経験者

経験者

独習でベースを学び、定期的な演奏活動をされている方もいらっしゃると思います。

演奏活動の場が広がり、いろいろな人から声を掛けてもらう機会が増えてきても、どこかで「行き詰まり」を感じていらっしゃる方も少なくないかと思います(私自身もそういう時期がありました)。

「練習課題が少しぼやけてきた」「音の粒立ちがよくない」「ピッチがよくないといわれる」―こんな状況が長く続いていないでしょうか。

確かにスランプということもあるかもしれません。しかし、一度このあたりで、奏法や練習方法を見なおしてみてはいかがでしょうか。

「ベースが聞こえにくい」「音の立ち上がりが遅い」といわれるあなた

楽器の音色にとって、楽器のグレードや調整、弦やピックアップの選択などが影響しますが、忘れてはならないのは、楽器の音色を引き出すのはプレイヤーの技術であるということです。

ジャム・セッションでは、一台のベースを参加者が交代で演奏する場合がほとんどです。同じ楽器、同じアンプのセッティングであっても、弾き手によって音色はさまざまです。このことからも、いかに楽器のスキルが演奏にとって重要かということが明らかでしょう。

もちろん、音楽を愛する心、情熱、歌心、アイディアといったものが不可欠であることはいうまでもありませんし、音楽の本質はむしろそのようなところに宿っているともいえます。ところが、私たちベース弾きは、それのを楽器の演奏で聴き手や共演者に伝えなくてはなりません。そのためには楽器のスキルがどうしても必要になってきます。

楽器はとても正直です。コンディションが同じであれば、左手で弦の同じ場所を同じ方向に同じ力で押さえ、右手で弦の同じ場所を同じ方向に同じ力やスピードで弾けば、同じ結果が返ってきます。つまり、正確なピッチで演奏するためには毎回同じ場所を押さえさえすればよく、また、粒立ちがよい音色をコンスタントに生み出し続けるためには、常に適切な方法で弦を押さえ、そして弾く動作ができるように訓練すればよいのです。

コントラバスのメソッドはまさにこれを実現するために存在しています。なかにはベースを独学でマスターした人もいますので、このメソッドを自力でマスターすることも不可能ではないでしょう。しかし、コントラバスの奏法は、おそらく想像しているよりもずっと奥深いものです。たとえばJohn Golsby著、 Jazz Bass Book (英語)を紐解いて、著名なベーシストのバイオグラフィ(伝記)を調べてみてください。大半のベーシストがクラシックの継続的なレッスンを受けていることが分かることでしょう。もし行き詰まりを感じているようでしたら、一度レッスンを受けてみてはいかがでしょうか。

身体に痛みを感じているあなた

コントラバスの適切な奏法―姿勢や動作―は、クリアな音色や正確なピッチやリズムで演奏するため、そして豊かな音楽表現に集中するためにあるのですが、もうひとつ忘れてはいけないのは、怪我の予防に大変役立つということです。

コントラバスはとても巨大な弦楽器ですから、身体の使い方に注意をしないと思わぬ怪我を招き、最悪の場合、楽器の継続が困難になってしまいます。次のような症状のある方は要注意です。事態が悪化する前に奏法の改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

左手親指の付け根の第2関節または第1関節が痛い

左手で弦を押さえるときに、親指の第1関節が反っていませんか。

左手で弦を押さえようとする圧力が、弦にきちんと伝わらず、親指の付け根などの関節に集中してしまっています。

とてもデリケートなトピックなの慎重を期すべきですが、一般論として、指板に対する手の位置を見直す必要があるかと思います。もちろん手首や腕全体、場合によっては楽器に対する立ち位置の再検討も必要です。

左手小指の関節が痛い

小指(第4指)で弦を押さえるときに、関節(第1関節または第2関節)が潰れているのが原因です。他の指同様、指のアーチを十分に保って押さられるよう姿勢を改善するとよいでしょう。

おそらく、指板の端と第1~第4指の付け根の距離が遠すぎるのです。私の場合、G弦のローポジションを押さえるときの指板の側面と指の付け根との距離は、3センチほど、ちょうど親指一本くらいの隙間しかありません。おそらくその倍くらいのスペースが開いているのではないでしょうか。左手の形だけではなく、左腕全体の姿勢を見なおす必要があります。

左手首が痛い

左手首を折り曲げて演奏しているのが原因です。このように演奏すると負担がかかって大変危険です。

肘から小指の付け根までを一直線に保つつもりで演奏するのが正しい姿勢です。そうすると、左手の各指がより素早く動くようになるので、早いパッセージが弾けるようにもなります。

右手人差し指の関節が痛い

弦をはじくとき(ピッツィカート)、指の関節を伸ばしたまま弾いていませんか。このままでは弦の張力に負けて関節に負担がかかり痛めてしまいます。すべての関節をわずかに曲げたまま演奏するのが基本です。

また、原則として腕の重みを弦に伝えることが重要です。指の筋力だけで弾いていませんか。

右手首が痛い

これもはじき方に問題があります。弦をはじくときに、右肘から人差し指の第1関節までのすべての関節が、弦をはじくために作用する方向に動く(あるいは動かない)というのが基本的な考え方です。

ジャム・セッションなどでは手首だけ反対の動きをしている人をたまに見かけますが、これでは手首に負荷が集中してしまうので大変危険です。また、音色の観点からも、せっかくの腕の重みや動きを手首が吸収してしまうので、指先の素早い動きにつながらないために粒立ちや音色のみずみずしさを失う結果になってしまいます。

奏法の改善は早いほうがよい

もし身体に痛みを感じるのであれば、虫歯の治療と同様、放置せず早目に対処すべきです。

ただし虫歯予防には日々の歯磨きが重要なように、奏法の改善や維持には日々の練習が不可欠です。レッスンでは奏法をチェックし問題があれば改善を促す練習メニューを提案します。メニューは、次回のレッスンまでに毎日ひとりで取り組めるように具体的な課題を提示します。

奏法の改善とは、これまでの奏法をやめて新しい奏法を取り入れることですから、一時的に「見かけ上、へたになる」ことを受け入れなくてはいけません。時として精神的に非常に苦しい思いが必要なことは、私自身よく存じているつもりです。しかし、長い音楽人生全体から考えるとわずかなことかもしれません。一緒に解決を考えていきましょう。

ベースラインやソロに行き詰まりを感じているあなた

コードからベースラインやソロを演奏することができて、ジャム・セッションでも特に不自由を感じないあなた。1年前、3年前、5年前の演奏と比べて確実に上達していますか。

レパートリーは確実に増えていますか。ソロをルート以外のさまざまな音からはじめることができますか。またリズムのバリエーションはワンパターンに陥っていませんか。ドミナント・セブンス・コードの際、ピアニストの演奏するテンションの種類が聴いて判断し、適切なベースラインを演奏していますか。

「演奏が上手な人」とは、「練習のしかたが上手な人」とほぼ同義だと考えます。もし、曲が覚えられない、ここのところ演奏内容に進歩が感じられないという方はぜひここで一度練習方法を見直す時期にきているのかもしれません。

曲を覚えられない

ジャム・セッションでは、譜面を見ずに演奏できるようになりたいのになかなか譜面を手放せないという人も少なくないと思います。同じ曲を数年にもわたって何十回と演奏しているのに譜面なしで演奏することができないという人は案外多いのではないでしょうか。

なかには歳のせいにする方もいらっしゃいます。実際にその歳になってみないと絶対にわからないものだと思うので本当に歳のせいなのかも知れません。でも、本当にほかの原因は皆無なのでしょうか。

ベーシストがベースラインやソロを演奏するときに、コード記号を見て演奏することがほとんどです。コード記号が読めて、それに対するラインやソロが最低限演奏できれば、それなりの形にすることができます。

ところが、音楽はコードだけで成り立っているわけではありません。また同じコードでもキーや曲によってその役割は異なり、場合によっては対応するテンションやスケールも異なってきます。それをどこまで耳で聞き分けて、その違いをベースラインやソロで効果的に表現できるでしょうか。これまでの演奏経験をそのためにじゅうぶん活かしているでしょうか。

曲を覚えることは、お芝居のセリフを覚えるのと似ているのかもしれません。つまり相手役の台詞も含めて話の流れを理解することなしに自分のセリフを覚えることは難しいのではないかと推測します。コードも同様です。メロディに注意を払わずにひたすらコードだけを覚えるようなことをしていませんか。

メロディの一音一音が、そのキーやコードのなかでどの音に相当するかということを日頃から意識することでテンションやスケールに対する理解や感覚もどんどん磨かれていきます。テンションは理論でも説明できますが、何よりもメロディと表裏一体になっています。メロディの理解が何よりのカギです。

毎回同じような演奏に終始してしまう

日頃からメロディとコードの関係を意識する習慣を身につけたうえで、こんどはソロを採譜してみるとどうでしょうか。メロディで使われている音、あるいはその背景にあるスケールと、ソロの前提となるスケールが驚くほど一致していることに気づくでしょう。

ときには不一致に驚かされることもあります。それはソロ中に面白い響きを生み出しているタネや仕掛けのことが少なくありません。ではそれを自分のソロやラインのボキャブラリーに取り組むにはどうしたらよいかというように発想になればしめたもの。最初はそれを日頃の練習メニューに落とし込むこと難しいことですが、こうした日々の積み重ねがベースラインやソロの表現力につながっていくのです。

ベースラインやソロはとても総合的なことなので、さまざまな観点から取り組むことがとても大切です。

より広い音域で演奏しようとするならば、高音域の安定した技術や合理的な運指法の修得が不可欠です。

苦手なキーやコード進行を克服し、ひとつのコードにさまざまな切り口でアプローチするためには、スケールスタディやコードスタディが欠かせません。

ベース・ソロをアンサンブルのなかで際だたせるためには、ピアニストやドラマーのプレイを味方につけることが不可欠です。このためにはアンサンブルの基本的な原理についてきちんとおさえておく必要があるかもしれません。

また聴いてわからないことが演奏できません。さまざまな音源を深く聴きこんで採譜したり実際にベースで演奏してみることもときには必要です。

初心者のうちはドレミファソラシドを練習したり、簡単なメロディや教則本に取り組むなど練習する内容が明確でそれらに片っ端から取り組めばよいのですが、上級者になればなるほど「何をどう練習するか」というところで課題がぼやけることで練習効率が落ちたり、解決すべき課題はわかっていてもその対処法をうまく見出せずに長期間足踏みしてしまうことも珍しくありません。

また独習で続けてきた方は、身につけた技術や知識に偏りがみられることも少なくありません。