本能寺の変・殺人事件その3

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警察官「あのう、お話が盛り上がっているところ悪いのですが。。。」

 

浪子「何でしょう?公僕の皆さん。」

 

警察官「今から署の方までご同行願います。」

 

浪子「有無を言わさない言い方だねぇ。どう転んでも任意でしょう?」

 

刑事「いやね。あんたらに壷の捜索を依頼したという人、さっきの殺人事件の被害者の実の娘さんらしいですわ。」

 

場所は京都府警本部の取調室。

 

浪子「だから!壷の捜索を依頼されたただけですって!」

 

刑事「依頼人は父親が盗んだとは言うてましたか?」

 

堂田「いえ、空き巣に入られたとしか。。。。。」

 

刑事「所轄に確認したんやけどね。どうも空き巣の被害届は出てないそうですよ。」

 

浪子「被害届が出てない?なんてこったい。最初からこの事件に私たちを巻き込むつもりだったわけか。」

 

刑事「最初から?巻き込むつもり?依頼人が貴方たちを殺人事件に巻きもうとしたと言わはるわけですか?」

 

浪子「いや、殺人事件はアクシデントでしょう。本当の依頼は壷の捜索じゃあなかった。」

 

刑事「はぁ?じゃあ依頼人は何が目的であんた方を雇ったわけ?」

 

浪子「もちろん、壷を盗んだいや持っていた人間の捜索でしょう。」

 

刑事「ということは、その依頼人は、犯人逮捕を願ってた?」

 

浪子「そんなわけはない。逮捕してほしいなら被害届は当然出したはずです。そして被害届を出さなかった理由はただ一つ。奥さんは犯人が誰かを知っていた。」

 

刑事「そないなるわなあ。」

 

堂田「じゃあどうしてそう言わないんです?人を探してほしいって。僕たちは探偵。どっちかというとそっちが本業じゃないすか?」

 

浪子「おおっぴらに探してはいけない人間を探してたってわけさ。」

 

刑事「探したらあかんお人を探すって、なにやらきな臭いですなぁ。」

 

浪子「ところで、犯人の身元はわかりましたか?」

 

刑事「だんまりですわ。名前も何も言いよりません。指紋の照会作業中です。」

 

浪子「ほうそうですか。。。刑事さん依頼人には連絡されましたか?」

 

刑事「そら一番にしましたわ。何せ被害者の肉親はその依頼人ただ一人ですからな。もうそろそろ東京から到着される頃でしょう。」

 

浪子「ただ一人?なるほど。他に身内らしい身内はいなかったわけですか。陶三津さんは。」

 

刑事「陶三津という人はえらい有名な窯元の先生のようですね。今は作陶はやめて長いらしいですが。。」

 

浪子「止めた理由はわかりますか?」

 

刑事「どっちが尋問してるんやら。。。」

 

浪子「まあけちけちしないで知ってる情報を教えてください。何、守秘義務はお互い様です。絶対に他言はいたしませんよ。刑事さん。」

 

刑事「なにやら借金を抱えてしまい、ブランド名を手放さなくてはいけなくなったそうです。何やらという大きな商社に借金を肩代わりしてもらう代わりに陶三津ブランドをその商社のブランドにしたということらしい」

浪子「そうか、わかりましたよ。その商社とは織田商事。借金を肩代わりしたのは。。。。」

 

堂田「あの奥さんですね!」

 

浪子「違うよ。」

 

警察官「失礼します。刑事、被害者の娘さんが遺体を安置している病院に到着したようです。」

 

浪子「ちょうど良かった。」

 

刑事「何がちょうどええんですか。」

 

浪子「どうです?私たちと同席で事情を聞きませんか?」

 

刑事「あのね。あんたたちは参考人、あっちは被害者の娘さん。そんな事できるわけ・・・・」

 

浪子「ありますよね。私たちが参考人になってしまったのもあの奥さんの仕掛けなんですから。」

 

刑事「うーん。。。。まあいいでしょう。被害者の身内を取調室に呼びつけるわけにもいきません。場所を代えましょう。」

 

浪子「それはいい判断です。刑事さん。その前にちょっとお願いがあるのですが、調べてほしい事があるのです。それを調べるとおそらく犯人の素性もわかるでしょう。それは・・・・」

 

場所はかわって陶三津の遺体のある病院の応接室。

 

刑事「織田さん、お父さんに間違いないですね?」

 

織田夫人「はい。間違いございませんでした。」

 

刑事「お父さんは行方不明だったのですか?」

 

織田夫人「は?」

 

浪子「刑事さん、違いますよ。陶三津さんは行方不明などにはなっていません。この人が探しているのはですね。。」

 

織田夫人「あなたは!」

 

浪子「そうです。探偵です。あなたのご希望はどうやら私たちには叶えられなかったようですね。」

 

堂田「えっ!浪子先生何言ってるんですか壷は取り戻したじゃあないですか!」

 

浪子「違いますよね。奥さん。あなたが私たちにしてほしかったのは・・・」

 

織田夫人「何をおっしゃいます。こんな事になってしまいましたが、私が依頼したのは壷の捜索、費用は後日お支払いいたします。」

 

刑事「ちょっと待った。こっちの話を先に。奥さん、犯人は捕まえておるのですが、黙秘して何もしゃべりません。こちらの探偵が言うには犯人はあなたの知り合いのはずだというので面通しをお願いしたいのですが。。。」

 

織田夫人「私の知り合いと、こちらが?」

 

浪子「そうです。間違いないでしょう。あなたが探している人間かどうか。ご自分で確かめられてはいかがですか?」

 

織田夫人「私は壷を探してほしかっただけです。当然、父にも相談いたしました。父は壷を探す途中で事件に巻き込まれたのでしょう。」

 

浪子「嘘ですね。」

 

織田夫人「嘘?」

 

浪子「そう嘘です。正確には壷を持ち出した人間を探し出してほしかったのでしょう。違いますか?」

 

刑事「持ち出した?つまりそれは。。。」

 

浪子「そうです。持ち出したのです。盗まれたというのは語弊がある。」

 

刑事「つまりこちらのご家族さんの誰かが?」

 

浪子「そう。こちらのご主人が持ち出したのです。」

 

刑事「はぁ?こちらのご主人はもう随分前に事故で亡くなったとさっきお教えしたやあないですか!」

 

浪子「生きてたんですよ。織田前社長が亡くなったのは10年前に海の事故で、となっていますが、遺体は上がってません。ずっと隠れていたのですね。」

 

織田夫人「・・・・・・」

 

浪子「ちょうど、ご主人が事故にあわれたとき、織田商事は表向きの大発展とは違い内情は火の車だった。不良債権を抱えて前社長は日々、びくびくされていた。」

 

織田夫人「そんなことはありません!」

 

浪子「表向きはあなたの父上が借金を作り、ご主人が立て替えたということになっているが内情は逆だった。」

 

織田夫人「・・・・・・」

 

浪子「保険金詐欺。ですね?

 

織田夫人「失敬な。。。」

 

浪子「バブル期の投資で会社を発展させたご主人は自身にも多額の保険金をかけていた。相続税対策もあったのでしょうね。一代で小さな商社を大企業に仕立て上げたのですから。だがその多額の保険金だけでは一息つくことしかできなかった。そこでご主人は考えた。文化勲章までもらったあなたの父上のブランドを使って大逆転を狙った。もともと商才に長けた人です。息子さんをつかって「陶三津ブランド」を大々的に売り出した。そしてそれが大ヒット。織田商事は生き残ることができた。それが真相です。」

 

堂田「まさか!確かに陶三津ブランドは10年ほど前から芸術的陶器や手作りの焼き物だけでなく家庭用の食器やホテルなど業務用の食器にも進出してますが。。。」

 

浪子「君は黙っていなさい。奥さん、あなたの父上にも当然メリットはあった。身を隠しているご主人、つまり義理の息子に作陶の才能があることがわかったのですから。自分の技術を受けついてくれる弟子となったのですね?ご主人もその気になり陶芸家の修行を積んだ。」

 

刑事「ええええっ!」

 

浪子「あなたの父上をころした犯人は、あなたのご主人ですね。」

 

織田夫人「・・・・・・・」

 

浪子「その無言は否定しない、認めたということですね。刑事さん、犯人にここへ、。」

 

刑事「ああ、君!ここへ犯人を連行してきて。。」

 

浪子「あなたのご主人は、野心を再びもつようになってしまった。ビジネスではなく陶芸家としてね。おそらく今回の壷はあなたのご主人が作られた壷だ。その壷は、生まれた時から陶器に囲まれて育ったあなたからみてもすばらしい出来だったし陶三津さんからもお褒めの言葉を頂いた。その壷にあなたのご主人は内緒で陶三津の銘を打った。そしてその作品に対する評価がほしくなった。それを持ち出して骨董品店で値踏みをしてもらったご主人はショックをうけた。おそらく「贋作だから値打ちはない」とか言われたのでしょうね。そして師匠である義父を疑った。というか逆恨みをした。ちゃんとした技術を教えてくれないからこうなったのだと。。。」

 

織田夫人「その通りです。」

 

浪子「陶三津の銘を打つべきではなかったのです。そうすれば新人作家の作品としてそれなりの評価を得たことでしょう。しかしあなたのご主人はそう思わなかった。」

 

織田夫人「そうです。主人はそのまま行方がしれなくなりました。死んだことになっている主人の捜索願を出すわけにも行かず・・・。父はいつか壷を換金するはずだからといって、顔の効く各地の陶芸店や骨董品のお店に声をかけました。「陶三津の銘を打った壷を持ってきた男がきたら知らせてくれと。」

 

浪子「ご主人は師匠の影響力の強い関東を離れて京都に現れた。わけですね」

 

織田夫人「そこからは私にもわかりませんが、私もじっとしておられず壷を探せば主人の行方も知れると思いまして。。。。」

 

浪子「ご主人は師匠が邪魔をしに来たと思ったのでしょうね。カッとしてつい持っていた刃物で久しぶりにあった師匠を刺してしまった。あなたは、こうなってしまう事をある程度予測していたのではないですか?」

 

織田夫人「主人はカッとすると見境がなくなるタイプでしたので。。。。陶芸をはじめてからはそんなことはなかったのですが。。。。。。」

 

浪子「それを私たちに止めてほしかった。それこそが今回の依頼の本当の目的だった。。わけですね。」

 

織田夫人「そうです。。。。。。。」

 

警官「連行して参りました。」

 

織田夫人「あなた。。。。。」

 

刑事「間違いないですな。奥さん」

 

織田夫人「はい。私の主人、織田三郎です。

 

場所は代わっていつもの事務所

 

堂田「結局、手付金の余りが報酬ってことですね。ああああ幻の二百万円!!!」

 

浪子「いいじゃないか、経費を差し引いても実働一週間で二十万円もの儲けだ。」

 

堂田「しかし、織田商事は大ダメージですねぇ」

 

浪子「しようがないよ。」

 

堂田「何時わかったんですか?」

 

浪子「文化勲章までもらった陶芸家が名前を手放すほど借金するなんておかしいじゃないか。」

 

堂田「そりゃそうですけど。。。いろんな人がいますからねぇ。」

 

浪子「奥さんは出所を待つらしいね。よほど三郎さんにほれきってるんだろうなぁ。」

 

堂田「うーん。そうなのかな。。父親を殺した犯人なんですよ?」

 

浪子「わからないよ。男と女の関係は当人たちにしか。。。」

 

堂田「そんなもんですかね。」

 

浪子「おい!そういえば、本能寺の話、大事な人を忘れてた。織田信長の正室だよ。」

 

堂田「は?斎藤道三の娘の濃姫とかいう?」

 

浪子「そうだ。彼女が絡んでるんじやないか?」

 

堂田「というと?」

 

浪子「彼女が信忠を殺すことに同意してたんじゃないかって事。光秀が信忠を殺した事を信長に許すように進言できるとしたら信長の正室だけだろう?」

 

堂田「はあ、、」

 

浪子「濃姫には子がいない。信忠や信雄の兄弟は生駒の娘が母親だ。」

 

堂田「そうですね。この母親は本能寺の前には亡くなったらしいですが。。。」

 

浪子「子がいなくとも正室は正室、安土殿とか安土の方とか言われてる女性がいただろう?彼女が織田家の内々を仕切っていたんじゃないか?生駒の娘が死んだ後は、信忠、信雄兄弟の母親は義理の母であるこの人だけだ。」

 

堂田「義母ですからそれはそうでしょうけど。。。」

 

浪子「そうだ。信長にとっての政庁でもある安土の名で呼ばれる女性、この女性は本能寺が終わったあとも生きていた。彼女が濃姫だとすると。。。。」

 

堂田「信長に対しても意見ができる?しかし濃姫とやらは資料にも現れてないんで生駒の娘より早く死んだんじゃないかとかも言われてますよね?信長に意見ができるような立場にあったかどうかはわからないじゃないですか?」


続く 

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