嘉彦エッセイ


第93話(2012年03月掲載)


          


『栄枯盛衰』



 スキーの栄枯盛衰を語るためにこのタイトルを付けたエッセイを書いたことがあるが、今回は一般論で・・・。

 NHKの大河ドラマの『平清盛』が人気を博しているようだ。「祗園精舎の鐘の声、 諸行無常の響きあり。

娑羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらは(わ)す。 おごれる人も久しからず、 唯春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。」

これは
『平家物語』の始まりの文章だ。要は栄枯盛衰を語った代表的な一文。


  このごろ、日本企業や日本経済、政治の世界、もちろん私の趣味のスキーの世界も、この栄枯盛衰にさらされている。

 その多くが平家物語に出てくる「おごれる人」の世界と、リーダーの問題のようだ。

 日本の製造業:1970年代から80年代一杯、世界で圧倒的な強さを誇ってきた。技術開発もモノづくりのシステムも創意工夫の積み重ねで世界の強敵も一蹴して、

工業の世界で電機、自動車、造船、半導体・・・各分野No.1を勝ち取ってきたが、バブル期を境に凋落が始まった。


バブル期に労せず利益を欲しいままに享受した甘い体質がしみこみ、バブル後10年たってもまだ反省ができていないと言ったり書いたりし続けたが、

日本の成長は1990年を境に“おごれる人”の世界になってしまっている。今や工業国のランキングでは14位だそうだ。


 それでも最大の牽引車であり、世界の自動車を席巻してきたあのトヨタ。バブル後も牽引車になっていたが、最近はす少しおかしくなり、

必ずしも盤石ではなくなった。利益でも他の自動車会社に抜かれ始めた。天災の影響もあるだろうが、それはどこも多かれ少なかれ同じだ。

その昔は天災もなんのその、影響されることなく走ってきたトヨタが、最近はずいぶんと怪しくなってきた。

商品の競争力も品質もしかりだ。詳しくは分らないが、社長のリーダーシップがとかく噂されるようになってきた。似たようにじりじりと堕ちつつある企業を知っている。

昔のエッセイ(第46話:08年4月「昼寝のコオロギ」)でもそんなことを書いた。


 小泉政権で盤石だった自民党は、リーダーがくるくる変わり(変えさせられて)3年前の選挙で大敗して政権の座を追われ、野に下った。

これもおごりと、リーダーシップの欠如。リーダを選んだ無責任党員・・即ち組織がバラバラになり結局リーダーがまとめられず崩壊。

そもそもおごれるときは危機感がないから新しいことを求めずマンネリに陥る。マンネリはおごりの象徴だ。さらに言うなら新しい夢を作れなかったからだ。

その勝者の民主党も、天下を取って1年もリーダーが持たない。なぜ交代を余儀なくされたかはご案内の通り、約束を守らず、やることは素人で自民党の物まねに過ぎない政治。

ファッションショーにまで登場した鳩山さんはまさにおごる人で1年持たず、菅さんは多分歴代最下位から2番目のできの悪いリーダーの烙印を押されてしまうのだろう。

(最下位は宇野首相かな?)勝った勢いはおごれる人に変身し、そしてリーダーシップ欠如で崩落する。

後を継いだ野田総理も自民党と何が違う政策なのか、ひたすら疑問を抱かせる政治で支持率はどんどん落ちて、

きっと消費税の増税提案時に解散か民主党分裂の状況に追い込まれてしまうのだろう。


 私の趣味のスキー界なども良く似たパターンで、その昔ブームの時には、夜行列車の席取りに苦労し、スキー場ではリフトに延々と並ぶ、

ゴンドラの順番取りなど交代で朝ごはんを食べて並んだものだが、そのスキー場が廃れたり、潰れたり・・・昔ながらの商法で昔ながらの施設ではあの寒いスキーにだれも来なくなる。

これが現状で、古いままの宿屋、昔は予約するのが大変だったが、そこに胡坐をかき続け(おごり)設備も仕組みも古いままではお客がじりじりと減っていく。

目の当たりにそんな事例をいくつも見ている。


すばらしいスポーツを育てるには昔ながらではだめなんだ。雪は変わらないが、施設や環境は使用者の好みに常に変化させなければ、

事業者の勝手なマンネリ(おごり)をユーザー(スキーヤー)に押し付けることになる。


スキー協会やスキークラブもそう。これはスキー界、スポーツ界だけでなくいろいろな組織が同様の体をなしている。

10年も20年もクラブや協会のリーダーを続け、確かに過去凄いリーダーだったかもしれないが、今日の社会に合わないがゆえに組織がじり貧になっているところをしばしば目にする。

若い人が台頭すると潰してしまう。育てない。リーダーシップが過去の栄枯盛衰の栄と盛をつくったのではなく、ブームが栄えさせたのかもしれない。

本当のリーダーは、枯と衰の時点で如何に栄と盛に切り替えられる人だと思う。

 平清盛のリーダーシップはどうだったのかは私は知らない。大河ドラマが楽しく教えてくれるだろう。

 このエッセイを書きながら、真のリーダーはピンチを救えるものだとだんだん結論が出てきた。

さあ、私は自分の世界(仕事・スポーツの世界で)ピンチを救っているだろうか…自責で考えてみて、ぞっとしたのが事実でした。

    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE