迷探偵 波子伊太郎シリーズその3 彦人皇子殺人事件


波子「いやあ、しかし何考えてんだろうね。あの押坂っていうにきび面の依頼人は。うちは病院じゃないってんだ。」

堂田「そうですよね。嫁さんの生んだ子が自分の子かどうかDNA鑑定してくれって。。。」

波子「そうそう。嫁さんの素行調査っていうならまだしもDNAだよ?いうなればデオキシリボ核酸だ。」

堂田「そのまんまじゃないっすか(笑) 」

波子「しかしなんだってそんな疑問もつんだろう?素行調査では怪しいところないって報告したのに 」

堂田「押坂さんちのご主人、妊娠直前に水疱瘡やったらしいんですよ。そのせいか一次的に無精子症に近い状態になったとか思い込んでるみたいで」

波子「それこそこんなところに相談に来ないで病院で診てもらえよなあ」

堂田「今は大丈夫らしいんですよ。でもその時はって思い込んでるみたいで」

波子「なんだってそんな思い込みを?」

堂田「ご親戚でおたふく風邪やった人がいて、その人がそうなったらしくて・・・。まあ、この人は回復しませんでしたがね」

波子「被害妄想なのかな?」

堂田「水疱瘡の治りが悪くってヘルペスになっちゃったみたいですね。あのにきび跡みたいのはヘルペスの跡らしいですよ。そんなのも彼を被害妄想にしてるのかも?」

波子「ヘルペスって何?」

堂田「帯状疱疹ってやつです。水疱瘡のウイルスが多量に残ると発症したりする。これは普通はお腹にできることが多いんですよ。お腹にできた疱疹が神経を傷つけながら、帯を巻くように体全体に広がっていってあまり広がると痛みと神経の死滅のせいで死んでしまうこともあるらしいです。帯状に広がるから昔の人は『蛇の呪いに巻かれた』なんて言ってたらしいです。」

波子「なんだ。また歴史オタクのワンポイント物知りのコーナーかい?」

堂田「オタクじゃないですって。そうそうこの前の聖徳太子の話はなかなか面白い推理でしたよ。あたってるかどうかは別にして」

波子「もう、そんな話には乗らないからな。あの夜いやな夢みたんだよ。もってたお金全部無くしちゃう夢でさぁ。何故だか夢の中では昔の一万円札を持ってたんだけどそれが使わないうちから財布を覗くたびに減って行っちゃうっていう変な夢でさぁ。最後は一文無しになって目が覚めたっていう嫌な目覚めをさせてくれたよ。夢とはいえあんなのはもうこりごりだ。」

堂田「今度は、殺人事件かもしれないんです。」

波子「はぁ?歴史の話だろう?殺人でもなんでもいいじゃないか。」

堂田「まあ聞いてくださいよ。聖徳太子とも関連する話なんです。今度は一万円札が逆に入って来る夢をみるかもしれませんよ?今は福沢さんだけれども」

波子「うーん」

堂田「聖徳太子の時代に彦人っていう人がいるんですが、この人ころされちゃったかもしれないんです」

波子「そんなことどうでもいいだろ?その時ころされてなくっても、今現在死んでることには違いない!喩えそいつが他殺でも病死でも自殺でも、もう今からじゃどうにもならない」

堂田「そりゃまぁそうなんですけど。。。。」

波子「じゃ終わり。」

堂田「犯人としてはあの聖人・聖徳太子が疑われてるんですよ。」

波子「まあ、そういうこともあるだろう。疑わしくないのが一番怪しいというのは推理ドラマの基本だ!!」

堂田「殺したっていうか、聖徳太子ってのは彦人っていう人の事を別人として書いてて厩戸は創作された人物で実在してないっていう話なんです。」

波子「はぁ?また実在したとかしないとかの話かい?ヒマだね歴史オタクってのは。だいたい歴史上の人物なんてのは空想上の人物と何ら変りがないだろう?史書だとか資料とか文字の上、昔話とかの記憶の上、学校のつまらない教科書の中にしかいない。今、紛れも無く実在している人間からは触れることも見ることさえもできない。そこの幼稚園に行って子供に聞いてみろよ、豊臣秀吉がいたってことは誰もしらないだろう?彼らにとっちゃ歴史上の人物よりもドラえもんの方が余程リアルな存在だ。毎週テレビで見られるし、ぬいぐるみショーでも見に行きゃ触れることも可能だ。」

堂田「そんな、テレビアニメと一緒にしないでくださいよ。まぁそりゃそうかも知れませんが、僕ら大人の中では秀吉がいたってことのほうがリアルなんですから。」

波子「しかし一体全体、君って男はどこでそんな腹の足しにも住宅ローンの繰上げ返済の足しにもならないような話を拾ってくるんだい??」

堂田「インターネットの掲示板とかで、議論されてるんですよ」

波子「インターネットであちこちの歴史オタクが集まって歴史の話をやってるのか?不健全なことだね全く。普通君くらいの若者がインターネットをやるってことは即ちエロページを見るとか、出会い系サイトに登録して不当な請求受けたりして消費者センターに相談して助けを求めたり、変なものダウンロードして警察のご用になったり、ネットオークションで傷物買わされて裁判所に売った奴を提訴したりするために弁護士事務所に駆け込んだり、夜中までチャットとやらをやって次ぎの日の仕事に寝坊して上司や先生に怒られたりしながら、世の中の恐ろしさやルールを学ぶっていうのが、筋ってものだろう?

堂田「そんな三面記事に載ってるようなこと筋にしないで下さいよ。」

波子「そうじゃないのか?」

堂田「そんなことはたまに起こるから、三面記事のネタになるんでしょう。普通は趣味の共通する知人を増やしたり、遠方の人とすぐ連絡とれたり、遠いところにあるお店の商品を家に居ながら買えたりするのがいいんでしょう。大体、波子先生はインターネットやったことあるんですか?」

波子「ゴホン」

堂田「ないんですね?これからの時代に着いていけなくなりますよ?」

波子「いいのだよ、時代は私に着いて来るんだから。はっはっはっ。」

堂田「こんな貧乏探偵にですか?」

波子「失敬な奴だね。オタクの癖に。それが名探偵にいうセリフかっていうんだ。」

堂田「よっ名探偵の大先生!!)^o^(」

波子「照れるじゃないか。。。(^^ゞ」

堂田「名探偵ついでに、このネタについて先生の推理を聞かせてくださいよ!この前のネタもごく一部ですがうけちやったんですよ。それにこの推理の内容をネットに上げますから場合によっては『なんて頭の斬れる探偵なんだ、うちの事件もこの人に解決してもらおう!』なんて依頼人も増えたりして」

波子「そ・そうかぁ?(^^ゞ」

堂田「そうに決まってますよ!!やりましょうよ推理!!!」

波子「しようがないなぁ、ぼーっと依頼人まってたってしょうがないから宣伝のつもりでやるか!で何がどうしたって?」

堂田「まあ、この日本書紀と天皇系図を読みながら聞いてください。まずポイントは日本書紀の記述にうそ臭い不自然なところがあるってこと、文章に癖があって明らかに倭人が書いたのと唐人が書いたものに区別できて倭人臭いのが推古紀っていう部分、で、この部分に登場している聖徳太子は天才的、進歩的、奇跡的すぎてうそ臭い。直前の用明紀に大兄つまり皇太子というか王位継承権者の中でも有力候補としてでてくる彦人皇子が推古紀では消息が確認できない。だからこの人は消されたんじゃないかと。。。そして聖徳太子の子とされてる山背(やましろ)皇子っていう人がいるのですが、ちゃんと子供としては記されてないんです。で彦人皇子の子にも山代(やましろ)っていうのがいる。この人と山背が同一人物ではないかと・・・・。その理由として敏達天皇の忠臣とされてる三輪の君っていう氏族が山背の忠臣的な存在として書かれている。三輪の君氏族は敏達の直系である彦人、山代の臣であると考えられるってうことです。で聖徳太子ってのは厩戸でなくて本来は彦人のことじゃないか?つまり厩戸は存在しないってこと、厩戸を存在させるため彦人は消されたって事なんですよ。先生。。。あれ?寝てるのもしかして???」

波子「話しが長すぎるんで寝そうになったよ」

堂田「全然聞いてなかった???」

波子「聞いてたことは聞いてたけどさぁ。だいたいうそ臭いって何と比べてうそ臭くって不自然なわけ?唐人が書いてるって部分は真実くさいわけ?」

堂田「いやそんなことはないとおもいますが。。。」

波子「だろ?役人の記録なんては嘘臭いもんだよ。景気は良くなりましたって発表してるけどそんな感じはしないのと一緒で、突っ込まれるといやだから嘘はついてないけど本当のことも書かないってのが古今東西の役人の習性だ!!!年金問題にしたってそうだ。」

堂田「そりゃ極論でしょう。。。じゃあ厩戸の奇跡的な記述に関しては?例えば片岡飢人の話とか・・・。このへんは明らかに聖人思想によって書かれてるでしょう?」

波子「奇跡的なことにはネタがあるんだろうけど、嘘かどうかはわからないだろう?厩戸が奇跡のネタを仕込んだけど、他人には奇跡にしか見えないってこともある。例えば、講義した内容とかは誰かからの受け売りを自分のものにしたとか、片岡飢人だってし込みかもしれない。17条なんかも発布されてから日本書紀に書き遺される前に内容を当時の現代風に書き換えただけかもしれせない。」

堂田「また無理やりな解釈を。。。でも明治維新の時に神社やお寺の由緒が書き換えられたりってことはありましたが。。。」

波子「書いてあるのを否定するのもまた無理やりだよ。」

堂田「まあねぇ。でも彦人の記述がないって事は彼は死んだんでしょうかね?死んだ日の記述があってもおかしくないような重要人物なのに。」

波子「お寺の過去帳じゃないんだから必ず書かれるわけじゃないだろう?」

堂田「でも何時死んだんだろう。後継者不足に悩まされてる時代だけに候補者の死は重要な話題だろうに」

波子「そうか!死んでないんだよ。後継者から外されただけじゃないのか?厩戸っていう天才が登場したんだからさ。凡人は用無しだよ。」

堂田「ああなるほど。そういう可能性もありますね。でも推古即位のときに彦人が即位しなかったのは納得いかないなぁ。大兄だったんだし」

波子「推古や崇峻が即位する前に後継者から脱落したに決まってる!!!」

堂田「ええっ?どうしてですか?」

波子「この本に答えがかいてるじゃないか馬鹿だね君も。そういうのを論語読みの論語知らずというのだ」

堂田「ええっどこにですか?」

波子「推古前の天皇の死因を良く読め。病死だろ?疫病、天然痘が死因なんだろう」

堂田「彦人も天然痘で死んだと?」

波子「死んでないといっただろ。」

堂田「訳がわからないです???」

波子「彦人はね。ヘルペスつまり水疱瘡だったんだよ。天然痘と水疱瘡は初期症状が同じだ。でも彦人は水疱瘡だから回復した。罹ったのはおそらく崇峻即位のころだ。父親の敏達も大兄として仕えた用明帝も天然痘で死んだ。その頃水疱瘡に罹った彦人も短い命だと周囲の人間たちに思われたんだ。用明が短い在位で死んだのも教訓になってるはずだ。彦人は顔や体に跡が残ったんだね。当時の人にとってその跡は不気味なものだった。きっと何時死んでもおかしくないといことで、候補者から除外されたんだ。でも水疱瘡から回復した彦人は歴史の表舞台からは去ったが結構長生きした。」

堂田「・・・・・・。それは・・・・。」

波子「片岡飢人!!!これはね神聖化思想でアトヅケされた逸話ではないんだ。実話だよ。飢え人とは彦人のことだったのだ。彦人の子である山代皇子や田村皇子、後の舒明天皇たちは厩戸に保護されたんだよ。厩戸の壬生部が作られた607年あたりに彦人、それに彼の子孫の男子で年少のものたちは厩戸の斑鳩の宮に集められた。厩戸に見込まれなかった彦人の縁者は百済寺に預けられた。」

堂田「彦人の血筋の田村皇子つまり舒明天皇は百済大寺を建てた人ですよ」

波子「そうさ、だから田村は百済寺を大きくしたんだよ。厩戸に見込まれた彦人の子が山代皇子だよ。彼は日本書紀の記述では山背大兄皇子となる。だって「やましろ」同じ読みだろう?いくらなんでも同時代のライバルに同じ名前をつけないだろう?彼が教育のため厩戸の上宮に迎えられたんだろう。おそらく厩戸の政策の後継者としてね。厩戸は屍解仙を知ってたのだ。それを利用して自らの神聖化をはじめた。ついでに彦人も持ち上げたはずだ。聖人は聖人を知るってのが本来の意味だからね。助けられた彦人もその血を受け継ぐ山背や田村も仙人つまり聖人の子だ。そして仙人の血を引き聖人の教育を受けた者こそ自分の選んだ対豪族政策ひいては中央集権化という苦難の道を歩んでくれると思ったのだろう。まぁ失敗したがね。聖徳太子も人の子だったということだ。何もかも思い通りには行かなかった。

堂田「彦人の子の山代皇子が厩戸の子の山背大兄皇子になったなんて。でもそう考えれば血統としての山背は厩戸の子じゃないんだから蘇我氏が襲う理由は、はっきりしてくるけれど。つまり『やましろのおうじ』を接着点にして聖徳太子の理想と彦人大兄の血統が同化したってことですよね。血統主義の強い旧豪族たち、特に聖徳太子の血統の方に近い蘇我氏はそれを許さなかったということですよね。」

波子「そうだよ。山背は三輪君の一族に一度は救われてるだろう?それも当然なんだよ。彼は敏達の子孫だからね。敏達朝の忠臣の三輪君には助ける理由があったんだよ。山背は蘇我氏も話せばわかると思ったんだろうね。蘇我氏は山背の育ての親の厩戸の支持者でもあったわけだし。それに君は一番大事な事を忘れてる。日本書紀には山背が厩戸の子だなんて一言も書いてないんだよ

堂田「そう、そういえば、山背が厩戸の子というのは、後に成立した上宮聖徳法王定説の記述ですよね。片岡飢人の伝承は皇位継承の政力争いから脱落して不遇をかこっていた彦人の事で、太子を持ち上げるために書紀の編纂者たちが「屍解仙」神話を挿入したんじゃなくつたわってた話を書いただけってこと?つまり厩戸は彦人を助けたことを、そして大王家に親政の力を呼び戻すために彦人の血統に大王位を託して、それを屍解仙伝説として広めたってことか。。。。」

浪子「そうだ。誰かを匿って後に埋葬したってことは隠せないだろうからね。彦人を助けたんじゃなくって見知らぬ仙人を助けたことにしたんだろう。そうすれば彦人の死がなくなっても不思議はないからね。この伝説は、彦人の王家と厩戸の王権が合一して、トップの血筋が入れ替わったことを暗喩してるんだよ。」

堂田「ちょっと待ってください。山背はいや彦人の子山代は蘇我入鹿に殺されたんですよね。」

波子「そうだよ、敏達の系統に大王位がいかないようにね」

堂田「おかしいじゃないですか、田村が大王位についている」

波子「山背より田村の方が御し易いと思ったのだろう。蘇我氏には自分たちの権益を守る大王が必要だった。普通は血筋が近ければ守るはずだからね。でもそれさえ保障してくれるのなら彦人の血筋だからといって皆殺しにする理由もない。王権の集中こそが豪族たちには脅威なわけだし。それに山背だって、厩戸の政策遂行者としての有能さを見込まれて厩戸の後継者に選ばれたわけだ。自分は死ぬ、けれども田村や他の親族たちを守ることを条件にしたんじゃないか?蘇我氏にしてみれば指導力の備わった山背は邪魔だが、田村を一旦傀儡にして、そのうちに厩戸の子たちの誰かが適齢になったらそっちに大王位を移すつもりだったんだよ。」

堂田「何いってんですか、厩戸の子孫は入鹿に根絶やしに」

波子「ばかか君は、斑鳩で死んだのは厩戸の子じゃないだろう。蘇我氏が敵対してた敏達系の彦人の子の山背とその子孫だよ。推古が山背に他人の意見を聞きいれよと遺言しているのは、実質的に王家内部のリーダーが山背だったからだよ。推古は当時の常識ではこの王権の血筋移動が受け入れにくい上に、厩戸が遺した隋に習った中央集権の政策の急進性に不安があったからそういったのだ。一方の田村はそれほど厩戸の政策に心酔するタイプじゃなかった。だから謹んで物事を考えよと遺言した。田村はそれに従って、旧来秩序の保障はするという政策を採った。山背が悲惨な最期を迎えた後だから余計に慎重になったのだろう。」

堂田「隋に学んだ政策か。。。その隋だって滅びて唐に代わってますしね。じゃあ本当の厩戸の子たちは?」

波子「入鹿が斑鳩から連れ帰ったにきまってるだろ。谷の宮門、つまり蘇我系の宮殿だよ

堂田「まさか」

波子「蘇我蝦夷と入鹿の宮は、大化の改新で焼かれて全滅している。そこにいたのは蘇我蝦夷だけじゃない。厩戸の子孫たちもそこにいたはずだ」

堂田「つまり中大兄皇子たちは。。。。、」

波子「滅亡させたんだよ。蘇我氏だけじゃなくって厩戸の直系の子孫たちをね。その罪ごと蘇我氏に被せ闇に葬ったんだよ。まあ、誰が一番得をしたか?という考えだけだけどね。そっちの方がすっきりしないか?どうして同族ともいえる厩戸の子孫たちを蘇我氏が殺したのかっていう疑問に対しては、だけどね」

堂田「私の想像を超えた解釈ですねぇ。しかし何で山代の父が入れ替わってたとか、しかも実父は水疱瘡だとか考え付くんだろう???」

波子「彦人の名前で何か思い出せないか?押坂彦人。今日の依頼人と同じ名前だよ(笑)」

堂田「そんな、、、コジツケにもほどがありますよ。しかしまぁこの人の頭の中はどうなってるんだろう?」

波子「押坂(忍)だけに『それは秘密です』(昔押坂忍が司会してた番組)」(爆)

堂田「そんな中途半端な落ちじゃこまります。『ベルトクイズQ&Q』(昔押坂忍が司会してた番組)」(爆)みたいにきっちりと落としてくださいよ」

波子「そうだ!!依頼人の押坂さんの件、もう一度奥さんに聞いて見よう!!」

堂田「『ラーマ奥様インタビュー』なんて落ちだったら結構です」

波子「・・・・・・・・・・・・・・・・」


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