ベース・レッスンの内容

ベース・レッスンの内容

90分のレッスン時間を前半と後半に分け、前半で「基礎」、後半で「実践」を学びます。

レッスン前半:基礎

ベース・レッスンの前半では基礎的なことを学びます。具体的には次のことを学びます。

  • フィジカルなスキル
  • ロジカルな運指
  • スケール/コード・スタディとイヤー・トレーニング

私のカリキュラムでは、これらを総合的かつ効果的に伸ばすことができるように工夫されています。

もちろん、個人レッスンですから、それぞれの興味関心や必要性を鑑みながら柔軟に対応します。

フィジカルなスキル

フィジカルな基礎とは、具体的には楽器の構え方、右腕や左腕、右手や左手の形や動きなどを、この楽器(コントラバス)を扱う上で重要なことです。

スポーツ選手がスピードや成功率を高めるためにフォームの改善が必要不可欠なように、われわれベーシストがクリアで豊かな音色、正確なリズムとイントネーション(ピッチ)、的確なアーティキュレーションで音楽を表現するためには、フィジカルなスキルの獲得が必要で、これは自己流ではなかなか身につかないことです。

楽器とは、一種の関数に例えることができます。条件が同じであれば、同じ入力(左手でどう押さえて右手でどう弾くか)に対して常に同じ出力を返します。たとえば、ピッチが悪いのであれば、毎回同じ位置を押さえられるように身体(と耳)のスキル・アップが不可欠です。アンサンブルのなかでベースが埋もれてよく聞こえないのであれば、おそらく音色やタイミングが問題でしょう。コントラバスでクリアな音色で演奏するためには、左手の押さえる方向、右手のはじく方向を適切にすることが必要です。

ロジカルな運指

ロジカルな運指とは、即興演奏をする上でとても重要な要素だと考えます。

コントラバスの指板は、バイオリンやギターと比べるとたいへん巨大です。左手の指がカバーする音域がたいへん狭いので、バイオリニストやギタリストがポジション移動なしに弾けるフレーズであっても、ベースの場合は数回のポジション移動を強いられるケースも決して稀ではありません。実際、コントラバスでポジション移動なしに演奏できるメジャー・スケールは3つしかありません。

せっかく頭でひらめいたフレーズが、運指がうまくいかないこと(私は「手詰まり」と呼んでいます)によって、音楽的なアイディアがしぼんでしまったり、表現したいものが楽器で表現できなかったりと、悔しい重いをした経験は、ベーシストなら誰しもあるはずです。また、中高音域のD弦やA弦を演奏で有効に駆使しきれていない中級者も少なくないはずです。

コントラバスのもつ巨大な指板というハンディキャップを克服するために必要なのは、ロジカルで強力な運指法です。

ロジカルな運指を身につけると、指板を効率的に使うことができるので、フレージングや表現の幅が飛躍的に向上します。そのためには、様々なインターバルや音型を音楽的な文脈のなかで繰り返し練習することが大切です。これは初心者が取り組むメジャー・スケール(ドレミファソラシド)からすでにスタートしています。

スケール/コード・スタディとイヤー・トレーニング

クラシック、ジャズ、ロックなど、西洋音楽を学ぶ上で、スケールは重要な基礎のひとつです。即興演奏であるジャズでは、コード・シンボルをスケール・シンボルとして演奏に生かすなど、コードとスケールはとても重要です。

また、イヤー・トレーニングとは、聴覚芸術である音楽を演奏する上でとても重要です。

実際の演奏現場で求められるイヤー・トレーニングとは、音大の受験生が行うような狭い意味での「聴音」の問題にとどまるものではありません。

ジャズ、ラテン、ボサノバなどさまざまな音楽には、それぞれ固有のノリ、すなわちグルーヴがあります。ジャズのビバップであればニューヨーク訛りの英語、ボサノバやサンバはブラジルのポルトガル語、アフロキューバン音楽はスペイン語のもつアクセントと密接に関わっています。

英語のLとRを正しく区別して発音できるようになるには、LとRを聞き分けられることと無関係ではないのと同様、それぞれの音楽のノリを身につけるには、まずそれぞれの音楽に特有のグルーヴを正確に聞き取る聴覚を磨くことが不可欠です。基本的なリズム型とメロディやベース・ラインとの関係を耳で理解しながら、それぞれのアーティキュレーションを聞き分ける能力が必要です。

また、複雑なジャズのハーモニーを自分の表現の一部に取り込むためには、ハーモニーの微妙な違いを聞き取ることができることが前提になってきます。コードやテンションとメロディやベースラインの関係を理解し、自分の表現に生かすためには、スケール/コード・スタディがとても重要です。

このように、リズムやハーモニーなどあらゆる音楽表現は、プレイヤーの楽器のレベルだけでなく、「聴覚」のレベルとも深く関わっています。

私のカリキュラムは、楽器のテクニックを学ぶと同時に、音楽表現の基礎となる「耳を養うこと」を意識して組み立てられています。例えばスケール・スタディではさまざまなインターバル(音程)を練習することで、ベースの基本的な運指法を学ぶとともにさまざまな角度から音感を養います。

レッスン後半:実践

ベース・レッスンの後半では、実践的なことを学びます。

ビッグバンドで演奏している方

学生や社会人のビッグバンドで演奏されているかたは、バンドの曲を練習するのもよいでしょう。

初心者はもちろん中級者であっても、実践的な運指をしっかり学ぶよい機会です。基礎のところにも書いたように、即興演奏をするためには合理的な運指の修得はとても重要です。ビッグバンドのような、いわゆる「書き譜」の練習は、実践的な運指の基礎を身に付けるうえでもとても重要です。

また、ビッグバンドのベースのパート譜は、玉石混淆です。とても役立つベースラインが書いてることがあるいっぽうで、無理な運指を強いるだけでたいして内容のない(ときには不適切な)ラインが記されている場合もあります。このような譜面を練習するのは苦行以外の何ものでもありません。ベースラインを適切なものに変更するほうが、ベーシストにとってはもちろんバンド全体にとっても利益になります。

効率的な学習ができるよう、明らかに疑義のあるベースのパート譜については適正化したうえでレッスンの教材として活かすとともに、ベースラインのブラッシュ・アップすることで所属のバンドのサウンドにも貢献できればと考えています。

ベースラインやソロで、次のレベルにステップアップしたい方

ベースラインやソロを学ぶには、楽器のスキルに加え、コードやスケールなどジャズ・ハーモニーの知識、メロディや歌詞の理解に加えて、ときにはジャズのスタイルやイディオムについての広い識見も必要です。

ウォーキング・ベースラインの学習は、ジャズ・ハーモニーとリズムの関係を学ぶ上でとても重要で、ソロをする上で必要な知識と経験の土台をつくります。また、メロディやコードに対する鋭い耳を養ううえでもとても有効です。

ソロの学習は、より幅広い知識と経験が必要です。チャーリー・パーカーの曲のような、いわゆるバップ・リフは、ハーモニーの感覚と実践的な運指を修得するにはとてもよい教材になります。また、ベーシストのソロをトランスクライブ(採譜)して練習することもとても重要です。

創造的な演奏にとって不可欠なものは、ケース・スタディ(事例研究)の積み重ねです。

ジャズは、一種の言語です。実際の英文や英会話を一切読んだり聞いたりすることなしに、文法書と辞書だけを頼りに英文を作ったり話したりしても、とても不自然な英語ができるだけでしょう。さまざまな作品やソロを研究し、分析検討したり、実際に楽器で練習して身体になじませることが自然で自由な即興演奏するための血肉となるのです。