嘉彦エッセイ


第90話(2011年12月掲載)


           



『学識経験者って?』


 以前にもこのような内容に触れたことがあったかと思うが、遡って検索するのも億劫だし、きっと今日書きたいこととその時のことは微妙に違うはずなので、おつきあいください。 
TPPでずいぶん政界はもめにモメ、政権与党の民主党も自民党も、党を2分する大騒ぎ。増税の話も登場して、これまた2分して大議論。政府に税調があり党に税調があり、その下に有識者の会合があり・・・震災復興は補正予算までは良いが中味はまた大議論。その時に必ず出てくるおじさんが、『学識経験者』だ。 
以前書いた時には、“学識経験者”が震災後「私は津波も大地震も以前から近いうちに来ると言っていた」という発言に、無責任な発言だと確か書いたような気がする。そんな予測が立つ人なら何万人もの犠牲者の出ないように事前に大騒ぎすればよいはず。でもこの手の先生、震災後に雨後の竹の子のように出てきましたよね。
何とか大学の何とか大先生とか、初めて聞く大学まで・・・・沢山、沢山出てきました。それこそ仕分けの対象になるほど。 
前述の政治家たちの議論は党を2分するほどの議論なら同志ではないのだから分裂して同志が組んで世論を掻き立てればよいのだが、多くの議論(会合)の下部組織に“学識経験者”による委員会やプロジェクトチームがあって、そこで議論したものを政治家の先生が自分の発案であるかのように訴えている。
そもそも、政治家の先生たちは、自分の考えと同じ思考を持つ“学識経験者”を委員に選んでいるので公正さがない。
原発反対の政党は反対を主張する学識経験者を選び、賛成派は賛成の人を選んでいる。自分の説得力のない力不足を“学識経験者”の手を借りて訴えているだけなのだ。学識より政治にはその時々の情勢への対処する力と将来の国づくりを視野に置いた方策を考えてほしいから我々は選んでいるのに、その力がない方が政治をするから間違いになるのだ。

 ところで、その学識経験者って、何を以って学識と呼んでいるのだろうか。地震などはあまり企業が力を入れて研究しているところがないから大学の研究機関に委ねていくのはよく理解できる。しからばこの日本固有の課題である地震は、国を挙げて研究できる機関を作り、大きな成果が出るようにすればよいのに、個別の大学に分散して細々と研究してロクな成果も出ない(失礼)学者が、有事の際になると突然ヘルメットをかぶって現場からTVに登場したり、もしくは必ずと言ってよいようにパソコンの前でインタビューに答えたり。これが解らないのだよな。パソコンにデータはあるだろうが使えなきゃ何にもならない。
ただデータを集めているだけだはないだろうか。

 私が職業上参加している学会がある。原価に関する研究学会だが、他の学会も多かれ少なかれ同じようで、研究論文の終わりに、必ずと言ってよいように「謝辞」と称して指導や支援を受けた方への感謝の言葉とそのあとに延々と引用文献のリストが載る。多いと本分10ページに引用文献の紹介が2ページ以上になることもある。すなわち自分の考えではなく、他人の考えの集大成なのだ。他人の文献がなければ論文は、著作は、できないのかと言いたい。ご自分の考えを書きなさいと・・。
要は学識経験者と称する先生方は“私はよく本を読んでいる”ことをアピールしているのと、“俺は編集がうまいぞ”をアピールしているのではないか。正直私の著作物には引用文献はほとんどない。
 同じように職業上参加している専門機関でも年に一度論文募集をするが、応募者の大半が企業で苦戦している人。審査する人はパソコンにかじりつく大学の先生方。専門の方ではない方もいる。特にモノづくりでは三現主義と言って現地・現物・現実をしっかり把握せよとの基本的教えがある。パソコンにかじりついて現場や企業の苦しみに直面したことが乏しい学者に審査する能力があるのだろうか、円高対策で社内に怒号が飛び交う、そんな場面をご存じなのだろうか、と、いつも疑問を感じている。毎年審査結果のランクを見ると大体空論が上位に入り、現実論が「事例だ」などと言われて落選したりする。だから私は論文にしないで著作にして広く読者の批判をいただくようにしているのだが、論文を書けないひがみだろうか。
 多くの学識経験者と称する大学の先生方から民間の第一線の技術者や管理者・経営者になられる方は極稀だ。国の政を託された政治家が頼りにするのだからご自分で政治家になってしまえば手っ取り早いと思うがいかがだろうか。同じように大学で空論を唱えるより経済学者は経営者になってその才をいかんなく発揮したらよい。給料も増えますよ。エンジニアとして企業でどんどん技術開発されたらよい。成功している方は稀にしか存在しない。いや転出者が稀なのだ。成功したらご自分の成功体験を教壇で語れば実感が湧く。
産学共同なる言葉もあるが、直接やれば手っ取り早いではないか。企業から大学に経験を教えに行かれた方はたくさん存じ上げているが、その逆がないのが不思議だ。企業も大学の先生をよく招いて講演会など開かれるが、それなら思い切って雇ってしまえばよいのにと思うが、これも末席を汚すエンジニアのひがみだろうか。
 現場を知る人が現場のことを考えるのが最も正解に近いと思うが諸兄はいかがか。
(今月は少々過激でした)


    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE