バンド・クリニックについて

バンド・クリニックについて

クリニックの内容や方法

「クリニックの内容はどんなものですか」

それぞれの楽器のレッスンが、その楽器のスキルアップを目指すのに対し、バンド・クリニックはバンドのアンサンブル向上を目指します。

私は、ベース以外の楽器についてはほとんど演奏することはできませんから、具体的な奏法(例えば、演奏フォーム、アンブシュア、フィンガリングなど)について指導することはできません。しかし、バンドのメンバーが持っているスキルのままでも、アンサンブルについてちょっとしたコツをつかんだり、考え方を替えたり、あるいは新しい視点でアンサンブルを捉えたりすることで、アンサンブルの能力がうんと向上する余地が十分にあるものだと考えています。

ジャズのアンサンブルでは、それがビッグ・バンドであれ、スモール・コンボであれ、それぞれの楽器の果たすべき役割が、原則として決まっています。

管楽器であっても、メロディやオブガートを演奏する場合と、パーカッシブな伴奏パートを演奏する場合では、例えばリズムに対するアプローチが異なります。また、リズム・セクションの中をみても、様々な役割分担があります。

また、ジャズバンドには原則として指揮者がいませんが、そんななか、リタルダンドやフェルマータ、あるいはテンポ・ルバートの処理の仕方には、マナー(作法)があります。このようなアンサンブルの作法は、先輩ミュージシャンたちから実践的に教えられますが、教わったあとに映像や音声で本場の一流の演奏を聞くことで、見方、聞こえ方が変わってきます。幾何の問題で適切な補助線を1本引くことで、まるで見え方が違ってくるのと同様でしょうか。

私たち、ミュージシャンはこのようにプラクティカルな方法で上の世代から確実に実践的なアンサンブルについてのスキルや知識を受け継いでいます。

学生バンドも含めて、アマチュアのバンドは、皆さん大変熱心に練習や活躍をされていて、日々スキルアップをされているように思います。ただ、このように口伝に近い形で学ぶ作法(マナー)や決まり(ルール)については、とりあえずできていればよい、特に困っていないといったような理由でなおざりになっているケースが散見されるように思います。

ぜひ、そのような知識を少しでもお伝えして、さらにパフォーマンスの向上につながるようなお手伝いができればと考えています。

「例えば、アマチュアや学生バンドにみられる誤解にはどのようなものがありますか」

一番多いのはリズムに対する誤解でしょうか。

私がベーシストだから申し上げるわけではないですが、とにかく、アンサンブルをベーシストのせいにしておけばバンドが丸く収まるという状況があるように思います。

もちろんこれは冗談ですが、ベースに対して「もっと大きな音を!」「遅れるな! テンポをキープして」「もっとビートの前で!」というようなことを執拗なまでに要求しがちなのではないでしょうか。

私もそうでしたが、正しいスキルを身につけていないベーシストにも改善の余地があります。原因はいくつもありますが、ひとつ紹介すると、ベースは左手で弦を押さえ(ピッチが決まる)て、右手で弦を弾いて音が出ます。これをもう少し正確に見ると、音が実際になるのは、右手が弦から離れてからです。そして、右手が弦を弾くよりもわずかでも前に、左手を押さえておかなくてはなりません。しかし、音を決めるのは左手ですから、無意識のうちに左手でリズムを取ってしまう人がいます。そうすると、実際に音が出るのは左手で押さえたずっと後ですから、当然、ベースがビートに対して遅れるのです。

このようにベースのリズムにはベーシスト側に問題があることは否定いたしません。

しかし、その上で敢えて申し上げたいのは、大半のバンドは、リズム・セクションに対して、管楽器のメロディが突っ込んで演奏しているということです。

第一の問題として、ベース(あるいはリズムセクション)が前だ、という考え方に問題があると考えています。特にメロディ楽器の人たちは、メロディを聞いてテンポを捉えているひとが無視できない割合でいるのではと思います。そのような聞き方をしていると、ベースやリズムセクションは、メロディのかなり前に聞こえるので、「ベースはビートの前で!」と要求しがちです。

実際にはメロディのほうがビートに対して後ろなのです。ところが、メロディを担当すると、どうしてもビートに対して突っ込んで演奏しがちです。これが第二の問題です。これにも複数の原因がありますが、たとえば、音の切るタイミングを十分意識せずに実践できていないというケースが多いでしょうか。したがって、そのぶん、次のフレーズが突っ込む(ラッシュする)ことが多いのです。

バンドリーダーやコンサート・マスターがどの楽器の担当であれ、このようなことをきちんと理解し、バンドで起こっていることを正確に聞き取った上で適切に指導していれば問題がないのですが、アンサンブルで何が起こっていないかが曖昧なままにしておくと、リズム問題に対してベースやリズム・セクションを先にいかせようとするという方法に頼りがちになってしまうでしょう。アップテンポの楽曲では、なんとかごまかすことはできるかも知れませんが、ミディアム・テンポでオーディエンスをリラックスさせるのは難しいのではないかと思います。