嘉彦エッセイ


第109話(2013年07月掲載)


          



『スポーツに学ぶマネージメント』



 スポーツはドラマだとよく言われるが、数々の名勝負、選手の活躍、運・不運、そして感動や、語り尽くせない素晴らしさがある。
その背景には選手個人の努力もさることながら、多くのコーチや監督、そしてその種目スポーツ界のマネージメントが存在している。

 最近、表にみられるマネージメントは不祥事が目立ち、プロ野球の硬式ボール試験や、
選手選考のアンフェアーが目立ってみたり(これは見かけはアンフェアーでも内部では必ずしもそうは言えない部分もあるが)
最近では柔道の暴力やセクハラ・パワハラなど世間に話題をまくこともたびたびだが、
最近あるテレビ番組で、「さすが!」という話を伺った。

 6月3日のクローズアップ現代。東大野球部に桑田真澄さんが臨時コーチで指導をしたことのクローズアップだった。
ご覧になった方も多いかと思う。

 連敗を続ける東大野球部、負けて当たり前になっているムード、でも個人では負けたくないと誰よりも思う選手。
それが切れないように桑田は「自分の一番の応援者は自分だ」と説いた。

 練習日程を見てまず桑田は驚いた。土日など朝8時前から夕方6時半まで、びっしりのスケジュール。
そしてありとあらゆる練習をする。例えば投手は基礎体力作りのランニングや筋トレは勿論、
ピッチング練習でも直球から、シンカー、カーブ、スライダー…ありとあらゆる球種を投げる。へとへとになるまで投げる。

 この辺から、企業で働いていた私たちのサラリーマン生活を思い出してきた。夜遅くまで残業を続け、
いろいろな技術を学ぼうと講習会に行ったり、診たり聞いたり・・・

 桑田は言った。「頭を使え」と言った。スポーツ選手に必要なのは、「体力、技術、頭脳」だと。東大生。土嚢は素晴らしく、
入学する過程では人一倍優れて、選ばれて入学。その頭脳明晰は認められている。
入学するには功を奏したその頭脳を使っていないと指摘した。

 まず、「練習のし過ぎは、それぞれの技術について散漫になる」「ピッチャーはいろいろな球種を投げずにストレートを集中的に学べ。
ストレートは基本中の基本だ。」

「そのストレート、ただがむしゃらにキャッチャーに投げれば良いのではない。
アウトローに集中的に投げろ。多少球威がなくともアウトローなら打たれない」

 そして感動したのは、自分で投げたのである。東大生は10球投げて2・3球、アウトローに行く。
全部の球はアウトローを狙っていたはずだが。しかし引退してずいぶん経つ桑田は、現役時代を彷彿させるもの凄い速球を
キャッチャーミットにバシッと快音を響かせ、東大野球部員がうなる中、そのボールの大半がアウトローに収まった。

 桑田真澄の名前だけで十分の貫録が、ビシッとアウトローに投げて見せて、部員たちの求心力を一転に集め、
当然部員たちは言われたことをすべて真摯に受け止め練習を改めた。


 たった30分の番組だったが身体が震えた。サラリーマン時代を振り返った。そして今の仕事を振り返った。
果たしてサラリーマン時代、部下にビシッと言える技術をもって言っていただろうか、
聞きかじりの技術の一片をかざしてすべてを知ったがごとく語ってはいなかっただろうか。
語って、語っていつの間にかそれが正しい技術と思いこんでしまってはいなかっただろうか。
何でも知らなければいけないと確かに勉強をしたが、アウトローに投げられる技術として自分に残ったのだろうか、
キャッチャーミットに収まるあの音を出せた技術だっただろうか。
誰も知らないからこれがシンカーだと言って投げてはいなかっただろうか。

 背筋がぞっとした。更にゾッとしたのは、桑田が投げて見せたことだった。見事に百発百中。
多くの管理者が、指導者が口で投げてはいないだろうか、口はいくらでも回る。
生徒から見れば桑田は神様、その神様が実演し、外すことなく投げる姿に感動することは当然だ。
我々は実演のできる管理者・指導者であるだろうか、あっただろうか。

 更に、スポーツ界では、その昔と大きく変わっていることを、桐生祥英選手が高校生で10秒を切れるかの特集番組で
その筋肉やフォーム、メンタルの違いを説明していて、またまたマネージメントにつなげて観てしまった。

 その昔は、陸上長距離選手(私も高校時代はその一人だった)は水を飲むな。
高校駅伝の1区を任された佐藤選手には、監督の先生からスタート時間を逆算して起床時間、食事のメニュー、採って良い水分の量など
きめ細かに指導があった。
ウォーミングアップで3Km、5Km走ってしまうのに、発散した汗によって体は水分不足、でも取っていけない時代だった。
今は生理学的に分析して水分やその質が研究され、マラソン競技にでは水分補給が勝負を決めることさえあるものだ。
進化だ。

 桐生選手の体型・フォームは、ボルト選手の体型・フォームに非常によく似ているそうだ。
早く走る体型をまず作る。不要な筋肉を作らない。
筋肉をですよ。
必要な筋肉のみで良いのだそうです。(筑波大の谷川准教授)なんでも筋肉があればよいと錯覚する我々に教えが入ったのです。
職場では頭数で勝負するような錯覚を持ったマネージャーが多いが、不要な筋肉は不要だという。そうだろう。必要な筋肉が戦力だ。

そして足を蹴り上げたときに、膝の位置が(横から見た)身体の中心にあって、普通の選手は後ろにある。
この分析・把握をして、如何にそのようなフォームを作るかの練習をする。

勝ちの分析、最速の分析をしっかりして、それに学ぶ。桑田の何でも投げればよいのではない指導に合致する。
ポイントをいかにつかむか。そのような体型を作る、フォームを作る。これはビジネス社会ではシステムや教育に相当する。

 更に桐生選手の強みはメンタル面の強さだと言っていた。これはマネージメントなんだろうか。
 技術を極めよ、そのためには世界一に学べ、集中して必要な技術をしっかり身に付けよ…とスポーツに学びました。




    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE