嘉彦エッセイ


第105話(2013年03月掲載)


          



『爪を噛んではいけない』


 恥ずかしいことだが、私は小学生の頃、爪を噛んだ記憶がある。ふっと気づくと指は口に行き、母親がそれを止めるために、
爪に絆創膏を貼ったりしたことを覚えている。

  小さい子供が爪を噛んでいる姿をよく見るし、大の大人で爪が半分になってしまっているのに平気で噛んでいる身近な人もいた。
彼の場合は缶ビールのプルトップをあけるときに、本能的にキーや小銭をポケットから出して開けていた。
それでも暇さえあれば爪を噛んでいた。最近会っていないが今もきっとそうであろう。

 最近、いじめの事件が多く発覚して社会問題になっている。教室に貼り紙がしてあるのをニュースで見た。
「いじめはよくないこと」とか、「いじめを見たらすぐ先生に報告すること」とか書いてあった。
 爪を噛むのも、いじめも、現象として表れていることであり、その裏に何か心理的な原因が存在していることを忘れてはいけないと思う。
私の子供の時の爪の原因は今も不詳だが、多くは心の奥にあるコンプレックスや、ジレンマ、不満、ストレスの蓄積などが原因ではないだろか。
子供でも自然と精神的に追い込まれたりしているものだと思う。
 いじめは、いじめる方には、いじめることによる快感や優越感、征服感が存在しているのではないか。
そのささやかな感覚が徐々にエスカレートし、いじめられる側からは最初は些細なことから、茹でガエルの話ではないが、
徐々に徐々に激しくなっていくうちに問題の大きさに気づかず、周囲に訴える機会を失い、
訴えたらさらにいじめられる恐怖が待っているので先生や親に言うことさえ怖い。
究極自分で自分を追い込んでしまう結果になっていっているのではないか。したがって、
張り紙のように早く訴えろと言っても怖くて言えないのだと思う。

 警察官の不祥事が後を絶たない。いろいろなケースの不祥事だが、その中に結構の年輩の警察官が侵す犯罪がある。
ニュースを聞いて “この年まで勤め上げてもったいない。退職金もパーだろうな…見識も豊富だろうに”と思ったりする。
その年配の警察官は地位的には巡査長とか巡査部長とかの地位。
部長と名がつくから偉いのかと思ったら、通常のサラリーマンの世界での係長クラスの上か下かくらいだそうだ。
何十年も勤めても、どんな努力をしても、功績を残しても、せいぜいその程度にしかなれない制度があり、
幹部は一流大学を出たエリートが占め、30代の署長など珍しくない。武道もできない、手錠をかける練習さえしたことがなくても署長さんだ。
コツコツコツコツ勤め上げてきたのに、自治省や県警本部などから落下傘のように降りてきて、2・3年無事努めると更に格の上の警察署に転勤し
、何度か繰り返したのち元の職場に箔をつけて凱旋する。しかし巡査長さんはもうそれ以上昇格の機会もなく、
退職する数日前に1階級上がって退職を迎え、少し退職金が多くなる、事実かどうかは不詳だが、そんな話を聞いたことがある。
公務員にはそんな制度があるようで、私の身近に、警察官ではないが、教頭だった人が、退職前日に校長に昇格して定年を迎えた者がいる。
そうすると校長会のメンバーに入れるし、教育委員会や教育系の色々な機関での再就職の待遇が変わる。
公務員の身勝手な制度に不満を感じるが、警察官の話に戻ると、人生の中で、落下傘のように降りてくる交通指導さえもしたことがない上司に
顎で使われたら、あまりモチベーションは上がらない。報道では名物おまわりさんや、警察官の美談もたびたび聞くがそれは氷山の一角、
多くの警察官が耐えに耐えて満期(定年)を迎える。時にクシャクシャすることもあるのであろう、軽微な犯罪を犯しても、
警察官なるが故に大げさに報道される。良いことではないことは重々わかるが、一般の人とは扱いは明らかに異なる。

 爪を噛む子、いじめの子、下級警察官(公務員)の犯罪、実は共通項があるのだ。その背景にある原因を潰していかなければ、
再発は確実に起きる。絆創膏や張り紙で済む話ではない。

 勿論、「爪を噛むと、大きくなってお洒落できないよ」とか「爪は工作したりスポーツするときに大事なんだよ」と教えることも大事な教えになるが、
原因らしきことを探って、それを取り除くことが大事なことだと思う。いじめもしかり。
いじめの起きそうな環境を作らないで、いじめる側にもっとスポーツやレクリエーションで楽しみを作ってあげたり、
家庭内での会話を促すアクションを起こしたりして、原因を潰すことをする必要がある。
 警察官の問題は、多くの公務員の世界が同じような旧態依然の人事制度(学歴偏重、学閥・・・)であることが一つの背景だと思う。
民間会社にみられるように低学歴であっても、立派に仕事に恵まれたり、業績を評価され高い地位に就くことが行われるように、
公務員の世界も信賞必罰、業績評価をしっかり行うことが活性化した行政に繋がり犯罪が少なくなるような気がする。
贈収賄などの不祥事も、超幹部か、中途半端な役職の官吏にみられるのは、超幹部はあまりにも“美味しい”から、
そして一般職の官吏では“面白くない”から、この程度はと安い誘惑に負けるのだと思う。
そこでモチベーションの高まる制度で活気ある職場を創れば元気が出ると思うのだが・・・。これは大きな病巣で、
考えるべき人がエリートだからその苦しみや屈辱を知らない人であって、妙案が出てこないのであろう。改革の行動も甘くなるのであろう。
時に原因はそこではないと振ってしまうのであろう。

 何事にも現象の背景に原因がある。人間など弱いもので、すぐ心の動きに左右される。
原因をどうして潰すか、ちょっと止まって考えてみませんか。




    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE