2月になりました。

    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE