I Could Write A Book

I Could Write A Book

基本データ

  • 作曲年:1940年
  • 作曲:Richard Rodgers (1902-1979)
  • 作詞:Lorenz Hart (1895-1943)

参考音源

Dinah Washington / For Those In Love (1955)
クインシー・ジョーンズ編曲によるオクテットとの録音。キーはF。
Relaxin’ With The Miles Davis Quintet (1956)
いわゆるマラソン・セッションの1枚。キーはE♭。
Ella Fitzgerald Sings Rodgers & Hart Songbook (1956)
一連のソングブック集の1枚ヴァースから歌う。キーはF。
Anita Oday and Billy May Swing Rodgers & Hart (1960)
コール・ポーター集に続くロジャーズ&ハート集。キーはF。

曲目解説

ミュージカル Pal Joey の一曲。

メロディとコード

インストゥルメンタルで演奏するときに一般的なキーはE♭と思われるが、以下、出版されたキーであるCで説明する。

7-8小節目

まず、9小節目の1-2拍目だが、楽器を問わず必聴・必修ともいえるDavis(1956)のアルバムの影響からか、Am7(同主マイナーのトニック)という印象があるが、原曲はあくまで原調のトニック・メジャー、すなわちCmaj7である。したがって、7-8小節目はDm7 | G7 | である。

実際、参考音源に挙げた音源以外も含め、私がチェックしたほとんどのすべての歌の録音で、7-8小節目をDm7 | G7 | またはそれに準ずる進行としていた。

なお、Davis (1956)はDm7 Dm7/C | Bm7(♭5) E7 | がコアで、Dm7/CをCm7に演奏する(テーマなど)ように、コーラスによって柔軟にリハーモナイズしながら演奏していると理解できる。

9-16小節目

ジャズ・イディオムで、この部分のストレートメロディにあうハーモニーをイチから決めるのは実は結構難しいように思う(そういう意味でマイルス・デイヴィス・クインテットの功績は偉大だと考える)。

例えばFrank Sinatra(1952)などを聴くと、C/E A♭7/E♭ | Dm7 G7 | Cmaj7 E♭dim7 | G7/D / Cmaj7 Cdim7 | G/B E♭7/B♭ | Am7 D7 | Dm7/G D7 | としている。これは、資料にあたると、比較的オリジナルのハーモニーに近いようである。また、Fitzgerald(1956)も比較的オリジナルに近いといえる。

ただ、これではジャズ・イディオムで演奏するにはやや具合が悪いようにも思われる。

クインシー・ジョーンズも苦労しているようで、Washington(1955)は、Cmaj7 E♭7 | Dm7 D♯dim7 | Em7 E♭dim7 | C7/D / C♯dim7 Cdim7 | Bm7 B♭dim7 | Dm7 D7 | Dm7/G | G7 | のようにしている。

だから、マイルス・デイヴィスが、大胆にも9-10小節目を平行マイナーにしてしまったというのは、とてもイノベイティブだと感じる。なかなか思いつくことではない。

25-26小節目

ここも、多くの録音では原曲同様、平行マイナーには転調せず、トニック・メジャーすなわちCmaj7から始めている。

いっぽうDavis(1956)はAm7 | A♭7 | である。A♭7に対して4拍目のメロディBはあらためて冷静に考えてみるとやや強引とも言えなくもないが、弱拍でもあり、また1-3拍目がコードに対して絶妙なところに来ているために、十分許容されるものであるといえよう。