嘉彦エッセイ


第113話(2013年11月掲載)


          



『専門家』


 2011年12月に『学識経験者』のタイトルで似たようなことを書いたが、
2年経ってもまだ鬱憤冷めやらぬため、また似たようなことを書いてみる。

 

先日福岡の外科医院の火災で沢山の死者が出ると言う痛ましい事故があった。
誰も悪気や企みが有った訳ではないが、不運な事故としか言い様がないことだったが一言いいたくなった。


   
2年前に書いたことと全くダブルが、TVの報道に登場してくるのが『専門家の先生』であって、
そこでは、防火扉の点検は定期的に行うべきで、医院の管理者の責任であったと鬼の首を取ったように言う。
訓練はしていたのか、シュミレーションは行っていたのか、他の番組でも違った先生が同じことを言う。


    
この事故は、法的には規制に反していたことはなかったように言われているが、死者が出たことは事実だし、
それでも何とか罪にしてしまうような法律の解釈で責任を問うのであろうが、
むしろ、そのような事故が起きるのであるから、それを予見したりして予防措置や法規制を進めるべきだと、
この先生は事前に言ったのだろうか、また罪を問おうとしている検察関係者、消防関係者は、
そのような事前予防の法規制をしなかった役所を吊し上げる手を講じているのだろうかと言いたい。
ここまでやって『専門家』と言われるようになるのだと思う。


    
伊豆大島で台風24号の影響で大規模地層雪崩が起きて大変な数の方々がなくなったが、
町長は壱岐でお姉さんのいる飲み屋で飲んだくれ、報道は中々事実を隠し伝えずの状態、
TV
ではまたまた、『専門家』の先生が結果論を言う。世の中滅茶苦茶だ。


   
『専門家』の定義がないまま、勝手に使うから、本当の専門家が何なのか分からなくなる。
   
町長は行政の首長、即ち、町のすべての頂点にあって、町民の安全や生活の安定、防犯、秩序の維持など、
町民の暮らしを安心させる責任を持つ責任があるのであるから、完全に行政の「専門家」でなければならない。
気象庁の予報は直撃を数日前から報道していたにもかかわらず、呑気に、“公務”で遊びに行っていた。
行くのを止める決断を促す人も、ご本人もしなかったのである。報道や組織、支持している政党(共産党員)でも
あまり叱る人がいないのが不思議だ。なぜかばっているのだろうか。

この頃TVのゴールデンタイムにスイッチを入れると、大半がクイズ系の番組。全く知らない人が出ていて、
“キャーキャー”ミーハーの声が聞こえる。簡単なクイズなのに勝者には結構の賞金が出たり、
私は出演者を見たこともないので家族に聞くと“お笑い芸人”だそうだ。“芸人”って奥行きが深く、
落語家などは真打になるまで何段階も昇進しなければならない。20年も30年もかかる。
弟子と呼ばれて芸に励むが、“お笑い芸人”は芸に励まなくてよいのだろうが。
真打になった人がその芸を生かしながら他の番組に出ているのはまだ納得がいくが・・・
「笑点」なる人気番組、鶴瓶さんのNHK番組もその一つ。芸を極めた人が一歩踏み出すのは分かるが、
“お笑い芸人” の部分がどこかに行って、クイズの回答者が専門になってしまっているのではないか。
こういう専門家もいるもんだと、何かあることに集中しようとしている人の腰を折るような現象に憂いを感じるものだ。


   
実は冒頭の大学の先生の専門家も、自分の芸(学問)を究めないうちに好き勝手なことを言うから私は評論するのであって、
そこらの名も知らぬ“お笑い芸人”と一緒だと思う。

学問に基づいて現場で検証し、防災学なら防災の予防を絶叫して唱えてくれる専門家がいないから書いているのである。

私のVEの世界にも『専門家』がうじゃうじゃいて、実は本当のVEが世の中に存在しなくなってしまっているのだ。
協会の中心的な部分や、スタッフでさえそうだし、この業界全体が“先生”化して実務家=専門家がいなくなっている。
VEL
と言う資格制度があって、これは14時間の講習を受けると受験資格が生じ、マークシートでチェックして
合格点に達すると「VEL」になれる。まだVEを体験しなくてもだ。
その上の資格のVESも最高峰のCVSも以前はWSS(Work Shop Seminar)と言って実践経験(前者は48時間、
後者は72時間)をしないと受けられなかったが、今は、大学の偉い先生の講義を聴けばOK
あとは学科をしっかり学び、空論の論文を書けば合格だ。
一度も実践をしなくても先生になれてしまうのだから日本のVEは廃れていくのである。これで専門家ができる。
さらに言うと、VELの講習はVELでもできる。講習を担当すると先生と呼ばれる。
いったん先生と呼ばれると先生で、もう生徒には戻れなくなる。


   
こうして火災や防災の先生も、先生で通していくのである。更にTVでおなじみの・・・と相なるのである。

マスコミももっと突っ込まなければならないだろう。
現場も知らない、見たこともない、火を消したこともない専門家に頼っていいものだろうか。

いけない。佐藤はVE界の人間だ、VE界の事をもっと反省し、対策しなければならないのだよね。
…ここだけの話、これを聞く耳の無い人たちが協会幹部とトップを牛耳る人だからあきらめざるを得ないのです。
(2年前と同じことを書いたと思う。怖いから見ないでおこう)



    (株)VPM技術研究所 所長 佐藤嘉彦 CVS-Life, FSAVE