嘉彦エッセイ


第88話(2011年10月掲載)


          






『先手必勝』


 さあ、今月も本題の前に電力の話し。9月の検針(8月の使用量)は29%でした。

今夏の家庭の節電はピーク時に6%平均だったそうで、我が家は少し余分に貢献できた様で、ついにエアコンなしの夏を過ごしたことを報告して本題に。


 先日、知人に不幸があってその情報を知ったのは、通夜も葬儀も過ぎてからで、さあ、どうしたものか悩み、落ち着いたところで改めてお悔やみを申し上げに行ったが、通常の御香典だけではすまなかった。

手土産を持ち半日かけて、お邪魔をしたり・・・

 ちょっとしたイベントの案内、さっさと送れば通知だけで済んだもの、ギリギリになって、結局電話で確認やら、あたふたとフォローに手間を取る。

タイミングを逸してこの様なことは読者諸君にもご経験がお有りではないか。

 スポーツの世界では先取点はとても大きな展開の要素になる。サッカーの様に1点・2点が勝敗を左右するスポーツでは顕著だ。

先日の北朝鮮とのなでしこのサッカーは、延長で1点を取られて引き分けで悔しい思いをしたが、ゲーム全体ではむしろ押されていて、後半のあの1点が無ければ、あわや負け試合になってしまう所。

勝てずに悔しがるより、引き分けで終わって良かった、あの先取点が効いたと思うべきであろう。

 協議する際の発言などでも、先に提案すると必ず先行できる。後手に回った提案は、先案を超える理由をとうとうと述べないとならなくなり、その理論武装に時間と論理が必要になる。

後手で勝てる方法が一つだけある。各自の提案をじっと聞いていて、最後にしからばこれだと極めつけの断を下すやり方。これには条件が必要で、強いリーダーシップやカリスマ性がある人にできるやり方。

さもないと今ごろ何だとやっつけられてしまう。

 スポーツや相談事だけでなく、何事も先手は重要だ。仕事でもそうだ。

私の人生を変えた「先手必勝」がある。日本にTear Downなる技術が流行ったが、これは勿論私の十八番の技術。

先日も韓国で私がJerry Kaufman氏と書いた本がマニュアルの様に使った人の発表を感慨深く聞いたが、アメリカで出したものが韓国で使われる…凄いことだが、それには「先手必勝」の裏がある。

この技術は昔からGMが社内で行っていた技術で、GMとの提携後、いすゞから沢山の人が交代でTear Down を見に行っていたが、私はその中の一人になれなかった。

しかし最初にいすゞで実行したのは私だった。これが先手。

1972年GMからいすゞに駐在していたコンサルタントのKerryさんが30分ほど手ほどきをしてくれて、何度となく実施して行くうちに技術として伸ばすべき所、修正すべき所が見えてきて、だんだんメソッド化して行った。

GMのそれを見た先輩がTear Down の展示会場に来て、私に「GMはこうだった」だのいろいろ講釈を述べていた人もいたが、こちらは既に実行経験があり、経験的にずっと先を行っていたので軽く聞き流したりできた。

それも実行の先手だったからだ。

そして1976年に公開講座や新聞で技術紹介をするや、全国区で注目されるようになり、「Tear Downの佐藤」に変わって行った。

今考えるとあの技術に巡り会えたのは幸運であったが、私より先に巡り合った人が実行しなかったのだから先手必勝のケースだ。

先週面白いことがあった。実は私の会社VPMが参加者を集めて韓国のVE大会に行った。

大会会場と我々のホテルは随分距離があったので、移動が大変。後半日程で工場見学会があってバスで行くとのこと。そこで主催者に我々のホテルに迎えに来てほしいとダメ元で言ってみたら、何と大成功。

我々以外の人は我々のホテルが出発点になったため、朝早く我々のホテルまで来る破目になった。南部(蔚山)まで行っての帰館もゴールは我がホテル。11時近くの到着でも我々のラッキーだった。

これは先手必勝ではないが何事も早めに試してみることの教訓だ。

商売でもそうだ。ソニーのウォークマンは携帯型テープレコーダーで、あれを世界で最初に出したから世界のソニーになった。先に行った人は市場のリーダーに成り易い。

この様な例は枚挙に遑がない。その典型が先願主義の特許。先手必勝で多くの財を残した人は沢山いる。

口先だけではダメだ。行動しなければ先手にならない。最近お辞めになった総理大臣。

延命のためにあれこれ夢を語ったが、行動が伴わない為に顰蹙を買い、退任して国民に喜ばれた。

良いと思ったら実行することだ。言葉だけでは誰も付いてきませんぞ。



    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE