嘉彦エッセイ


第89話(2011年11月掲載)


           



『あ~ぁ 仕掛けなければ良かった』

 

 本文に入る前に・・・毎月私のエッセイをお読みいただいている方に…いつもご愛読ありがとうございます。
先月は私のミスで原稿がアップされないままになっていました。ある方から「忙しくて書けなかったのかと思った」と言われて慌てました。

月末1週間ほど掲示しましたが月が変わってしまいました。ご期待に添わず大変申し訳ありませんでした。
先月号は、いつものようにエッセイを開いていただきますとバックナンバーがありますので、恐縮ですがそこからお読みください。


では今月号


 毎年6月にはアメリカでVEの大会(SAVE Conference)が開かれる。1989年にアメリカに論文を出して出張の機会を作り、それ以降なんだかんだと理由を付けてはその大会に続けて参加してきた。今年もポートランドの大会に行った。

その昔は日本からは視察団を組み、日本のVE協会がいろいろ準備をしてくれたりしていたが、徐々に状況は変化し、大会の魅力にも変化が出て技術的な魅力が少なくなり、関連する訪問企業も日本が学ぶところが少なくなり、私自身個人経営になってからはサラリーマン時代と異なり費用面や日程も団に沿わなくなってきた。そもそも(参加者が減って)団も組めなくなってしまい、個人で参加するようになってきた。

 アメリカには友人も沢山いて、確かに彼らに逢うと楽しいことがいくつもあるが、空港からさて、一人でどうやって目的地まで行くか、考えると面倒が始まり、英語力は必ずしも十分でないだけに、一人でのアメリカへの旅は苦痛を伴うことがある。飛行機に積んでくれたはずの荷物が来ないこともあったりして、段々不安や億劫になる。

なんでこんなに高いお金を使ってわざわざアメリカまで行こうとするのか・・・出発日が迫るとこう考える。

成田を出ると覚悟は固まるが、アメリカの目的地に着く間際にまた不安から、なぜアメリカまで来てしまったのだろうか・・・になる。諸兄にもこんな経験はお有りではないか。


 私はスポーツ団体の役員をしている。結構忙しいし、人間関係が複雑で悩み事も多い。

そもそも立候補して役員になったのだから自業自得ではあるが、その一番の目的は理想的なスポーツ団体に微力ながら近づけたい、良い選手、良い指導者を育てたい、そんな希望からであるが、その人間関係や、多くの人の顔色を見たり、理想像に近かづけるべく説得をしたり理解を求めるのには心労が大きい。

地位的には会長の下のポストであるので大半の役員が私や他の副会長・専務理事などの指示で動くことになるが、なかなか思うように意思疎通ができないことが多い。

ストレスが溜まる。なんでこんな役の世界に飛び込んだのだろう、こんな役を引き受けたのだろうか。その昔、任意団体だったその団体を財団法人にするときなどは、ほぼ中心的役割を担った関係上、責任がのしかかり、何度もなんでこんなことに・・・と自分で法人化をしかけた事を責めたりしたことがあった。

 サラリーマンを辞めて、今のコンサルタントの仕事に転身した時も、サラリーマンだったら・・と楽なことを何度か想定して転出を悔やんだことも、これは稀だがなかったわけではない。

 先日東京は市ヶ谷で日本のVE大会が開かれ、特別講演に伊藤麻美さんと言う39歳の美人の社長さんが、父が興した会社が、父の死後赤字で倒産寸前になってから、社長に自分から挑戦して就任し、再建する話を、涙を流しながら拝聴した。この原稿を書きかけていたので、私は彼女は何度も、何で、なんで私が乗り出してしまったのだろうかと考えたのではないかと想像した。結果黒字になった再建話なので今になってはそんなことは無かったと言うかもしれないが、苦しければ苦しいほど自分を責める時があるものだ。

私はおっちょこちょいで、何にでも手を出す癖がある。余り熟慮せず、すぐに乗ってしまう。スポーツ団体の役員などは、次の改選期にもう辞めた!と言えば簡単に逃げ出せるが、なかなかその決断ができないものだ。なぜだろうか・・・やはりそこに何か引き込まれるものがあり、私の脱サラも、伊藤麻美さんの社長業就任も、その何かが挑戦意欲を醸し出し、そして何よりも少なからずいくつかの達成感が満足を与えて挑戦を続けさせているのだと思う。苦しい時には達成感が無い。山登りでたとえるなら登っている最中みたいなものだが、頂上が見えたりすると少しずつ希望が出てきて、トンネルの先に小さな光が見え出すようになる。そこまで我慢できる精神力さえあればどうにかなるものだ。これがこの話の結論かもしれない

余り深く考えた事は無いが、その課題に対して取り組むか逃げ出すかの迷いの時に、ではGoでなければ何が残るのか・・・ここに行き尽き始める。やらなければ確かに何も(苦しみは)ないかもしれないがそれで満足いくのだろうか。それであと後悔やまないだろうか。やって苦しむのか、やらずに悔やむのかそのどちらを取るのか。

あの時に・・・実はこれが積極的な人と消極的な人の差になる。

スポーツの挑戦などは正にGo以外に選択肢が無い。挑戦で無く、単なるエンジョイスポーツにはその選択機会が少ないが、それでもテニスやゴルフで、少しでも素振りしたら、少しでも打ちっ放しで打ったら・・・時間を割いたりのリスクが付いて纏う。

選手では苦しい練習にGoしなければスコアーや記録は今のまま、今のままで自分は満足するのだろうか。やはり前へ歩こうよ・・・と成る。仕事もボランティアも何事もここが人間の闘争意欲、挑戦意欲、難しく考えなくとも前向きに成ることはその1歩だ。

やっぱりおっちょこちょいでも夢や理想を追うよ。少々リスクや心労が伴っても・・・。


    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE