バンド・クリニック

バンド・クリニック

なぜベーシストがバンド・クリニックをするのか

バンド・クリニックは、どの楽器の奏者に頼むのがよいでしょう。

ビッグ・バンドの場合、メンバーの大半がホーン・セクションなので、管楽器奏者に頼めばよいのでしょうか。それとも、ハーモニーの知識が豊富そうなピアニストでしょうか。スウィングさせるにはドラマーやパーカッショニストがよいのでしょうか。

私は、音楽を深く理解し、バンドの課題を聴いて判断することができて、アンサンブルの方法論についてきちんと筋道だてて説明できるか、そして、バンドのアンサンブルを聞いてそこで生じている課題を正確に聞き取り、適切で具体的な改善策を提案できることのほうが、担当楽器の違いよりもはるかに重要だと考えています。

アンサンブルにおけるベーシストの役割

それでもいちおうベースのポジションについても説明しておきましょう。

ベースは、野球のキャッチャーのような存在で、すべてのメンバーと音楽的に向かい合うようなポジションにいます。まず、バンド全体にビートを送り込む心臓(あるいは車のエンジン)のようなはたらきをします。さらに、ドラマーとは二人三脚を演じますし、ベイシー・スタイルのギタリストともやはり同じような関係にあります。また、ピアニストやギタリストとともにコード・ワークを担当し、さらに、ベースラインはメロディラインとともにバンドの外声であり、さらにメロディとは対位法的な関係をなします。また、バリトン・サクソフォンやベース・トロンボーンとコンビを組むこともあれば、ブラス・セクション全体のパーカッシブなバッキングをあたかもリズム・セクションの一員のように迎え入れることもあります。

このように、ベースはバンドの花形楽器ではありませんが、バンドのすべての楽器と有機的に結びついていることが分かるでしょう。ベーシストがまずい演奏をするとバンドの足を引っ張ることがありますが、逆に、バンドにどこか不調があるときベーシストがまっさきに気づくこともあるのです。

管楽器奏者とは別の視点

このように、アンサンブルに対するベーシストの視点は、管楽器奏者の視点とはまた別のところにあります。したがって、もしバンドの指導者が管楽器奏者であれば、一度ベーシストなどリズム・セクションの奏者にバンドのクリニックを依頼することで、別の視点からバンドを改善させることが期待できます。

これは、ビッグバンドに限ったことではありません。2管クインテットやピアノ・トリオ、あるいはボーカリストの入ったグループなど、大小様々なジャズ・アンサンブルのスキルアップにも効果的でしょう。

もちろん、ビッグ・バンドのリズム・セクションに対するクリニックでも、アンサンブル能力を向上させることができるでしょう。