楽譜を書くためのスキルを身につけるためには

楽譜を書くためのスキルを身につけるためには

ジャム・セッションでは、たまに「譜面がよくない」などとお叱りを受けている参加者がおります。 もっとも最近は便利な曲集が出回っていて(私は持っていませんが)、その中のレパートリーを中心に演奏することが増えてきたのでそのような光景を見る機会はぐっと減ったようにも思いますが、私がジャズを始めた頃は便利な曲集が手に入りにくかったために、譜面とは自分で作るものでした。

自分の譜面は「正しい」のか

私もジャム・セッションのホスト・プレイヤーを務めることがありますが、自分で譜面を書いてくる参加者がいると、その内容や経緯がどうであれ、まずその意欲を褒めたくなってしまうのですが、それでも、その内容に問題がまったくないかといえば必ずしもそうでもないことも事実です。

ただ、私が残念なのは、せっかく意欲的に譜面を作ってきて、その内容もそこそこ良いのにもかかわらず、その譜面を演奏した別の参加者がその内容を否定するようなことを目にするような場合です。特に、いわゆる「歌もの」といわれるジャズ・スタンダード・ナンバーについては、リズム、テンポ、メロディ、そしてハーモニーの解釈は、人によって様々です。というか、これまで思いつかなかったアイディアでどう料理してやろうか、という気概のせいか、例えば同じ曲の有名な録音を5テイク、10テイク持ってきて採譜すると、演奏されているハーモニーがまったく一致している例など、まず見つかりません。

だから、「そのコードが間違っている」という指摘をされることがあったときに、確かに、明らかに不適切なコードが書いてあることもあるのですが、一方で、指摘する人が不勉強だったりハーモニーについての考え方に柔軟性がなかったりするケースもそれなりにあるのです。

私がスタンダード・ナンバーを研究するときは、可能な限り多くの録音を集め、それらを録音年代順に並び替え、それを採譜するという作業をします。これは、楽曲研究の基本だと私は思うのですが、そういうことを丁寧に何十曲、何百曲と取り組んでみて初めて見えてくる面白さや気づきというものがあると思います。誰かの解釈に対して「間違っている」と否定的な見解を述べること自体は悪いことだとは思いませんが、その場合は、それ相応の裏付けとなる事実が必要ではないかと思います。

ですから、「譜面が間違っている」と指摘されたときに、反論しても私はよいと思いますが、いわゆる「大人の対応」でその場を納めたとしても、その指摘された箇所に自身が持てないのであれば、後日改めてその部分を聞き直してみるとよいと思います。4つのケースが考えられるでしょう。

  1. 自分が正しくて、相手が間違っている。
  2. 相手が正しくて、自分が間違っている。
  3. 自分も相手も間違っている。
  4. 自分も相手も正しい。

最後について補足すると、ジャズの演奏において、ある曲の解釈について唯一絶対の答えといものは存在しないというわけです。

譜面のどういうところを改善したらよいのか

とはいえ、相手も、あなた自身も、もちろん私も、音楽を学ぶ立場にあることに違いはありません。つまり、音楽や楽曲について完全に理解しているわけではありませんし、すでに学んだことに対して勘違いすることも、言い間違いをすることもあるでしょう。もちろん、まだまだ理解不足、スキル不足な部分がないというわけでもないでしょう。つまり、それぞれ改善の余地があり、不完全な人間同士が寄り集まって、音楽が少しでもまともなものになるよう取り組んでいるわけです。

楽器や歌のテクニック、楽曲の理解、リズムやハーモニーの理解、アレンジのスキル、バンドのアンサンブルで何が起こっているかを即座に理解し対応する力、などなど、日々精進すべきことはあります。

「楽譜を書く」ということも、そのようなスキルの中のひとつでしょう。

では、譜面のどのようなところを改善したらよいのでしょうか。共演者が読みやすい譜面とはどういうもので、演奏しにくい譜面とはどういうものでしょうか。

まず、譜面には、演奏に必要な情報が過不足なく書かれていることが必要です。管楽器やボーカルのようなメロディ担当、ギターやピアノのようなハーモニー楽器、ベースやドラムなど、それぞれ役割分担がありますが、リード・シートは、演奏にかかわるすべての奏者にとって必要な情報を過不足なく伝える必要があります。

