楽器(ベース)について

楽器(ベース)について

私は、弦楽器製作の専門家ではありません。あくまでも一人のプレイヤーの意見として参考にしていただければと思います。

楽器の調整について

楽器の性能と調整

楽器本来の性能というものが決まっていると考えるべきです。ひょっとしたら、経年による性能の変化というものはあるのでしょう。でも、それは、コントロールすることは不可能なのでここでは考えないものとします。

仮に、私の楽器の持つ本来の性能を100としましょう。

実際の演奏で楽器本来の性能100で楽器が鳴っているということはまずありません。これには2つの理由があります。第一の理由は、私自身の技術が未熟である点、そして第二の理由は、厳密な意味に置いて楽器が万全に調整されていない点です。

楽器のパフォーマンスには、楽器の性能という定数のほか、奏者の技術と楽器の調整という2つの変数があるということをきちんと認識することが大切だと思います。

したがって、根気よく練習することもなしに、弦やピックアップやアンプを変えたり、駒やら魂柱やらテールピースをいじっても、劇的な改善はしません。奏者も同時に改善して楽器の性能を十分引き出す技術を身に着けなければならないからです。

とはいえ、楽器が適切に調整されているということもとても大事です。

極端な例ですが、どんなすぐれたベーシストでも、楽器に弦が張っていなければまともな演奏はできないでしょう。せいぜいボディを打楽器のように叩いて表現することくらいしかできません。

したがって、楽器のパフォーマンスは次の式であらわすことができると考えることができます。

楽器のパフォーマンス = 楽器本来の性能(定数) × 奏者の技術(変数:0〜1) × 楽器の調整度(変数:0〜1)

「奏者の技術」と「楽器の調整度」という2つの係数を0〜1に設定したのは、どんな演奏をしてもどんな調整をしても、楽器本来の性能は決して超えることがない、ということです。

これは、ひょっとしたら間違っているのかも知れません。しかし、奏者は基本的にこのように考えておいたほうが道を踏み外すようなことがないのではないでしょうか。理由は、

  • 練習をしっかりしなさい。
  • 楽器の調整に無駄な費用と労力をかけるべきではない。

という2つの教訓をもたらすからです。

楽器の調整はとても重要であることは紛れもない事実です。

例えば、ある学生ベーシストが中古の楽器を買ったのですが、指板の調整が適切ではなかったためにとても弾きづらそうにしていました。購入した楽器店に一緒に行って、「このあたりが調整が必要だと思う」と指摘したところ、担当者はしばらくはその必要はないようなことを言っていたのですが、私が根気よく主張したので、渋々道具を持ってきて再調整の必要性を認めたということがありました。

適切に調整がされているかどうかは、特に初心者、あるいは中級者くらいになっても、なかなか分からないものです。

したがって、日頃からレッスンを受けている指導者やベーシスト仲間に自分の楽器を弾いてもらったり、楽器を弾かせてもらったりする機会を可能な限り持つとともに、楽器を調整してくれる職人さんときちんとした信頼関係を築くことが重要だと考えます。

楽器についての知識について

楽器を買うにあたって、それから、楽器を手にしてからも、どの楽器をどう選んだらよいのか、今の楽器を選んで正解だったのか、弦のこと、調整のこと、なんかもうちょっと楽器が鳴るのではないか、などなど、楽器にまつわる悩みは尽きません。もっとも大半が雑念のようなもので、要するにもっと練習しろということなのですが、一方で楽器についてのきちんとした知識や考え方を持つということも必要なのではないかと思います。

ネット上の記事、師匠や先輩の意見、職人さんの考え方などいろいろな考え方があります。なかには矛盾することや、誤った知識や考え方というのもあるかも知れませんし、また、異なる立場や見方があって、一方が正解で他方が不正解ともいえないということもあるのでしょう。

ただ、プレイヤーにとって、音楽や練習に集中するためにも、楽器に対する悩みや迷いを減らすということは非常に重要なことです。

なるべく職人さんには機会があるごとに質問をするようにする(私は、他の楽器の演奏者、PAの方にもできるだけお話をして情報収集したり助言を得たりするようにしています)ことはもちろんですが、書物から学ぶということも必要かと思います。

私が最初に手にした本は、佐々木明著『弦楽器のしくみとメンテナンス』(2冊あります)です。これはコントラバスばかり書いているわけではないのですが、基本的な知識や考え方が書かれていて、とても興味深く読めました。

コントラバスについての本は、洋書ですが、Chuck Traegerの The Setup and Repair of the Double Bass fo Optimum Sound (これも2冊あります。米国のアマゾンからだと少し安く買えます)が良かったです。すべて熟読はしていませんが、気になっているところ、関心のあるところを中心に読みました。

また、最近、園田信博著『最上の音を引き出す弦楽器マイスターのメンテナンス』が出版されました。私のまわりの奏者のなかで話題になっていたので、買って読みました。コントラバスについてもきちんと書かれていました。

このような書物にあたるということも必要なことではないかと思いますが、鵜呑みにしないことが大切だと思います。

例えば、Traeger氏の本に、エンドピンは木製がよいということが書いてありました。私は相当疑い深いので、かなり批判的に内心「本当かよ」という気持ちで読みましたが、実際に確かめたら面白いのではと思って、太めのエンドピンソケットを注文し、また、ドラムショップで何種類化のスティックを購入、するつもりが廃棄品をいただいて、試してみました。今は自作の木製のエンドピンで演奏していますが、楽器の職人さんの評価はまっぷたつです(苦笑)。

弦について

弦の選択について

基本的に万能な弦はないということです。これはピックアップにもいえることでしょう。

弦には、ピッチの安定、音色、音量、反応、弾きやすさのほか、価格も含めてさまざまな要素がありますが、どれも一長一短で、万能なものはないということです。それに好みもあります。

憧れのベーシストが使っている弦だからといって、自分の楽器がそのような音がすることはまずありません。技術、すなわち、楽器本来の鳴りを弾き出す能力に雲泥の差がある場合がほとんどだからです。それに、楽器そのものの性能や、弦以外の要素もあるでしょう。生演奏をきいたならともかく、CDのような録音された音源では、録音や再生環境によって音色は変化するものと考えるべきです。

弦はどのようなものを選んでも良いと思いますが、あまり金額をケチるべきではありません。特に学生はお金を少しでも節約しなくてはいけないことは分かるのですが、あまり安物の弦(いわゆる「学生用」「練習用」と書かれたスチール弦)は絶対に買ってはいけません。

実は私の後輩でこの手の弦を買った人がいたのです(銘柄までは覚えていませんが、セットで数千円だったと思います)が、いちおう音が出るというだけの酷いものでした。結局、スピロコアか何かを買い直していましたけれども。

実はスチール弦には大まかに2種類あります。ひとつは、芯線(コア)が針金のようになっているもの、もうひとつは、細い糸状の金属を編んだものをコアとして使っているものです。

例えば、スピロコアという弦があります。これは、spiral rope core という意味です。私が貧乏学生でベースについての知識もまだ乏しかった頃、なぜベースの弦がこんなに高いのだと思って、実際にスピロコアの弦を分解したことがあるので分かるのですが(試す人は手を切らないように気をつけてください)、細い金属の糸をロープ状に編んだものをコア(芯)として使っていて、それに金属を巻いているのです。つまり、ガット弦のように非常にしなやかで豊かな倍音が出るように工夫されているのですね。ベースの弦はギターやバイオリンなんかと比べるとかなり大雑把なように思われますが、それでもかなり手の込んだ作りになっているものだと感心しました。同じスチール弦のカテゴリでも単なる針金状のコアを使った弦(いわゆる「学生用」「練習用」の安物の弦)とは全然異なるのです。

弦はスチール弦だけでも種類が多く、また値段もそこそこするのと、交換に手間がかかり、しかも楽器に馴染むまで時間がかかるということもあって、すべての弦を試して比較することはなかなか困難です。

しかし、アンサンブルのなかで埋もれないということも重要なので、一人で弾いたときに、少しやかましくギャンギャンする(耳につく)というか、ややノイジーなくらいがちょうどよいのではないかと思います(この考え方は、弦の選択だけではなく、音色をつくる練習をする上でも役に立つと考えています)。少なくとも、あまり上品すぎないほうが良いものと思われます。

私は、ガット弦が好みです。ガット弦を実際に張ってみて、ポール・チェンバースのあの感じ、スコット・ラファロのあの感じ、あるいは一時期のエディ・ゴメスのあの感じが体感できました。スチール弦とはまったくの別物ですし、ガットを弾くとシンセティック弦もやはりスチール弦寄りだなと思ってしまいます(あくまでも個人的な感想です)。

それから、1・2弦をガット弦、3・4弦をスチール弦を張っていた時期がありましたが、今思えば失敗だったと思います。実際に、弦の製作者から注意されたのですが、弦の張力が全然違うのでバランスを悪くしてしまうということでした。「だまされたと思って、セットで張ってみろ。バラでは売らない」と言われたので、実際にすべてガット(ただし下2弦は銀の合金巻)を張ってみたら納得でした。