若い世代

若い世代

大学の「ジャズ研」をきっかけにジャズやベースを始める人は少なくありませんし、最近は部活動でジャズのビッグバンドに取り組む中学生や高校生も増えてきたようです。

課題に飢えているあなた

学校やバンドから依頼されてベーシストやリズム・セクションにレッスンやクリニックをすることもあるのですが、年に1-2回、演奏会やコンテスト前などの節目の時期だけに依頼されることがあります。

そのようなときは時間との戦いです。まず課題曲で気になるところを指摘するのですが、その前提となる技術にも触れなくていはならない場合もあります。さらに、レッスンの終わりがけには、ほぼ全員からさまざまな質問攻めにあうので、たいてい予定時間をオーバーしてしまいます。

自分からすすんでベースを選んだひともいれば、じゃんけんに勝って(負けて?)この楽器を弾くことになったひともいるはずですが、皆さん本当にジャズやベースのことを好きになって、少しでも上達したい一心で日頃からよく練習をしていると感じます。

ただ、情報化社会になったといわれるようになって久しいですが、ジャズのベースに関する限り、ネット上の情報にしても教則本にしても日本語で読める情報はまだまだ質量ともに不十分です。

一所懸命に練習しているにもかかわらず、運指が根本的に間違っていたり、楽器の構え方に問題があったり(実際に痛みを感じて怪我の予備軍になっている学生・生徒も残念なことに決して少なくありません)、コード記号が読めないのに「ベースラインの作りかたを教えて下さい」と質問されたり(1回のレッスンで扱う内容をはるかに超えています)、ということが珍しくないのが現実です(これは、本人ではなく、指導者の責任です)。

多くの学生や生徒たちが課題に飢えていると感じます。正直に申し上げるならば、もっと日頃からお手伝いさせてもらえれば、身体に負担をかけず楽に演奏したり、自分でベースラインやソロをつくる面白さを味わったり、ベースやジャズをより高くより深く楽しんだりできるのにな、と思うことがあります。人生でもっとも身体も脳も柔らかく、まとまった時間がある貴重な時期に、意欲旺盛にもかかわらず、適切な課題に取り組めていないという状況は、時間の使い方としてたいへんもったいないことです。

ぜひ、部活動の顧問の先生や親御さんは、音楽が生涯に渡って趣味として人生を豊かにしてくれるという長期的視点をもって子どもたちに接していただきたいと思います。そして、理解力も吸収力も素晴らしい10代から20代ですから、放ったらかしても自分なりに上達するものですが、ついつい無理をして身体に負担をかけてしまいがちという、この年代に特有なリスクがあることもきちんと認識していただきたいと思います。そして、旺盛な好奇心や知識欲を十分満たすためにもきちんとしたレッスンを受けさせることをぜひ検討していただきたいと思います。

もちろん、費用やほかの楽器との兼ね合いなど、特に中学や高校の場合いろいろな事情があることは理解できます。しかし、大人の都合ではなく、子どもたち本位の視点に立って、10代から20代前半というとても貴重な時期の学び方を、もう一度見なおしてみてもよいのではないかと思います。これは、音楽に関わるものとしての良心から申し上げているつもりです。

就職を控えたあなた

音楽やベースが好きで、就職してもずっと続けたいと思っているかたも少なくないでしょう。音楽は一生涯楽しめる趣味であり、また、世代や職業を超えた音楽仲間の存在は人生にとってかけがえのない財産になります。

しかし、就職するとまとまった練習時間がじゅうぶんに確保できないという声をよく耳にします。確かに学生時代も学業や就職活動、アルバイトなど、それなりに忙しく感じていることと思いますが、社会人になってから振り返ると、「当時は一所懸命だったけれど、今思うとまだまだ時間に余裕があったな」と感じるというのが、多くの社会人の率直な感想だと思います。

社会人になりたてのうちは、生活環境が変化し新しい仕事を覚えたり職場に適応したりして楽器の技術を維持するだけでもたいへんなため、新しい課題にじっくり取り組む余裕がないかもしれません。これまでの変な癖を直そうとするには、一時的に見かけ上、下手にならなくてはなりませんので、さらに根気や精神力が必要となります。

したがって、忙しいなりにも時間が取れる学生のうちに、奏法を総点検して技術的な「貯金」をしたり、一曲でも多くのレパートリーを身につけてたりしておくと、生涯にわたって音楽を続けるための大きなアドバンテージ、あるいは余裕や自信につながると考えます。

保護者や学校の指導者の方へ

学生・生徒の「本業」は、勉強や学問であることはいうまでもありませんが、スポーツや文化活動の経験がその後の人生の豊かさに与える影響は決して少なくないはずです。音楽のアンサンブルとは、さまざまな楽器奏者がそれぞれ責任と役割を果たし相互作用しながら作りあげるとても社会的な活動です。ときに失敗したり葛藤することもありますが、そこから得られる経験はかけがえのないものに違いありません。

また、人生全体を見渡しても、この時期は音楽やスポーツなどの趣味に打ち込むにはたいへん貴重な期間といえます。まとまった時間があり、身体と脳がしなやかで、常にまわりに仲間がいるからです。

音楽仲間の存在は、社会人になってから仕事をきっかけとした付き合いとはまったく異次元の貴重なものになるはずです。そして、音楽仲間は、たとえ転勤や子育てのような中断期間があるとしても、ゆるやかに継続した音楽活動を通じて維持されるものだと思われます。

ところが、残念なことにせっかく部活動でジャズやベースに出会っても、卒業をきっかけにやめてしまう学生・生徒が少なくありません。これは、ひょっとしたら人生にとって大きな損失かもしれないのです。その理由を私なりに分析したのですが、部活動は楽しんでいるものの、音楽や楽器の本当の魅力には触れていないのではないかと考えるようになりました。

スポーツやほかの文化活動にも共通していると思いますが、ジャズを続けるモチベーションは、音楽をより深く楽しむことで維持されると考えます。したがって、たとえ学生の趣味とはいえ、学生・生徒の能力を十分に引き出し、音楽の魅力を実感してもらうには、きちんとした知識と技能の裏付けをもつ専門家が適切に関わることがとても重要だと考えます。部活動が「楽しい思い出」以上に充実し、今後の人生にとって本当の実りになるような意義深いものとして作用し続けることこそ、教育の本質ではないかと考えます。