例えば、お決まりのリフがあるのであればおたまじゃくし(音符)で記しておくべきでしょう。リズムのいわゆるキメが書いてあったとして、それがどの楽器に対する指示なのか明確に書くべきです。すなわち、全員がブレイクするのか、ドラムやベースはタイムをキープするなかで、ギター、ピアノ、あるいはスネアドラムなどドラムセットの一部が演奏するのか、明確に書き分ける必要があります。

明確さも大切です。repeat twice という指示が書いてあると奏者は、「リピートを2度繰り返すのだから、3回演奏するのか? それともやはり2回なのか。でも、2回だとすれば単にリピート記号を書いておけば十分なわけだからやはり3回なのか?」などと考えているうちに、ミストーンをするかもしれません。play 3 times と書くほうが明確に伝わります。

私は、コーラスの中で基本的にリピートや1カッコ、2カッコなどは使いません。面倒でもリピートを使わずにだだーっと展開して書いておけば、メンバーが、例えば、AABAの曲の2回目のAを飛ばしてソロをしてしまうといった事故をかなりの確率で減らせるからです。

このように譜面を書くスキルには、演奏の情報が過不足なく書かれているか、そしてその書き方が明確か、そして、事故を未然に防げるかというような工夫もされているか、というようないくつものチェックポイントがあるものです。あなたの譜面はこれらの条件をどこまで満たしているでしょうか。

譜面の書き方のスキルを上げるためには

自分が書いた内容がどのように解釈されるか正確に把握することです。そのためには、自分よりも知識や経験の豊富な第三者に、きちんとチェックしてもらうことでしょう。ここにはどうしても対話が必要です。つまり、ある曲のある部分にAとBの2通りの解釈があったとして、譜面はAの解釈で書いてあるにもかかわらず、本人はBのイメージで書いているケースも大いにあるからです。例えば、リズムのキメが、ピアノやギター、ドラムセットの一部だと考えていたところ、よくよく確認してみたら全員で演奏しなくてはいけなかった、という場合です。場合によっては参考にした音源を聞いて確認することも必要でしょう。ジャム・セッションのような時間的に限られた状況でこのようなことを丁寧に行うことは現実的ではありません。

イントロやエンディング、リズムの指示をどこまで書いたらよいのか(場合によっては書かないほうがよいこともあるかも知れません)。あるいは、書いてあるコードが誤りではなかったとしても実際のイメージと異なっていた場合、第三者には気づかないこともあります。また、テンションに選択肢がいくつかある場合、あるいは、常識的な流れと異なるテンションの選択が必要な場合で、メロディにヒントがないような場合においては、テンションを過不足なく指定する必要があるのですが、そのあたりは大丈夫でしょうか。

また、リタルダンドとフェルマータの違いを正しく理解しているでしょうか。たまに、リタルダンドとフェルマータを同時に指定している譜面を見かけますが、これは原理的に絶対ありえないことです。

このように、譜面のスキルを上げるためには、音楽そのものの理解(ハーモニー、メロディ、リズムその他)を強化することと密接な関係があることがお分かりになるでしょう。もちろん、CDのような音源を聞いたときに、それをどこまで正確に聞き取って判断できるかというスキルは、実際のアンサンブルの中でも生きてくることです。

私のレッスンでは、単に譜面を添削するのではなく、実際の意図をよく聞き取った上で、そのアイディアにとってもっとも適切な譜面の書き方を提案するとともに、ビフォー・アフターを比べることで、より実践的な譜面の書き方や音楽の様々な理解につながるように工夫をしています。

対面はもちろんオンライン・レッスンで行うことができます。音源とその再生環境、鍵盤楽器(簡単な電子キーボードで十分です)、それに五線紙と筆記用具をご用意の上、受講してください。